作品タイトル不明
第262話 命の重み
飛び込んだ扉の先に待っていたのは、エフィルと――― その両腕に大事に大事に抱かれた、俺達の娘だった。ハーフエルフの証であるエルフ耳、そしてエフィル譲りの輝かしい金の髪が眩しい。いや、それだけじゃないな。毛先が少し黒い…… か? むむっ、眩しくて直視できないぞ。クッ、何て愛らしくて輝かしいんだ! と、この時の俺は凄まじく感動したものだ。そしてこの泣き声がまた凄い。エフィルに似た素晴らしい美声なのだ。将来は歌手で決まりである。大決定である。
『ふふっ、何をなさっているのですか、ご主人様……?』
『あ、ああ、すまん! エフィル、よく頑張ったな! 本当によく頑張った!』
喜びの回復魔法を大盤振る舞いで詠唱する俺。ベガルゼルドが適切な処置をしていたから、ステータス上の変化はない。けど、そんな事は関係ない。感情の昂りを魔力として放出しないと、正直どうにかなってしまうそうだったんだ。
『ととと、取り合えず、我が子にガッチガチの結界と補助魔法を施しても良いか!? 何かあったら大変だからな!』
『ご主人様、まずは落ち着いて…… それよりも先に、すべき事はなんですか?』
『ッ! す、すまん…… ええと、この子、撫でても良いかな?』
『撫でるだけでなく、抱いてみてください。私達の子供なんですから』
『そそそ、そうだな。その通りだ。 ……あの、赤ん坊ってさ、どうやって抱っこしたら良いんだっけ?』
『ハァ、まったく緊張し過ぎだぜ。ほれ、まずは体の力みを解けってんだ』
我が子を前にした俺のあまりの挙動不審っぷりに、エフィルの近くに控えていたベガルゼルドが助け船を出してくれた。アドバイスをもとにエフィルから赤ん坊を受け取り、自らの腕の中へと迎え入れる。
『………』
まだ目も開いていない、小さな小さな命の重みを感じ取る。それは戦いの中で触れるあらゆる重みと比べ、いや、比べるまでもなく軽いものだった。
『……軽いけど、重いな』
『です、ね。私もそう思います』
エフィルが腹を痛めて産んでくれた、大切な大切な我が子。そう思うと、不思議と重みが増しているように感じてしまう。本当に不思議なものだ。
『あー、先に言っておくな。母子共に健康、理想的な出産だったぜ? まっ、安産ってやつだな。おめでとさん』
『そ、そうなのか? かなり時間が掛かっていたから、てっきり何かあったもんだと……』
『待ってる身からすれば、そう感じちまうもんさ。で、その子の名前はもう決まっているのか? 当然知ってると思うが、産まれた子供の名前は両親に命名権がある。ステータス画面から名付けができる筈だぜ?』
そんなベガルゼルドからの問いに、俺達は一度顔を見合わせ、そして微笑むのであった。
『ああ、ありがたい事に皆が色々と候補を出してくれてさ、選択肢が沢山だ。でも、最後はエフィルと二人で決めた。 ……ララノア、お前の名前はララノアだ』
俺が名前を呼んでやると、ララノアは再びその美声を聞かせてくれた。おいおい、将来は世界の歌姫か? 世界を股に掛けるのか?
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「―――とまあ、そんな感じでさ。俺がララノアを初めて目にした時も相当だったけど、ジェラールや義父さんの時は更に酷かったんだぜ? 二人の嬉し涙で、一時辺りが浸水するくらいだった」
「フフッ、よほど嬉しかったんですね。 ……流石に最後の方は、話を盛ってますよね?」
「いや、マジだけど」
「………」
珍しくシュトラが変な顔を作っている。当然の事だが、シュトラに嘘をつくような俺ではない。今までの話はどれも事実だ。そして、ジェラールと義父さんは暫く出禁となった。色々と反論もしていたようだが、全てビューティーさんが黙らせていた。あの人、いや、あの悪魔、ひょっとして北大陸最強なのでは?
「俺も暫くはエフィルやララノアと一緒に居てやりたかったんだが、今回のこれがあったからな」
「すみません。私だけで済めば良かったのですが、どうにも力足らずで……」
申し訳なさそうにシュンとしてしまうシュトラ。
「え? あ、いやいや、シュトラが謝る必要なんかないって! シュトラが手回ししてくれたからこそ、エフィルの出産に立ち会う事ができたし、その後も何日かは一緒に居る事ができたんだ」
「ですが……」
「むしろ、俺は礼を言いたい。何度も言いたい。俺にできる事なら何でもしてやって良い! って、そう思うくらいに感謝しているんだ」
「……であれば、私としても幸いです。ですが、やはり最後の方は話を盛っていませんか?」
「盛ってない! 本当にそう思っているから!」
「本当に?」
「本当に!」
力強く頷く俺。しかし、どうしたんだろうか? 今日のシュトラは妙に疑り深い。俺がシュトラに嘘をつく筈ないって、聞くまでもなく分かっているだろうに。 ……いや、待て。何だか嫌な予感がしてきたような?
「でしたら何でもやってくれるケルヴィンさんに、私の願いを叶えて頂きたいです」
……なるほど、そうきたか。シュトラもなかなか抜け目がないな。ひょっとしたら始めから俺は、何でも~と言うように、会話をコントロールされていたのかもしれない。ただまあ、セラやメルとは違って、シュトラなら無茶なお願いはしてこないだろう。
まったく、こんな遠回しな事をしなくたって、俺はいつでもシュトラの味方だと言うのに。あ、いや、これはシュトラなりの甘えたいアピールなのか? フッ、なるほどなるほど、そういう事ですか。ならば俺は、その期待に応えてやるまで。存分に、な!
「ハハハ、まさかそこを強調してくるとはな。分かった分かった、シュトラの言う通りにするよ。で、俺に何をしてほしいんだ?」
「私とも子供を作りましょう」
「子供を? なるほど、子供をか。そのくらいの事なら、いつでも―――」
―――待てや。あの、シュトラさん? 真剣な面持ちで何を口走っていやがるんですかね? あ、もしかして何かの罰ゲームだったりします? そんな意気地の悪い罰ゲーム、我が家の者達は誰もする筈がないとは分かってしますが、一縷の望みをかけてそんな流れだったりしませんか? あ、しませんね。マジな時の顔ですよね、それ。
「ケルヴィンさん、動作が全て停止しているようですが、大丈夫ですか?」
「あ、ああ、少しばかり高速で思考を回転させていただけだよ。心配してくれてありがとう。 ……で、何だって?」
「私とも子供を作りましょう」
「……ほわぁい?」
冷静さ保つよう努めていた筈だが、自分でも分かる。今の俺の口調は酷く動揺したものになっていた。
「なぜ、ですか。確かに、まずはそれを説明すべきでしたね」
そんな俺とは反対に、シュトラは本当に冷静だ。 ……冷静、なんだよな?
「先のお話、ジェラールさんとグスタフ王をオチとして使っていたようですが、実際のところは続きがあったと推測しています。同席していたセラさんやメルさんからも、何か言われていたのではありませんか? 例えば…… 次は私の番ですね、とか」
「な、なぜそれを……!?」
確かに二人きりになったタイミングで、そんな話を振られて変な雰囲気にもなりはしたが…… い、いや、時期が時期でタイミングがタイミングだったから、流石に行為には及んでませんよ!? 単にそういった圧があったってだけの話よ!?
「あ、やはりそんな事がありましたか。セラさんに倣って勘も交えての考察だったのですが、案外当たるものですね」
「………」
シュトラ相手に舌戦で勝てる筈がなかろうて! ……つか、ドンドン墓穴を掘っていないか、俺?