軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第359話 覚悟の攻撃

「ごほっ……」

吐血が止まらない。鼻血だってそうだ。目からも血の涙が形成されている。『 天山靠(てんざんこう) 』とやらを食らわせられたセラの状態は、お世辞にも良いものではなかった。今そこに立っているのが不思議なくらいである。いつもであれば、流れた血は直ぐに止まる筈。しかし、それらが治る兆しも一向にない。あの体当たりのダメージが今も体内で継続しているのか、それともセラの治癒力をもってしても補えないほどのダメージだったのか――― どちらにせよ、これ以上の戦闘は危険だ。残った力を酷使するにしても、精々出せて攻撃がもう一手。セラ、それで決める事ができなかったら、流石の俺もタオルを投げるからな?

「セラちゃん、あんま無理しない方が良いと思うよ? アレをまともに食らった後なんだ、下手をすれば後遺症が残るかもしれない」

「後遺症が、なんぼのもん、よ…… 私にとって、は…… ケルヴィンとの、結婚の方、が…… ッ!」

―――ギギギギギッ!

攻撃を食らった直後に抱き締めた為、背中から両腕ごと久遠を拘束する形となっている。セラは万力の如く締め続ける…… が、久遠の顔に焦りの色はない。

「凄い力だね。腕の骨どころか、背骨まで砕けてしまいそうだよ。『手詰』まで併用して、体が全然動かないや」

「その割に、は…… 随分と、余裕、そうじゃない、の……!」

「うん、そうだね。まだ見せていなかったけど、おばさんには肉体を硬質化させる 術(すべ) がある。このまま何時間締められようとも、ダメージなんてものは殆ど期待できないと思うよ? まっ、それを使っている間は動けないってデメリットもあるけど、そもそもが動けない今となっては関係ない」

「………」

「セラちゃん、もう一度言うよ? それ以上無理をするのは止めなさい。“ちょっと待った”の勝敗を気にしているのなら、おばさんの方からマリアに上手く伝えておくからさ? だから―――」

「―――だからと、言って…… 無理をしない理由には、ならないってぇのぉぉぉ!」

「ッ!?」

久遠を抱き抱えたまま、セラがその場より大きく飛翔する。これまでの何よりも素早く急上昇し、結界の最上段近くに迫ったところで急反転、今度は崩壊した地上部に向かって急降下を開始――― おいおい、まさか。

「頑丈になったって、言うのなら…… それ以上の破壊力を、加えるまでッ……!」

「まさか、このまま自分ごと地面に衝突する気? 私の『地殻返し』の影響で多少は耕された状態だけどさ、それでも脳天直撃コースは自殺行為だよ? おばさんが気功で守りを固めている分、ダメージもセラちゃんの方が酷い事になるのは明白だ」

「アハハッ、それはどうかしら、ねッ……! 久遠、貴女の方が頭一個分、先に落ちると思う、けど……!?」

「……だとしても、私の有利は揺るがない」

やはり、か。セラは久遠を抱き抱えたまま、空高くから地面に衝突するつもりだ。確かに位置関係としては、抱えられている分、久遠の頭が先に地面と衝突する事になる。が、だからと言ってセラへ伝わる衝撃が完全にシャットアウトされる訳ではない。現状でさえ危機的状況にあるセラが、これ以上のダメージを受ける事になれば、最悪のパターンも想定される。そうなれば、俺は……

「………」

「……セラ?」

ふと、急降下を続けるセラと視線が合った。ほんの一瞬、本当に刹那の出来事である。

「……ああ、そうか。分かったよ、俺はお前を信じる」

「良いのん?」

「ああ、誰が何と言おうと、俺はセラの選択を信じるよ。少なくとも、あいつがあんな目をしているうちはさ」

「あらやだ、妬けちゃうわねん。一体どんな目をしていたのん?」

「自分の勝利を欠片も疑っていない、悪魔らしい傲慢な目だよ」

それでいて、俺が愛して止まない目だ。当然、こっちは直接口にはしないけどな。またどこかでポエマーだのと言われるのはごめんだ。 ……え、前半部分で結構なポエマーだって? ハハッ、まさかそんな。

「頑固にもほどがあるね、まったく。お願いだから、後悔だけはしないでおくれよ!」

「やらない後悔よりも、やる後悔――― ってね……!」

急降下を続けていたセラと久遠が、遂に地上部へと到達する。そして、衝突。その瞬間に起こった衝撃は凄まじく、耕された大地が再び宙へと舞い飛んだ。しかも、衝撃はそれだけに終わらない。一度衝突音が轟いたかと思う、ダァンドォンと続け様に更なる轟音が鳴り出したのだ。その度に大地が膨れ上がり、次いで爆発し、結界内の地上部は常に踊り狂っているかのようであった。

「これは…… 相当深くまで潜ったみたいだな。地下からまだ音が聞こえてくる」

「それと同時に、衝撃もねん。コレットちゃんの結界がなかったらぁん、このエリア一帯が酷い事になっていたわん。けどぉ~、ここまで深いと生き埋めを心配しちゃうわねん。大丈夫かしらん、二人ともぉ……」

「なぁに、きっと大丈夫――― っと、どうやら止まったみたいだ」

大地の下へ下へと突き進んでいた二人の気配が、この時になって漸く停止した。死力を尽くしたセラ最後の攻撃だ。こんな地下深くまで到達したとしても、何の不思議もない。そう、不思議はない、のだが…… 何か、変な違和感がある。んん……?

「ケルヴィンちゃん、二人が地上に戻って来るわよん」

「あ、ああ……」

違和感の正体が分からないままであるが、一先ずカメラを衝突地点へ固定する。どちらかが片方に肩を貸しているのか、セラと久遠は同時に上へと登っているようだ。この速度であれば、もう数分もすれば姿を見せてくれるだろう。

―――で、数分後。

「「あー、しんどッ!」」

衝突によって形成された大穴より顔を出したのは、セラと久遠の双方であった。全くの同時に、である。そして、これまた同時に同じ台詞を口にしている。あ、あれっ? 何か思ったよりも元気だな、どっちも……

「思い付きでやって上手くいったまでは良かったけど、帰りの事は考えていなかったわー。瀕死の状態で長距離ロッククライミングとか、どんな拷問なのよ?」

「その思い付きに付き合わされた、おばさんの気持ちにもなってほしいなぁ。いやあ、すんごい久々にヒヤッとしたよ。本当に命の危険を感じちゃったよ」

そんな文句(?)を吐きつつ、大穴から這い上がり、バタリと大の字になって倒れ込む二人。うん、元気…… だよな?

「な、なあ? 随分元気そうじゃないか? てっきり、どちらかが戦闘不能になったとばかり……」

「あら、ケルヴィンったら私の勝利を疑っていたの?」

「いや、信じていたよ。信じていたけど、こんなにも元気そうなのは予想外だったんだよ。結構な高さから急降下して、不味い勢いのまま地上にぶつかったよね? ぶつかった上、地下深くにまで突き進んでいたよね? 無事が過ぎない?」

「も~、ケルヴィンったら質問ばかりね~。まっ、仕方のない事ではあるけど」

「うんうん、おばさんもすっかり騙されちゃったからね。カメラ役のケルヴィン君がそう思っちゃうのも、まあ仕方ないかな?」

「お前ら、急に俺をいじり倒してくるのな…… つか、もう戦闘は終わったのか? あまりに予想外の出来事でスルーしちゃったけど、それだけ元気なら、まだ勝敗は―――」

「―――いえ、勝敗は決しました! この勝負、セラ様の勝ちです!」

うわ、ビックリした! ずっと俺のうなじに顔を埋めていたコレットが、急に喋り出したって、ん? 何ですと?