作品タイトル不明
第381話 めでたいウォームアップ
妻夫道中の勝者はエフィルとなった。 ……これ、勝者って表現で合っているのかな? まあいい。兎も角、ツバキ様による厳正なジャッジの下、そうなったんだ。何でも今回のような投擲以外での手段でボールを当てる事は、過去にも例があったんだという。何でも、ボールを高速で射出するカラクリを作ったり、魔法に乗せてボールを当てた奴なども居たんだそうだ。普通であれば反則になりそうなものだが、その後、その者達にも妻夫道中の御利益が確かにあった為、正式にアリと判断されるようになったんだとか。
尤も、列の面々に怪我をさせてはならない、開始からある程度の時間が経過するまでは投擲のみ、決められたエリアから出てはならない等々、流石に細かいルールは設けられはしたようだ。で、エフィルはそんな細かなルールを熟読し、今であれば問題ないといったタイミングで、俺の頭を射止めた訳である。
「わっ、ケルヴィン君の額にペイントがくっきり! うーん、見事にやられちゃったね?」
「僭越ながら、やりました」
「クッ! まさか、ここまで仕込んで来るとは……!」
エフィルが射った矢は、先っぽが 鏃(やじり) の代わりにボールの付いた特殊なものだった。当然の事ではあるが、いくら弓の名手であるエフィルであったとしても、これでは矢の速度が落ちてしまう。それこそ、普段からエフィルに射られ慣れている俺であれば、不意打ちを食らっても躱せるほどだ。だが、俺は食らってしまった。それはなぜか?
「しかし、メルまで協力していたとはな……」
「べ、別に御馳走に誘惑された訳ではありませんからね!」
とか言いつつ、口の周りにご飯粒を付けているベタなメル。ってな訳で、まんまと買収された此奴が原因その一である。具体的に何をしたかと言うと、青魔法でエフィルの姿と気配を消していたんだ。
「多くの人々がひしめくこの場所ですが、決められた狭いエリア内では、ご主人様に発見される可能性がありました。事実、セラさんやハクちゃんは発見されていましたし」
「メルの買収…… その手があったか! けど、事前にその事に気付けたとしても、エフィルの御馳走以上のものを用意するのは至難の業……!」
「な、なるほど、どっちにしたってメル姐さんはエフィル姐さんの味方、っつう訳ですかい。こいつは一本取られたぜ、流石はエフィル姐さんだ!」
「フッフッフ、私の力は安くないのですよ」
メルさんや、ご飯粒を付けたままのドヤ顔はアホっぽいですよ。あ、ごめん睨まないで睨まないで。そうです、メルさんの力を見抜けずに射られてしまった真のアホは俺の方です。
「これだけ人が溢れ返っているんだもん。メルさんの魔法で姿と気配を消されたら、正直きっついよね~。スキルなしの状態なら、私でもギリギリかな?」
「それでもギリギリと言えてる辺り、流石はアンジェだな…… あとさ、『隠弓マーシレス』を使っていただろ? あれって普通の矢にも有効だったのか?」
隠弓マーシレス、かつてエフィルの為に俺が作り出した、隠密用の弓である。魔力を篭める事で矢が自動生成され、弓を引く音も射る音も一切せず、放った矢にも隠密効果が付与される優れものだ。生成された矢は目標に当たった直後に消失し、証拠も一切残らない――― のだが、前述の通り、その自動生成の矢は今回用いず、予め用意したボール付きの矢をエフィルは使っていた。そんな試み、今までやった事がなかった筈だ。
「こっそりと検証してみたところ、自動生成の矢以外にも隠密効果は付与されるようです。もちろん元々存在する矢ですので、直撃後に消失はしませんが」
「そ、そうだったのか? 知らなかった……」
製作者である俺も初耳、まさかの事実がここに爆誕! ……とまあ、完全隠密状態の射手と矢のコンボに、俺は敗北してしまったようだ。いやあ、ここでマーシレスが出て来るとはね。通常の戦闘であれば、射撃のタイミングに生じる殺気を何とか嗅ぎ取って、これまた何とか対処する! という方法もあったんだが、エフィルは今回俺を倒す為に矢を放った訳でもない為、そういった殺気成分もごく薄いものだったんだ。うん、これは無理。防げないですわ。セラみたいに殺気マシマシで投げくれれば分かるんだけど、エフィルはその辺も計算していたみたいだもの。
「でも、ちょっと意外だったかな。エフィルちゃんがそこまで必死になるなんてさ」
「あー、少し分かるかも。こういった催しには一歩引くイメージがあるものね」
「それは、その…… お恥ずかしながら、ご主人様から頂ける御利益を他の方に渡したくなくって、ですね…… あぅ……」
口元を両手で隠し、視線を逸らし、カァ~~~っと顔と耳を真っ赤に染め上げるエフィル。はい、役満を食らいました。俺の心がハコテンになりました。白旗です。
「も~、エフィルちゃんったら可愛過ぎ! うりうり~!」
「わわっ、アンジェさん!?」
そんなエフィルとアンジェが戯れ合い、俺の心に更なるダメージが――― クッ、これが死体蹴りというものなのかッ……!
「ケルヴィンよ、楽しんでいるところすまぬが、もう次の儀式が始まるぞ? さあ、気張るのじゃ!」
「えっ?」
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俺とアンジェを天辺に据えたぶつかり神輿(超絶的なバランス感覚で絶対に落ちないアンジェ)、刀を主体とした剣術の御前試合(なぜか相手方に居るニトおじさんとジェラール、プラス刹那)、付与した魔力によって炸裂後の内容が変化する花火対決(火の扱いなら任せろとばかりにエフィルとエマが参戦)――― 他にもトラージ伝統の謎行事が続きに続き、なぜかその内容が俺好みのものになっていた。
……さて、どうツッコミを入れていくべきか。最早結婚式のイベントというよりも、そのまま祭りの集合体になっている感じだよな。最初の妻夫道中は兎も角として、後半の方は本当に結婚式に纏わる行事なのか、本当に怪しいところだし。まあ、俺としてはどれも楽しいイベントで満足満足、つまりは特に問題はなかった訳で。それに、どれも準備運動に適したものだった。
四方から迫る 攻撃(ボール) を躱しまくる事で生存本能を養い(額をエフィルに射られたけど)、前後左右上下に激しく揺れる神輿で不倒の精神を鍛え(俺が落下するまでアンジェは余裕そうだったけど)、剣の達人たちと矛を交えて接近戦を見直し(おじさんやジェラールだけでなく、最近凄い勢いで伸びて来ている刹那にも剣で負けたけど)、花火玉で魔力の精密な操作に集中(飛び入り参加のマリアが一番ド派手な花火を打ち上げたけど)――― その以外にも、俺や仲間達の肩慣らしに丁度良いイベントが盛り沢山であった。
「ったく、どこまで先を見据えた式にしてんだか。俺達を楽しく整えてくれちゃって、本当に困っちゃうよ」
「ツバキ様としても、お祭り効果で集客もバッチリだもんね。一部の隙もないプランニングだよ」
「うん、遂にお祭りって言っちゃったね?」
まあ、そんな些細な事よりも恩恵の方がでかいので、これ以上は気にしない事にする。それよりも、だ。
「いぇ~い、飲んでる飲んでる~? 妾、結構飲んじゃってやりらふぃ~。え、そろそろ時間? 何の? ……あっ、うん、冗談冗談、覚えてるよ、妾ちゃんと覚えてる。少し待ってね、アルコール飛ばすから。ふんッ!」
思いっきり酒らしき飲み物を口にしていたマリアが、式の係員らしき人に何かを言われ、突如として気合いを入れ始めた。で、おもむろに俺達の方へとやって来て―――
「待たせたね、“ちょっと待った”の時間だよ、御両人!」
―――あ、はい。ところで、アイドルは酒を飲まないんだかって言ってなかったっけ?