作品タイトル不明
第269話 波羅蜜
「そっちの世界にも固有スキルってあるのか?」
「そりゃあるよ~。種類としては、多分この世界と同じ扱いなんじゃないかな? 私だけの特別な能力! って感じだね。ちなみにだけど、マリアも固有スキルを持っていてね。『賢者の血』って言うんだけど、これがまたどうしようもない力で―――」
「―――はい、ストップ! 勝手に身内の能力をばらすなって!」
「あっ、ケルヴィン君は勝率よりも戦い自体を楽しみたい人だったっけ? これはうっかりうっかり」
危ねぇ、ギリギリだった……! ったく、戦いが終わった後も油断できないじゃないか。
「じゃ、今回の説明は『 波羅蜜(はらみつ) 』だけに留めておこうかな? この力はね、異世界攻略に特化した力なんだ」
「へえ、異世界攻略に特化か。 ……先生、説明が説明になってないです」
「えっ、ニュアンスで理解できない?」
無茶言うなやと、俺は両腕で×印を作る。
「まあ言ってしまえば、自分が元居た世界ではない別次元の世界に立つ事で、漸く使う事ができる固有スキルって事だよ。私が今居るこの場所は、ケルヴィン君達の世界でしょ? だから今は使えるの」
「ややこしい発動条件の能力だな。それに、妙に条件が厳しいような――― って、待て待て。その説明が本当なら、久遠やマリアが元居た世界じゃ全く役に立たなくないか、その能力?」
「うん、無用の長物ってやつだね! あははっ!」
「全然笑うところじゃないだろ……」
稀によくあるレベルで起こる、俺の転生や刀哉達の転移とは違って、別次元の世界に行くなんて事は、本来は滅多に起こらない筈だ。いや、マリアと久遠の存在は、あのアダムスからしても珍しく思えるものだった。滅多どころか限りなく皆無に近いだろう。そんなレアケース中のレアケースにしか発動できない固有スキルなんてものを、どうして久遠は会得してしまったんだろうか? まあ固有スキルの会得方法が俺達と同じであるのなら、久遠が自発的に欲したんじゃなくて、レベルアップの最中に勝手に覚えていたんだろうけどさ。
「いや~、やっぱり本格的なレベルアップ前から、マリアと一緒に異世界旅行に洒落込んでいたのが不味かったのかなぁ?」
「……もう一回待ってくれ。結構頻繁に行っているのか、今回みたいな異世界旅行って?」
「うん? うん、数ヵ月に一度くらいの頻度で行ってるかな? マリアのお仲間にさ、点と点をゲートとして繋げるのが得意な人が居るんだ。今回はマリアが召喚されちゃうって珍しいパターンだったけど、普段はそのゲートにお世話になっていたりしてさ。あ、私がマリアを追って来た時に使ったのが、そのゲートね」
「何だその便利能力は!?」
正直、俺もその力が欲しいんだけど。今度握手しに行っても良いかな? 悪食の篭手(スキルイーター) に刻み込みたい。
「んー…… でも、思ったよりも便利な力じゃないっぽいよ? そのゲートの本来の使い方って、同じ時空の世界にしか繋げられないらしいし、一度ゲートを開いたら暫くチャージタイムが発生するとか何とか、そんな事を言ってたもん」
ん、んんっ……? ってなると、デラミスの巫女が行う異世界転移に近い力なんだろうか? いや、ゲートを作るって事は、星と星を繋ぐ超長距離仕様の転移門ってところか。チャージタイムが必要とは言え、それはそれで凄まじい力だと思うんだが。しかし、確かにそれだと別次元の世界には繋がらない。
「じゃあ、別次元の世界にはどうやって?」
「それがさ、行き先のゲート作成位置をランダム設定にする事で、ごく稀に別次元の世界に繋がる事もあるみたいなんだ。私も詳しくは知らないけど、マリアがそのゲート作りを手伝う事で、繋がる確率が格段にアップするんだって。ただそれでも、行き先のゲートがどこに発生するかは本当にランダムになっててさ、運が悪いと宇宙空間に繋がっていたりして、とっても危険♪」
愉快そうにしているところ悪いんだけどさ、それは危険どころの話じゃないと思う。
「しかも実際にゲート使うまで、どこに繋がっているかが、作った本人達にも分からないんだ。ゲートを潜って窒息死とか、なかなか笑えるコメディだよね~」
「何でそこが笑いどころになるんだよ…… つか、毎回そんな命懸けで旅行してんのか?」
「ううん、いくら鍛えたところで、おばさんは所詮人間だからね。未知への第一歩は、いっつもマリアに任せて安全確認してもらってる」
「あー……」
確かにあれだけの生命力を持つマリアであれば、たとえ宇宙空間に放り出されたところで死にそうにない。そのまま宇宙を泳いで、近くの星にまで行ってしまいそうだ。
「で、先遣のマリアがここなら大丈夫だなって判断したら、手持ちのスマホで私に連絡する流れになってるの。マリアのスマホには位置情報は発信する機能があるから、次からはゲート作りの職人さんも、ピンポイントで道を作れるって訳なのさ」
「な、なるほど?」
スマホのGPSって、別次元にまで情報を提供できるもんだっけ……?
「ま、まあ、久遠が頻繁に異世界に行く事ができた理由は分かったよ。それで話を戻すけどさ、そんな厳しい条件下でしか発動しない固有スキルって事は、それだけ能力も強力なんだろ?」
「まあね。ケルヴィン君がさっき言っていた、魔法を無効化しているって推理…… アレ、惜しいところまで行ってるよ。ダメージは受けてるってところを含めてね」
負傷した両手を俺に見せびらかす久遠。比較的無傷とは言え血だらけの重傷なんだから、笑顔で突き出すなよと。
「私の『 波羅蜜(はらみつ) 』はね、異世界に居る限り、純粋なダメージ以外の害を全て排除してくれるの」
「全て、か?」
「うん、全部! さっきの模擬戦で言えば、ケルヴィン君が使った重力操作、束縛や状態異常、光による目暗ましなんかが対象だね。そのお陰で本当に対処すべき魔法が絞れて、この程度の怪我で済んでるって訳なのさ。えへん!」
「……なるほどな。薄々そうかとは思っていたが」
ない胸を張りながら――― いや、すまん、今のは失言だった。兎に角、久遠は自信満々に教えてくれた。『 波羅蜜(はらみつ) 』、発動条件の難しさに見合った強力な固有スキルだ。この固有スキルさえあれば、久遠に対する搦め手が一切意味を成さなくなる。対象が魔法という範疇に収まらないところからして、シルヴィアの『二重魔装甲』よりも厄介かもしれない。
「シルヴィアの固有スキルよりも、ひょっとしたら魔王の『天魔波旬』に似ているか? あっちは一切のダメージの無効化だったし、この世界、いや、この星に住む者に限定するって条件もあった。他の類似点は、ブツブツ……」
「ちょいちょい、私を置いて自分の世界に入らないでくれないかな?」
「ん? あ、ああ、すまんすまん。ユニークかつ強力な能力だったからさ、考察が捗るんだよ。能力を知って尚、攻略法が思い浮かばないってのも、久し振りでさ」
「まあ地元じゃ使えない力だし、そんな簡単に攻略されたら私が困っちゃうからね。別次元の人達って、常識に囚われない摩訶不思議な力を持っている場合が多くってさ、これでも重宝しているんだよね~。異世界旅行には必須だと思います!」
「必須って…… 別次元の奴らって、そんなに危険な輩ばかりなのか? つうか、旅行ってよりも戦いがメインで行ってないか?」
興味本位で聞いてみる。うん、本当に興味本位で。
「私達にそのつもりがなくても、行き先が必ずしも秩序立った世界とは限らないからね。初っ端から敵意剥き出しの場合の方が、正直多いくらいかな。ほら、私やマリアってば、黙っていればそれなりに可憐でしょ? 特にマリアなんかは、着ているドレスも明らかに高価なものだし。だからさ、治安が悪い場所だと…… ね?」
「なるほど、向こうからゴングを鳴らしてくれると」
なかなか考えているじゃないか。参考になる。
「まーた変な事考えてる。まあ、私も嫌いじゃないけどさ。ええと、何だっけ? ああ、そうそう、治安の話ね。私達にちょっかいを出す大抵の奴は有象無象で、勝負にもならないのが正直なところだよ。けど、どこの世界にも異質な存在ってのは居るもんでさ、そのクラスの実力者ともなれば、色々と理不尽な能力持ちが多いんだ。えっと、最近だと視界に入れるだけで相手を即死させるとか、そんなのが居たっけ。『 波羅蜜(はらみつ) 』はそんな理不尽を台無しにして、純粋な殴り合いに持ち込ませる為の能力って感じだね」
「へえ、視界に入っただけで即死を…… なあ、それって久遠が大丈夫でも、マリアの方は死んじゃうんじゃないか? 即死だろ?」
「マリアが? あははっ、ないない! どんなに不条理な即死能力を何十何百何千と食らったところで、マリアという存在を消す事はできないよ。即死した瞬間に生き返るもん。生で見た私が言うんだから、多分間違いない!」
「多分って」
「ママ友で飲み友だけど、私だってマリアの全てを理解している訳じゃないからね。でもまあ、仮に肉体全部が消滅させられたところで、どこかに髪の毛の一本でも残っていたら、そこから瞬間復活するんじゃないかな? これは私の勘だけど、そんな気がするよ」
「……それが事実なら、絶句だな」
「絶句しながら笑顔を作るとは、ケルヴィン君も器用だね~」
いや、だってさ、それって死の概念があるのかも怪しくないか? 久遠以上にどうしようもないような気がして、胸の高鳴りが酷い事になってるぞ?
……ところで、今度俺も異世界旅行に同行しても良いかな? え、駄目? 新婚旅行だから、そこは無理を通して――― ああ、そう……