作品タイトル不明
第340話 肝試し
コレットと結婚する為の儀式群、その午後の部を開始する。前述の通り『英霊の地下墓地』で行われる肝試しに参加する訳だが、何もこのダンジョンの最深部に行く訳ではない。目的地はダンジョンの中間層に位置している為、移動にそう時間は掛からないだろう。
「では、行って参ります」
「巫女様、ケルヴィン様、お気をつけて……!」
「我ら信徒一同、この場所よりお二人様の無事をお祈りしております」
「ケルヴィン殿、コレット様をよろしくお願い致します」
「お二人に幸あらん事を……」
と、出発間際にリンネ教信徒の皆さんから、そんなお言葉を賜る。おお、見送りが普通だ。最近だとメルを崇拝する天使の皆さんの印象が強くて、こんな風に送り出されると、逆に新鮮に感じてしまうよ。そうだよな、推しの名前入りの法被は着ないし、見送りのオタ芸を舞ったりしないし、崇拝対象を乗せた神輿も普通は担がないもんだよな。いやはや、俺も知らぬ間に毒されてしまっていたようだ。
「ケルヴィン様、如何されましたか?」
「ん? あー、何気ない日常の有難さを実感していたところだ」
「……なるほど。メル様やケルヴィン様が身近にいらっしゃる日常は、確かに奇跡に等しい代え難きもの。その日々に感謝しつつも、私達は今から、その在り方を変えようとしています。仰る通り今こそが、何気ない日常の有難さを噛み締める時なのかもしれませんね」
「あ、ああ……」
すまん、コレット。別に俺、そこまで深い事は考えてなかったんだ。頭の片隅になったのは、熱心に活動をする天使の姿だったんだ……
まあ、うん、ともあれ出発だ。信徒の皆さんの期待に応えるべく、コレットの身の安全は絶対条件となる。中間層付近に出現するのは基本がA級モンスターで、S級との遭遇はレアケース。今回は子供達が人質にされていないから、突破を急ぐ必要もない。この条件であれば、ルート上を間引きするまでもなく、ピクニック気分で歩いて行ける計算――― なのだが、まあ、そう上手く事が運ぶ筈もないだろう。その辺は最初から覚悟している。どこで“ちょっと待った”をされるか、それが問題だ。
「私達がこの儀式に参加している間は、元々騎士団の管理下にあったエリアも無人状態になります」
「って事は、序盤で“ちょっと待った”をされる可能性もある訳だ」
「はい。ですが『英霊の地下墓地』は第一層が最も狭く、第五層、六層が最も広いつくりになっていますから……戦う場所の広さを考慮する相手であれば、目的地付近で宣言される可能性が高いかと」
「俺としてもそっちの方が有難いかな。やるならやるで存分にやりたいし」
螺旋階段を下りながら、コレットとそんな話をする。この間、彼女の安全をより高める為、手を繋ごうともしたんだが――― 聖女モードの維持が困難になる為、今回は見送る事になった。いやあ、難儀難儀。
ともあれともあれ、聖女モードの維持が可能な距離感を保ちつつ、地下を進んで行く。モンスターが出現しない安全アリア、第一層と第二層には気配らしい気配がまるでない。ここでの“ちょっと待った”の宣言は、取り合えずは回避されたと見て良いだろう。まあ、帰り道で待ち伏せされる可能性もあるにはあるが。
「コレット、ここからはモンスターが出現するエリアだ。絶対に護ってやるから、恐れずに俺に付いて来てくれ」
「はうあっ……」
「えっ、あ、おい!?」
勇気づけようと俺がそう言った直後、立ち眩みを起こしたのか、コレットが体のバランスを崩してしまった。敵からの未知の攻撃か!? などと一瞬心配したが、どうやら違うようで。
「す、すみません。ケルヴィン様からゴッドルッキングガイなお言葉を頂戴して、嬉しさのあまり信仰心が溢れかけてしまいました……」
「そ、そうか……」
……だ、そうです。ゴッドルッキングガイな言葉とは一体?
「おっと、いらっしゃい。随分と遅かったね? ひょっとして道中、イチャイチャでもしてた?」
コレットを護りつつ周囲を警戒しつつゴッドルッキングガイについて考えていると、第五層のとある広間にて待ち人現る。まあ、待ち人と言うには本来の意味からほど遠い人物だし、言ってしまえば本日の敵な訳だけど…… しかし、それにしても。
「おいおい、結局お前が今日の相手なのか? 謎の剣士S――― もとい、セルジュ・フロアさんよ」
そう、この場所にて俺達を待っていたのは、古の勇者にして、最も謎の剣士疑惑があったセルジュであったのだ。
「先に言っておくが、別にイチャイチャしていた訳じゃないからな? ゴッドルッキングガイについて考えていたんだ」
「何それ?」
「ゴッドルッキングガイ、それはつまりケルヴィン様です!」
「そ、そう?」
力強いコレットの言葉に、セルジュは若干引き気味だ。安心しろ、俺だって未だに意味を理解していないから。
「それよりも、だ。お前、あれだけ自分じゃないと否定しておいて――― って、後ろにも誰か居るな?」
「……流石は死神ケルヴィン、私如きが気配を消しても、容易く見破ってしまいますか」
そう言ってセルジュの背後から現れたのは…… おお、こっちは意外。シスター・エレンだ。かつて『代行者』として暗躍していた彼女だが、今は力の殆どを失い、デラミスの孤児院で元の生活を送っていた筈。セルジュとも繋がりのある彼女だけど、この場に現れるとは、正直予想していなかったな。
「驚いたな。シスター・エレン、今は孤児院で活動なさっていたのでは?」
「ええ、お陰様で子供達と共に、平穏に過ごしています。私としても“ちょっと待った”に参加するつもりはなかったのですが、セルジュにどうしてもと泣き付かれてしまいまして」
「ほう?」
「いやいや、泣き付いてはいないからね!? 誠心誠意お願いしただけで、泣き付いたつもりはないからね!?」
「フフッ。では、そういう事にしておきましょうか」
仲の良い二人である。しかし経緯は兎も角として、セルジュが協力を要請した側なのか。それもちょっと意外。つか、未だにその目的が分からない。
「あー…… 要するにさ、タッグバトルをご所望なのかな? 俺とコレットが組み、そっちはセルジュとシスター・エレンが組んでって感じでさ」
「まあ、そんな感じかな? そこに少~しだけ、特殊なルールを追加したいんだけどね」
セルジュの説明を聞くに、この“ちょっと待った”のメインとして戦うのは俺とセルジュで、コレットとシスター・エレンはあくまでも補助役なんだそうだ。また、メインとなる俺達は補助役に攻撃や妨害をしてはならず、それに違反した時点で反則負けとなってしまう。まっ、コレットとシスター・エレンがバトルフィールドの外で回復やらの支援をしてくれる中、俺とセルジュがバトルをするって感じだな。了解了解。けど、ううむ……
「……こう言っちゃなんだが、そのルールだとこっちが有利過ぎないか? シスター・エレンは神としての、そして巫女としての力を殆ど失っているんだろ? 対してコレットは現役バリバリのデラミスの巫女、補助役のエキスパートみたいなもんだぞ?」
「ケ、ケルヴィン様、そこまで私の事を信頼して……!」
ああ、そこまで信頼しているよ。実力も実績も、誰もが認めるところだよ。
「心配無用、今日のエレンの役割は、多分君らが想像しているのとは、別物、だか、ら…… さ……」
「「えっ」」
その瞬間、俺とコレットは目を見開き、同時に目を疑った。目の前に居たセルジュの姿が、刹那の間に全くの別人に変化したんだ。
「……お久し振りですね、ケルヴィンさん」
聞こえて来た声は男のものだった。聞き覚えのある、だが、もう聞く事がなかった筈の男のものだった。
「お前、舞桜か……!?」