作品タイトル不明
第336話 ジンクス
樽ジョッキ(まんま樽)な挙式の後は、教会外での披露宴が待っている。パーズ流の披露宴は殆ど宴と同義であり、それこそそこいらの酒場のノリで談笑し、飲み比べをし、ところによっては喧嘩が発生、酒に負かされぶっ倒れると言った、何とも豪快なものになるんだそうだ。ちなみに今回の俺とリオンの式には、パーズの冒険者達も数多く参加している。となれば、今後の展開は容易に想像できる訳で。
「ケルヴィンとリオンの未来を祝して――― かんぱぁーい!」
「「「「「かんぱぁーい!」」」」」
今日何度目の乾杯になるだろうか。定期的に挙げられる祝杯は「酒を飲むぞ!」の合図でもあり、その度に一気飲み大会が開催される事となる。で、本日のメインキャストである俺とリオンは、それに強制参加させられる訳で――― いやもう、これって精霊歌亭の飲み会と同じだわ。好きに話して食って飲んでぶっ倒れて、そして寝る。まんま冒険者の宴だわ。まあ外での飲みだから、お腹が冷える前に寝室に運ぶ必要が出てくるが…… そこも我が家のメイドとゴーレム達が何とかしてくれるだろう。苦労をかけてすまぬ。
「しっかしケルヴィン、さっきは男を見せたな! まさか、あの酒を全部飲み干すとは思っていなかったぞ!」
「いやいや、飲み干さないと結婚できないでしょうが。と言うか、そう思ったのなら少しは加減してくださいよ、ウルドさん!」
「ハハハッ、まあまあ、飲み干せたんだから良いじゃねぇか!」
「うんうん、格好良かったよ、ケルにい!」
ウルドさんにバンバン背中を叩かれ、リオンから最上級の誉め言葉を頂戴する。例の如く、ジェラールから『酒豪』スキルを借りてきている俺は、いくら酒を飲んでも悪酔いする事がない。だからこそ、自分よりもリオンを心配してしまうのだが……
「ゴクゴク♪」
……リオン、予想以上に酒豪。い、いや、元より小食だったから、飲む量はそれほどでもないんだが、さっきから全く酔っている様子がないのだ。ひょっとして、『絶対浄化』でアルコールまで分解してません? と、そんな疑惑の最中である。
「それによ、仮に無理だったとしても、別に結婚できねぇ訳じゃなかったんだよ」
「え、そうなんですか?」
「ああ、実際パーズで行われる式の半分くらいは、その場で失敗しちまうからな。その時は夫の代わりにコップ一杯分の酒を嫁さんが飲んで、それで解決って寸法だ」
「へ~、そんな救済処置があったんですね。 ……あれ? じゃあ、あそこまで無理をする必要もなかった?」
「いやいや、全く意味がない訳でもないんだぜ? 飲めなかった場合、今後の結婚生活で嫁さんに尻に敷かれる可能性が高くなるって、そんな迷信もあるんだよ」
「また、えらくピンポイントな迷信ですね。 ……えと、好奇心から聞くんですけど、ウルドさんとクレアさんの式の時は、どうなったんです?」
「俺らの時か? んー、あんまり声を大にしては言えないんだが、まあ、アレだ…… パーズの中では比較的レベルの高かったからなのか、盛大に失敗したぜ! いやあ、ケルヴィンほどじゃなかったが、見た事もない馬鹿デカなジョッキになみなみ酒を注がれてよ、極度の緊張と相まって、あろう事か途中でクレアの顔に吹き出しちまったんだよ!」
「ええっ!?」
「直後にクレアからグーパンされるはで、今思い起こしても散々な挙式だった! ハッハッハ!」
「ハ、ハハッ……」
ウルドさん、それを笑い話できる器のデカさがすげぇ。と言うか、現在クレアさんに尻に敷かれているのを見るに、それってあながち迷信ではないんじゃ……?
「ああ、そういや俺も失敗したっけな」
「俺も俺も!」
「つうか、成功したの今回が久し振りだったんじゃねぇか? まあ、俺も駄目だった訳だが」
別の冒険者達が、次々に失敗談を明かしていく。何の偶然なのか、揃いも揃って奥さんに尻に敷かれている面子であり――― うん、確信した。これは相当に強力なジンクスのようだ。加護か、或いは呪いなのか。一種の隠しステータスになっているんだと思う。いやはや、俺もあの時に失敗していたら、リオンに尻に敷かれる未来になっていたんだろうか? ……それはそれでアリ、か? ううむ、難しいところだ。
「ケルにい、そんな難しい顔をしてどうしたの?」
「ん? ああ、いや、何でもないんだ。迷信云々に関係なく、俺の覚悟を示す事ができた良かったなって、今更ながらに実感してさ。まっ、失敗しても満更じゃないんだけどな!」
「フフッ、何それ? 変なケルにい」
そんな風にリオンと笑い合っていると、会場の一角から大歓声が沸き起こった。何だ何だとそちらの方に視線をやると、メルと黄ムドが渾身のガッツポーズを決めているではないか。何をやっているんだ、あの二人は……
「で、でけぇ……」
「え、嘘? アレ、本物?」
「ど、どうなんだろ? 場所よっては偽物を出すところもあるらしいけど、匂いがもう凄い美味しそうだし……」
「おいおい、一体何メートルあるんだよ?」
「すっご……!」
二人に続いて、他の者達の口からも様々な声が聞こえてくる。それと同時に、家くらいのサイズはあろう、途轍もなく大きな何かが会場に現れて――― ああ、そうか。なるほど、アレが来た訳か。
「どいたどいた! 特製ウエディングケーキが通るよ!」
「ご主人様ー! リオン様ー! どうぞこちらへー!」
威勢の良いクレアさんの声、皆が酔いしれるエフィルの声と共に俺の視界に入ったのは、家サイズのデカデカ特製ウエディングケーキであった。言うまでもないが、 最強師弟コンビ(クレアさんとエフィル) による合同作品である。企画自体は前もって知っていたけど…… うーむ、でかい。しかも美味そう。メルとムドが目を輝かすのも納得の出来だ。
「さっ、ケルにい! これから僕達の共同作業だよ!」
「ああ、実に王道だな。気合を入れよう」
もちろん、このケーキに入刀するのが俺達の初となる共同作業だ。ウルドさん達に行って来ますと挨拶し、ケーキの下へと向か――― うお、近くで見ると更にでけぇ。細部も丁寧に飾り付けされているし、苦労して作ったのが見るだけで伝わってくる。二人とも、本当にありがとう……!
「確かにケーキ入刀は王道だけど、ケーキとナイフのサイズが釣り合ってないんじゃ……?」
「そのまま切り分ける訳じゃないし、ナイフを入れるだけでしょ? 本当に切り分けるのはその後でしょ、流石にさ」
「なあ、やっぱ入刀する場所だけ本物で、他の部分は偽物なんじゃねぇか?」
皆々が色々と言っているが、否、断じて否である。ケーキは全部本物だし、俺達はこの入刀でケーキ全てを切り分けるつもりだ。諸々の感謝の気持ちを込めて、責任もって切り分けるつもりなのだ。
「お待たせ致しました。これより、ケーキ入刀を始めます。と、その前に皆様、お皿とフォークは行き渡りましたでしょうか? まだの方はお近くの係の者に申し出てください」
「皿にフォーク? ケーキ入刀に何でそんな準備をするんだ?」
「入刀の後、直ぐに切り分けて配るのかしら?」
疑問も色々あるだろうが、まずは皿を水平に持って頂きたい。話はそれからだ。
「……はい、行き渡ったようですね。では、ご主人様」
「ああ、ここからは俺達に任せてくれ。リオン、準備は?」
「いつでも行けるよ!」
リオンと寄り添い、二人でケーキナイフを握る。ここまでは通常の入刀フォームとそう変わらないだろう。が、ここからは違う。俺が『 大地の研磨(グランドクリーヴ) 』を、リオンが『 稲妻超電導(ライトニングヴァスト) 』を発動させ、ライオンが獲物を狙っている時にように、姿勢を低くして身構える。後は剣先をケーキに向けて、と…… さあ、解体するぞ!