軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第257話 異次元からの決着

あれから幾度刃と魔法を交えただろうか。マリアのポップコーン、そしてアダムスの酒がそろそろ尽きる頃合いである。相手の力を全て引き出し体験しようという、ケルヴィンの悪い癖が出ている感もあるが、この戦いもいよいよ終わりを迎えようとしていた。

「 智慧形態(アスタロトフォーム) 」

「カオスマイア」

「グレアームズ」

ハードをローブマントに変形させ、それを纏うケルヴィン。対するスプリングは奇怪な泥を手の平に作り出し、それを得物のハルバートに塗りたくっていた。サマーはサマーで、これまでとは異なる系統の光を刀に灯している。

「いやはや、そっちの刀っ子が回復魔法の使い手で、なかなかの拮抗状態になってしまったな。けど、衝突し合う度に新戦術を見せてくれるから、こっちとしては全然退屈しないよ。むしろ、高揚しっ放しだ。そっちも同じ気持ちだと嬉しいんだが、どうだ?」

「「………」」

「……話は通じている筈なんだが、やっぱ会話はできないか。そこはホントに残念だな、うん」

ブラックホール消失後、ケルヴィンは戦いの最中にも、幾度か二人との会話を試みていた。しかし、結果はいつも同じであり、スプリングとサマーには無言を貫かれている状態だ。ケルヴィンの言葉を理解はしているし、魔法の詠唱や掛け声の際には普通に喋っているので、会話の機能は備わっているとケルヴィンは推測しているのだが、やはり駄目そうである。

「じゃ、一方的に話させてもらうよ。こっちには回復薬を瞬間飲みして、魔力を復活させるって手もあるんだが、そっちはそうもいかないだろ? だから、次の一手で最後にしよう。今使う事ができる最高の一手で、俺に止めを刺してくれ。俺もそうするからさ」

「「………」」

二人からの返答はない。が、これだけ期待に応えてくれた好敵手であれば、きっとそうしてくれるだろうと、ケルヴィンは確信していた。だからこそ、自らも最高の一手を繰り出そうと決意する。

(ハードの装甲を無視した肉体内部への浸透攻撃、手を触れられた瞬間に身動きを完全に封じられる妙な合気、展開したハードの鉄壁能力を解除する 神聖天衣(ディバインドレス) 染みた魔法、一番厄介なストレス剣――― 智慧形態(アスタロトフォーム) になったとしても、微塵も油断ならねぇんだよな、この二人の攻撃。いやはや、別次元の世界もなかなかの修羅道のようで…… いつか、オリジナルとも手合わせ願いたいもんだよ)

痛めつけ痛めつけられた大切な思い出が、ケルヴィンの脳裏を駆け抜ける。思い出と称するには些か早過ぎる気もするが、それら経験はケルヴィンにとって、それだけ有意義なものであったのだ。そんな思い出なのだから、終わりもしっかりとしておきたい。一切の悔いを残さない為に。ここまで戦ってくれた二人に、恩返しを倍返しでプレゼントして差し上げる為に。

膨れ上がる魔力、躍動する肉体、回転し続ける思考、絶対に倒してやるという意志の高さ、そういったあらゆる要素にギアを入れ、来たるその時を待ち侘びる。まだか? そろそろか? 今か? 焦らしてくれるじゃないかと、並列思考のうちの一つが考えを巡らせる度に、口端が吊り上がっていくのが分かる。焦らされれば焦らされるほど、ケルヴィンの心はある意味で豊かになっていった。

そして、遂に待ち侘びたその時がやって来る。相手が繰り出すであろう理不尽なる力を、それ以上の理不尽で打ち砕く。ケルヴィン、スプリング、サマーの三者が躍動するこの戦場で、それを実現させるのは一体どちらの陣営なのか。自由極まる観戦席の皆々も、この時ばかりはこの戦場に意識を集中させていた。 ……が、しかし。

―――バキバキバキバキッ!

スプリングとサマーの頭上に位置する空間に、突如として謎の亀裂が走る。ケルヴィンの先制攻撃、という訳ではない。二人の奥の手、という事でもない。それは双方にとって予想もしていなかったハプニング、或いは運命の悪戯とも呼べる出来事であった。

「ごめんマリア~、惰眠の誘惑に負かされて遅れちゃった~」

空間に刻まれた亀裂が弾け、その中から何者かが出現。明らかにマリアの関係者である事は明白だが、それ意外の事は一切不明だ。しかもその者は現れるや否や、真下に居たスプリングとサマーの後頭部を掴み、そのまま地面(サマーの障壁)に叩き付けるという暴挙に出ていた。その瞬間に二人の頭部は弾け、見るも無残な状態となってしまう。

「あり? 挨拶代わりのスキンシップだったんだけど、不味った? って、これ偽物じゃないの。はえ~、最近の贋作はよくできてるのね」

ゆるふわ系な声色とは相反して、その者の移動速度は常軌を逸していた。現にスプリング達の能力を以ってしても、捉えるどころか反応すら殆どできていなかったのだ。頭を潰されては、流石の魔法生物も生命活動を維持する事ができないのか、残された二人の肉体はピクピクと僅かに動くのみ。戦闘終了である。

「……あ?」

そう、全く予想もしていなかったそのような形で敵は倒され、ケルヴィンの戦いは幕を閉じる事となってしまった。五体満足の状態で生き残る事ができた。めでたし、めでたし…… という流れには、もちろんならない。最高の時間になる筈だったのに、とんだ横やりを入れられたのだ。戦闘狂にとっては、天国から地獄に落とされた気分だろう。

「おい、何してんだ、お前?」

一周回ってケルヴィンの声色は落ち着いたものだが、明らかに不機嫌な雰囲気を晒している。視線で相手を殺すが如く、乱入者に睨みを利かせ圧をかけていく。

「何って、スキンシップ? あ、でもこの場合は人違いだったっぽいかな? たはは」

射殺すような熱視線を受けても、乱入者は朗らかに笑うのみ。彼女はオレンジを基調とした軽装を纏い、長い黒髪をポニーテールで纏めていた。背丈は低く、見た目の年齢は十代そこそこといったところ――― と、ここでケルヴィンがある事に気付く。この乱入者、先ほどまで戦っていたスプリングと、やけに特徴が一致していないか? ……と。

「……アンタ、ひょっとして―――」

「―――おっそいよ、 クオン(・・・) ! 折角妾が呼んだんだから、秒で反応してよ~! 既読無視とか一番辛いじゃん!」

マリアがケルヴィンの声を遮りながら、何やら小さな板状のものを掲げていた。それは所謂スマートフォンのような形状をしており、画面には連絡のやり取りが記されている。

「だから、ごめんて。私にしては頑張って来た方なんだからさ、寛大な心で許してよ? って、それよりもさっきから、結構な数の視線が私に集まっている感じなんだけど? 特にそっちの彼、熱烈な視線を私に向けてきて――― たはは、ちょっと照れるなぁ。マリア、私が異世界旅行目的で来るって事、ちゃんと現地の人に話してた?」

「え? あっ…… ふ、ふふん、当然でしょ? 話してる話してる、超話してる。話した気がする」

「おい、誰も聞いていないが?」

そんなケルヴィムのツッコミを耳にしながら、ケルヴィンは何となく察し始める。この流れからして、あの乱入者はマリアの世界からやって来たのだ、と。

「ほう、アレもなかなか……」

「アダムス、感心している場合では――― 待て、アレもアダムスが感心するほどの実力者、なのか?」

アダムスが唸っている、イコール、この女もそれ相応にやる。その事実がケルヴィンの渇きを満たし、不満を解消してくれる。まあ要するに、ケルヴィンの興味は完全にこの乱入者の方へと移っていた。

「あー、もう、うるさいなぁ! クオンは妾のママ友なの! 一緒に異世界旅行をする為に、妾が呼んだの! 以上だもん! 悪い!?」

見事なまでの逆切れである。

「こらこら、曲がりなりにもアイドルなんだから、公然でキレたら駄目だって。あ、自己紹介しておいた方が良いかな? 私は 桂城久遠(かつらぎくおん) って言います。三児の母で、マリアのママ友と言いますか、飲み友と言いますか、まあそんな感じなんで、よろしくね~」