軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第238話 最期の時

一世一代の勝負に勝利したのは、ゴルディアーナの拳であった。力強く逞しく、彼女に係わる全ての者達の想いを乗せた攻撃は、ハオのそれを上回り、打ち砕くに至った。

「ハアアアアアァァァッ!!!」

彼方まで届くであろうゴルディアーナの叫びが、絶えず戦場に鳴り響く。ハオの拳が砕け、辛うじて人の形に寄せていた肉体の全てに、その衝撃が伝播していく。この攻撃で削られた命のストックは、この肉体が持つ総数に比べれば、些細な数でしかないだろう。しかし、勝った。この命のやり取りでゴルディアーナは、あのハオに間違いなく勝利したのだ。

(……いかんな。戦闘時だというのに、柄にもなく感傷にふけってしまった。いや、俺の心が満たされたからこそ、そうしたのか? まあ、いい。良い勝負であった)

肉体の破壊が次々と進む最中、どういう訳なのか、敗北した側である筈のハオの心は、大変に穏やかなものだった。一方で、その肉体の本来の持ち主であるハザマはというと―――

(ハオ、この馬鹿者め! 早く肉体を回復させ、退避するのじゃ! あの小娘の攻撃が来るぞ!?)

―――迫り来る謎の攻撃を恐れ、その全開にした警戒心を隠す様子もなく、ハオに退避を呼び掛けていた。ハオに喋る行為そのものを禁止されたハザマであるが、実のところ肉体内の念話といった形で、戦闘中も絶えず大声を張り上げていたのだ。もちろん、それはあくまで心の中での叫び。周囲の者達には一切聞こえず、肉体を共有しているハオにしか届かないものだ。

(動く気がないのであれば、肉体の制御権をワシに渡せ! 直ぐにでも奴らを殺し、この肉体の新たなる力として取り込んでやるわ!)

(あのドロシーとやらに大敗を喫し、俺に肉体を奪われる事で二度目の敗北を味わう事となった、お前がか? なかなか面白い冗談だ、笑えんな)

(ぐぬぬっ……! ええい、今は細かい事などどうでも良いのじゃ! このままでは、ワシもお主も死ぬ事になる! あの偽神の攻撃のみであれば問題ないが、小娘の攻撃は例外じゃ! ワシの権能を以ってしても、黙っていれば死に絶えてしまう! 兎に角、動け! 肉体を分裂させて、囮を作り出せ! 何としても逃げるのじゃ!)

(逃げる? フッ、先ほどまでの強気の発言はどこに行ってしまったのか。まあ、どの道それは無理だろう。我が好敵手の攻撃により、今の俺は全く動けない状態にある。少なくともあと数秒ほどは、指先ひとつ動かせん)

(な、ななっ、何をふざけた事をッ!? この、ふざけるなッ!)

(その台詞、そのまま返してやろう。戦いの最中も絶えず大声で騒ぎおって、集中し辛い事この上なかったわ。少しでも勝ちたいと思っていたのなら、大人しく俺の中で黙っていれば良かったものを)

肉体を共有するハオとハザマの脳内での会話は、ケルヴィン達の配下ネットワークを介した念話の速度に匹敵する。そんな速度で戦闘中に騒がれては、流石のハオもうんざりとした気分になってしまったのだろう。ある意味でのハンデとさえなっていたかもしれない。

(何が俺の、じゃ! 元々はワシの肉体じゃわい!)

(……いや、それも含めて、俺が未熟だっただけか。何事にも動じる事のない、屈強な精神が備わっていれば…… フッ、今になって後悔する事になるとはな。人の生も神の生も、ままならないものよ)

(話を聞けぇ! そして勝手に満足するなッ! ワシは、ワシはまだまだ生きていかねばならんのだぞ!? そう、あらゆる者を食わねばならんのだ! ワシはハザマ、『蛮神』のハザマじゃぞ―――)

(―――弁舌を振るっているところ悪いが、その時が来たようだ。まあ、何だ。俺達が死ぬ事で、魂はアダムスに捧げられるのだろう? 個人としては無念であろうが、十権能という組織としては、この展開もそう悪くはあるまい。俺の興味が及ぶところではないがな)

(悪くない訳があるかぁ! 馬鹿が馬鹿が大馬鹿ものがぁぁぁぁ!)

ゴルディアーナの慈悲に満ちた一撃は、ゆっくりとハオ達の肉体を破壊していく。だが、その次にやって来るのは、全ての命を問答無用で消滅させる、無慈悲なる魔法であった。

「 黄泉帰化す(アンスタン) 」

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ゴルディアーナ達の戦いは終わった。敵の肉体は強制的に未来へと飛ばされ、その経過時間と共に命のストックを全て消失。最終的には塵となって風に飛ばされ、あの不気味な姿も今はどこにも見当たらない。

「上手くいった、ようですね」

「……ハオちゃん、万全な状態の貴方が相手だったのなら、結果はまた違うものになっていたかもねぇ。でも、今回は私の勝ちよん。グロスティーナ、私の可愛い妹弟子…… 仇、取ったわぁぁぁ!」

「うおおおおっ、プリティアちゃーーーん! やったぁぜぇぇぇ!」

「ちょ、ちょっと、ダハク、急に飛ぶんじゃ、ない……」

「ボロボロ、なのに…… どこに、ぞんな元気が、あるんだ、な……」

「目の前に美の化身が降臨してんだ! 目の保養がエネルギーになるってもんだろ!?」

ドロシーがホッとしたように胸に手を当て、ゴルディアーナが涙を流しながら天を仰ぐ。そこに竜王ズが駆け寄り――― とまあ、あまり無事な状態ではない戦場には、現在様々な感情が入り乱れていた。

「うふん、ダハクちゃん達は相変わらず元気そうねん。この場に居る誰が欠けていたとしても、この勝利を掴む事は叶わなかったわん。私、感激よん!」

「うおおお! プリティアちゃーーーん!」

「うるさっ…… ゴルディアーナ、私とボガを この馬鹿(ダハク) と、一緒にしないで、ほしい…… 全然元気じゃないし、ボロボロ……」

「おにぎり、食いたい、んだなぁ……」

元気に感動しているダハクと相反して、ムドファラクとボガは飛ぶのも一杯一杯な状態であった。

「ったく、お前らは根性が足りねぇんだよ、根性が! 一番大変だったのはプリティアちゃんだったんだぞって、プリティアちゃんごめ゛ぇぇぇん! グロスの奴がぁぁぁ!」

尤も、ダハクも感動から哀惜に転じたりと、大分感情が不安定な様子ではあるが。

「うおおおぉぉぉん!」

「ダハク、竜王がそんな簡単に泣くものじゃない。けど、うん、グロスティーナ、立派な最期だった…… グスッ……」

「うう、すんまぜん……! おでら、全然力、足りなかった……!」

「……うふっ。あの子、こんなに慕われていたのねん。皆、グロスと共に戦ってくれて、本当にありがとん。あの子に代わって、姉弟子の私がお礼しちゃうわん。貴方達と戦えた事は、きっとあの子にとっての誇りになっている…… だから今はあのこの分も、勝利を喜びましょん?」

「けどぉ、けどぉよぉぉぉ……!」

ダハクをはじめとした竜王ズが泣き止む様子は一向に見られず、荒れ果てたこの戦場には猛烈な竜の涙が降り注いでいた。それはもう、荒れ果てた地上に小さな泉ができそうな勢いである。

「まったく、グロスったらどれだけ愛されていたのかしらん? ええ、本当に……」

「……転生神ゴルディアーナ、感傷に浸っているところ申し訳ないのですが、私はそろそろ次の戦場に移動しようと思います」

両腕の翼を広げながら、ドロシーがゴルディアーナにそう一声かける。

「あらっ、戦いが終わったばかりなのに、もう行くのん? ドロシーちゃん、かなり大規模な魔法を使っていたでしょん? 魔力は大丈夫なのん?」

「ご心配なく。どこかの大食い女神から、女神印の回復薬を持たされましたので。私は小食なので、服用はこれ一本が限度なんですが…… まあ、それでももう一戦程度なら問題ありません」

「そっ、要らぬ心配だったわねん。それで、行き先はもう決まっているのぉ?」

「はい。私は十権能ではなく、ルキルの足取りを追いたいと思います。先ほど、 聖杭(ステーク) から彼女の気配が離れたのを確認しました。 ……何か、嫌な予感がします」

既にルキルの気配を捉えているのだろう。ドロシーはある方向をジッと見詰めている。

「あらやだ、それってフラグってやつじゃな~い?」

「フラグ?」

「そっ、前触れってやつよぉ! 前にセルジュちゃんから教えてもらった事があったのん! 心配だから、私も同行しちゃおうかしらん? 走っていれば、そのうち戦いの傷も癒えると思うしぃ~」

「走りながら、ですか…… 私が言うのも何ですが、転生神ゴルディアーナも滅茶苦茶な体をしていますね」

「うう、ぐっすぐっす……! プリティアちゃんが行くなら、俺達も行くぜぇぇぇ……! なあ、ムド、ボガ……!」

「いや、普通に無理……」

「おにぎり……」

かくして満身創痍状態の竜王ズは戦線を離脱、ドロシーとゴルディアーナはルキルを追跡する事となる。