作品タイトル不明
第253話 天上の宴
血色の武器、か。全く同じ能力って事はまずないと思うが、セラの『血染』のようなものが付与されていると想定しておこうか。あと、こいつらが生成される元となったのは、 狂飆(きょうひょう) 魔法とかいうものだった筈。つまり、肉体も武器も風の集合体である可能性が高い。最悪の場合、触れてしまうだけで切り刻まれるかもしれない。って事で、格闘戦は厳禁だな。
「「―――ッ!」」
と、そんな事を考えていると、不意にスプリングとサマーが俺に襲い掛かって来た。見た目とは相反して、かなり活きが良いじゃないか。
「何だなんだ、もう始めちゃって良いのか?」
「よーいドンなんて合図、別に必要ないでしょ? ねえねえ、妾の分のポップコーンはないの~? 妾、メルヘンな塩キャラメル味が良いなぁ」
いつの間に移動していたのか、マリアの姿は見物席の方へと移っていた。ポップコーンを所望している辺り、俺の戦いも映画感覚で見るつもりなんだろう。ククッ、そうか。映画感覚か。
「有難い話だなぁ! 見世物になってやるだけで、こんな素敵な相手を用意してくれるなんてッ!」
大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) を瞬間作成& 狂飆の覇剣(ヴォーテクスエッジ) を纏わせた 剛黒の黒剣(オブシダンエッジ) を、挨拶代わりに数十本ほどプレゼントする。 剣(なかみ) は強固、 鞘(がわ) は猛烈。奇しくも魔法生物であるお前らと似た性質の攻撃だ。さあ、どうする?
「「………」」
急に俺に襲い掛かるその行動方針は苛烈そのものだが、本人達は無言のまま。しかし、奴らはそんな状態でも俺の期待に応えてくれた。
『天歩』のような空中歩行スキルでも使っているのか、ポニーテールは宙を自在に駆け抜け、俺が放った攻撃群を躱し続けている。あんなにでかい得物を担いでいるってのに、滅茶苦茶に素早い。いや、素早いだけじゃない。体捌きが異様なまでに上手いんだ。その上、変化前の獰猛な姿が嘘のように、冷徹に周囲の状況を観察していやがる。何て言うのかな、小さなゴルディアーナを目にしている感じ? ……うん、それは実に恐ろしい事だ。
んでもって刀っ子の方は、ポニーテールよりも後方の位置にて障壁を展開し、俺の攻撃を防いでいた。刀持ちだから、てっきりこっちの奴も接近戦を挑んでくるのかと思ったが、どうやら違うらしい。プレゼントした攻撃を真っ向から防げている辺り、障壁の硬度は一線級、支援に回られたら厄介な相手と言えるだろう。となると、なぜに得物が刀なのかと問いたくなるが…… 逆にあの刀、絶対何かあると確信したよ。試しに近付いてみるのも手か?
まあ、何だ。トータルで考えて―――
「―――いやらしい組み合わせじゃないか、最高にッ!」
俺なりの賛美の言葉と共に、大鎌による斬撃を送り付ける。恐らく、ポニーテールの方は問題なく躱すだろう。だが、刀っ子の方はどうだろうか? ただ頑丈なだけの障壁じゃあ、この斬撃を防ぐ事なんてできないぞ?
「ハァッ!」
そう考えたのも束の間、躱すとばかり思っていたポニーテールが、ハルバートで大鎌の斬撃を薙ぎ払い、逆にぶった斬ってしまった。俺の斬撃は見るも無残に四散し――― って、おいおい、マジか!? ひょっとしてハードでできているんスかね、そのハルバート!? んでもって、声を出したら可愛らしい少女の声だった! 真っ向から打ち負かされたのも意外だし、喋れたのも意外だし、声が少女だったのも意外だよ! ホントにどんな魔法生物なんだ!?
「最近俺の斬撃が効かない奴が多くて、ちょっと悲しいなぁ! 何でも斬れるって触れ込みなんだが!?」
「その割には嬉しそうな顔をしているね、お兄さん?」
いやはや、マリアさんが嬉しそうに何かを言っていらっしゃる。けど、それって要はさ、俺も更に進化していく必要のある、極悪な環境になったって事だろ? 目指すべき上があり、未知の恐怖が未だに存在しまくってる。 ……それって最っ高に心躍る状況じゃないか!
と、気分は非常にハイだが、同時に戦況は冷静に見極める。大鎌の斬撃を破壊したのを皮切りに、ポニーテールが一気に加速。アンジェにも迫る速度に達しながら、今度はその危険な得物で俺を刈り取ろうと画策している様子だ。彼女の背後に陣取る刀っ子からも、異質な魔力の流れが感じられる。表情を覗く事はできないが、やる気も殺る気も十分、俺をぶっ潰そうって気概が嫌ってほど伝わってきやがる。
「ハハハハッ! どっちも何をしてくるのか、全ッ然予想できないなぁっ! 楽しいな、おいッ!」
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ケルヴィンらが戦闘を開始する一方で、徐々に墜落する最中にある 白翼の地(イスラヘブン) 、その端の方にて観戦席は設けられていた。観戦席と言っても、そこには席どころかシートも敷かれていない。集った者達は思い思いに地べたに座り、好き勝手に戦いの様子を見物しているのだ。ある者は葉巻をスパスパと吸い、またある者達は酒を飲み交わし、またまたある者はポップコーンとコーラを生成――― それはもう、状況世界観無視のやりたい放題であった。
「なるほど、これがポップコーン…… 後を引く美味しさがありますね。リオンちゃんがすすめてくれたのも、納得の味です」
「でしょ~? これは塩キャラメル味なんだけど、他にも色々種類があるんだよ。妾的には、わさび醤油味もなかなかいける感じ! あ、コーラも飲む? 飲んじゃう? これ、一気飲み推奨!」
「いや、それがですね、アダムスの旦那、僕は貴方を裏切ろうだなんて、そんな事を画策できるような男では決してなく、あ、いや、むしろルキルを回復してくれた御恩に報いたいと、そう思っているところでして、へへっ」
「ふむ…… パトリック、貴様の言い分はよく分かった。が、そんな些事は正直どうでもいい。それよりも今は、この稀有な場を存分に堪能せよ。我は古い神だからな、このような形でしかもてなす事ができんのだ。ほら、まずは駆けつけ一杯。我が所持する自慢の酒だ」
「へ、へへへっ、いただきやーす!」
「シンちゃ~ん、ちょっと吸い過ぎじゃないのん? 大分ヘビィなスモーキングをしているみたいだからぁ、私ってば心配しちゃうわん」
「余計な世話だよ、『桃鬼』。私の事よりも、そっちの『縁無』の心配をしたらどうかな? あの目立ちたがり屋が、らしくもなく隠密っぽい事をしたんだよ? 明日は槍が降るね、いや、今日のうちに降るか?」
「フッ、どうやら彼女は加齢が進んで相当にボケてしまったようだ。プリティア君、そんな戯言に耳を傾ける必要なんてない。傾けるのなら、私の美曲にしておきたまえ!」
「もん、相変わらず仲が良いわねん。嫉妬しちゃうわん」
「「仲良くないっ!」」
「……お前ら、少しは戦いに集中したらどうなんだ!?」
観戦席にて唯一真面目に戦いを見守ろうとしていたケルヴィムが、溜めに溜めたツッコミをぶちかます。
「と言うかアダムス、そいつは裏切者だぞ! 何を酒と共に全てを流そうとしているのだ!?」
「いや、君も裏切っていたよね? 思いっ切りエルドに反抗していたよね?」
「俺の場合はエルドが悪いから良いのだ!」
「ええっ、そんな無茶苦茶な……」
「双方、落ち着け。我にとってはどちらも些事に過ぎん。それよりもケルヴィム、貴様も飲め。思うの所があるのであれば、酒の席で全てを吐くが良い」
「だから、俺は飲まんとんぐうっ!?」
アダムスはとんでもない速度でケルヴィムに近付き、彼の口に酒瓶を突っ込む。有無を言わさぬ早業を前に、ケルヴィムは一切の抵抗ができない。
「あははっ、アルハラだアルハラだ~。いっけないんだ~。けど、飲め飲め~♪ 妾、そういうノリも大好物~♪」
マリアはマリアで、いつの間にかマイグラスにアダムスの酒を注いでおり、ある意味で最も宴を楽しんでいた。果たして、この宴に収拾はつくのか…… それは神のみぞ知るところ、なのかもしれない。