軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第259話 最後の大仕事

ケルヴィムの介抱をアダムスに任せ、最寄りのトイレを後にする俺。あの二人についてはゴルディアーナが何とかするって言っていたし、メル印の薬も渡した事だしで、取り合えずはこれで一安心だろう。 ……いや、邪神に酔っ払いの介抱を任せて良かったのかって疑問はあるけどさ。まあ、この際細かい事は気にしないでおこう。聞けばアダムスが酒を飲ませた結果、ケルヴィムが泥酔状態になったらしいし、責任はしっかり取ってもらうって事で。

そんな風に自分を無理矢理納得させながら、俺はセラとジェラールの下へと急ぐ。ダハクが率いる竜王ズ、メルらと一緒に居たシュトラ、ビクトール、セルジュは一足先に 白翼の地(イスラヘブン) を脱出している。その際、セルジュは戦った相手のレムという十権能を捕らえ、いや、抱きしめながら脱出したようで、一応はそちらも無事であるらしい。ある意味で無事でないのかもしれないが、そこはセルジュが今回協力してくれた、必要経費だと思っておこう。南無南無。

しかし、そんな中で他とは違い、自力で脱出できていない者達が居た。そう、俺が今絶賛向かっている最中の、セラ&ジェラール組である。ケルヴィムには海水浴だのダイビングだのと言っておいたが、実際のところは敵の十権能と揃って動けない状況にあるらしい。海面にプカプカと浮かび、波に流されるのみ――― つまるところSOSを出して、救助を待っている状況なのだ。ジェラールなんて更に酷い事に、海の底へと沈んでいっている最中なんだとか。まあ確かに、全身鎧が動けなくなったら、そうなっちゃうか……

「あっ、ケルヴィン! こっちこっち、こっちよー!」

っと、海を漂うセラを発見。その近くで一緒に漂っているのは、イザベルという十権能だろう。 ……何か彼女、すっごい視線が泳いでないか? いや、海だからこんな言い方をした訳じゃなくってさ、本当に視線が挙動不審なんだよ。表情もかなり困った感じになっている。

「遅れて悪い、こっちも色々立て込んでいてさ」

「ふーん? 私の救助よりも戦いを優先した訳ね?」

「うっ…… い、いやいや、あの戦いは必要不可欠なものだった訳で、決してセラを疎かにしたんじゃなくってだな、むしろセラを信頼しているからこその判断だったというか、その…… すんませんでした!」

俺、渾身の海面土下座を決める。

「……っぷ、ぷふふっ! ケルヴィンったら、本気で申し訳なさそうにしちゃって、おかしいの! 私こそ悪かったわね、ちょっとからかってみただけよ。謝らなくたって大丈夫、私は分かっているもの。ふふん!」

「セラ、このタイミングで悪戯は止めてくれよ。俺のガラスのハートが悲鳴を上げちゃうって」

ホッと胸をなで下ろしつつ、セラを回復させる。応急処置だが、これで避難くらいはできるようになった筈だ。

「ありがとう、ケルヴィン! これなら泳いで大陸まで行けそうよ!」

「いや、そこは無理せず飛んで帰ってほしいんだが」

「はわわわ……! きゅきゅきゅ、急なラブロマンスが始まって、始まって…… 待って待って、どうしよう、どう見てもお邪魔虫状態なのに、体が動かなくて離れられないぃぃ~~~……!」

俺とセラがいつもの感じで会話をしていると、挙動不審だったイザベルが、更に輪をかけてオロオロとし始めた。本人は自分にだけ聞こえるよう呟いているつもりかもしれないが、その言葉をしっかりと俺の耳に届いている。さっきも言った気がするけど、耳が良いんですよ、耳が。

「あー…… イザベル、だったっけ? 混乱しているとこ悪いんだが、今の状況は理解できているか?」

「はっ、はひぃぃぃ! すみませんすみません! しっかりと理解していますお邪魔虫に過ぎない私如きがこんなところに居てしゅみましぇんんん!」

「うん、マジで落ち着いて?」

そういう意味の状況じゃなくてさ、アダムスとかそっちの事情を含めた、もっと大きな意味での状況よ。つか、ラブロマンスって何?

「今はそんな感じだけど、一応大丈夫な筈よ。プカプカ浮かんでる時に、配下ネットワーク越しに伝わってくる情報を、彼女にも共有しておいたから」

「そ、そうか……」

多重人格って事は聞いていたけど、正直今の彼女を見て、権能三傑に数えられるほどの力があるとはとても思えない。人は、いや、堕天使は見かけによらないものだ。

その後、俺は混乱状態にあるイザベルと何とか意思疎通を図り、妹のグロリアと同じ場所へ送る事を伝えた。グロリアの名前を聞いて、多少は安心したんだろう。挙動不審度合が一段階下がり、言葉の受け答えがギリギリできる程度には落ち着いてくれた。まあそれでも一段階なので、相変わらず苦労はしたのだが。

「うう、グロリアに早く会いたい……」

「泣きたいのはこっちだよ。何気に今日一番に疲れた気がする……」

「フフッ、お疲れみたいね」

「ぶっちゃけ、めっちゃお疲れだ…… 今の彼女じゃなくて、もう一つの人格の方が戦闘タイプだったんだろ? 俺としては、そっちの相手をした方が気楽だったかもな」

「んー、そっちはそっちで苦労したと思うけど? 戦闘中、何か素晴らしい素晴らしいを連呼してたし」

「なんじゃそりゃ?」

セラの話を聞くに、戦闘中に敵の成長を喜ぶ変な奴だったらしい。あー、確かにそれは変な奴だ。世の中にはそんな奴も居るもんなんだな。 ……セラ、その目はなんだ? 俺はお前の意見に同意しただけだぞ?

「あ、でもこっちのイザベルとあっちのイザベルとでは、得意な結界の種類が違うらしいわよ? 今のイザベルは防御や封印系の結界が得意で、私と戦ったイザベルは攻撃的な結界が得意なんですって」

「へえ、人格によって得手不得手が変わるのか? 面白いな。いや、攻撃的な結界って何だよって話でもあるんだけどさ」

「そりゃあ、攻撃的な結界よ! 一応、どっちのイザベルも全部の結界を使えはするけど、性格的な問題なのか、性能にはかなりの違いが出るんですって。今の彼女が相手だったら、ひょっとしたら破壊できない結界もあったかもしれないわね」

ふむ、なるほどな。もう一人のイザベルが攻撃的な結界が得意だからと言っても、必ずしも全ての戦闘要素が向上する訳ではないのか。能力は使いよう、後方支援に徹される場合は、今の彼女の方が厄介な存在になるんだろう。そうかそうか、今の彼女も彼女で強敵である事に違いはないのか。それは良い事を―――

「あなた様ー! ご無事ですかー!?」

―――っと? どこからともなく聞こえて来たこの声は…… メルか? なぜこんなところに?

「メル、シュトラ達と一緒に避難していた筈じゃ?」

「その避難が終わっても一向にあなた様が来ないので、こうして迎えに来たのです。正妻として!」

「お、おう、ありがとう……?」

シュトラをセルジュと一緒に残して来て大丈夫なのかって心配はあるけど、まあビクトールも居る事だし、大丈夫…… だよな?

「さささ、三角関係!? ラブロマンスからの修羅場に発展……!? う、ううん、別に、興味がある訳じゃ……」

それよりも今は、イザベルの頭の中の方が心配かもしれん。何で今度は頻りにこっちを見ているんですかね?

「もうじき、 白翼の地(イスラヘブン) が完全に墜落します。その際に発生する衝撃や津波などの諸々を防ぐ準備も完了済み。あとはこの場の私達が退避するだけですよ」

「実力者が集まっているだけあって、流石の手際だな。了解、俺達も急ごうか。セラ、イザベルに『血染』を使ってくれ」

「まっかせなさい!」

「ひょ、ひょっとして、三角関係どころか四角、ううん、五角以上の関係もあったり……!? それって考えようによっては、途轍もない向上心と呼べなくは――― うっ」

セラの『血染』を頭に受け、イザベルは意識を失ってしまった。何か良からぬ事を言っていた気がしないでもないが、これ以上の詮索はしない方が良いだろう。絶対ろくな事にならない。

「これで準備完了ね。それじゃあ帰りましょうか、私達の家へ!」

「ええ、美味しいご飯が私達を待っていますよ」

「待て待て、まだジェラール助け出してないから」

「「……あ~」」

「いや、あ~じゃなくてさ……」

何とも締まらない流れで最後の大仕事、ジェラールのサルベージに取り掛かる。まあ、そんな感じで 白翼の地(イスラヘブン) での戦いは幕を閉じるのであった。