軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第219話 調停隔壁

「ぐっ……!?」

両腕を斬られた。そう認識した時には、セラは既に反撃に転じていた。斬られた腕の断面から流れるであろう大量の血液を、己の武器として逆に利用してやろうと画策したのだ。『血染』と『血操術』の固有スキルを持つセラであれば、致命的な負傷も逆転の一手となり得る。 ……だが。

(斬られた場所から、血が出ない!?)

断面からは一向に血が流れなかった。斬られた痛みはある、ダメージだってそうだ。現に、斬られた両腕は宙を舞っている。なのに、なぜか血が飛び出ない。

(これは……!)

更なる追撃を放とうとしているイザベルの姿と共に、宙を舞う自らの両腕、その断面に怪し気な魔法陣が描かれていたのが視界に入る。高速で思考を回していたセラは、それが何らかの結界であり、血が流れない原因であると推測。また、斬られた腕が全く再生しないのも、この結界が原因であると結論付けた。出血死がない事は利点のようにも思えるが、そもそも血を操作する事ができるセラや、鎧に血が流れていないジェラールにとって、それはただただ邪魔な要素でしかなかった。

「セぇラぁぁぁ!」

爺馬鹿であるジェラールが、これ以上 仮孫(セラ) が傷付けられるのを、ただ黙って見ていられる筈がなかった。怒り、されど冷静に、渾身の一撃を死角から叩き込む。 纏ノ天壊(マトイテンガイ) を宿した魔剣ダーインスレイヴは、かつてジルドラの怨念を死の淵にまで追いやった、ジェラールにとっての最強の技である。単純な威力だけであれば、仲間内でも1、2を争うだろう。

「む…… なるほど、これはなかなかに重い。良き攻撃です」

「ぬうっ……!」

しかし、その 纏ノ天壊(マトイテンガイ) でさえも、受けに回ったイザベルの漆黒剣によって弾かれてしまう。軽々、とまではいかなかったようだが、それでもこの口振りからするに、彼女はかなりの余力を残しているようだった。

「私の『求剣ペナルティ』の刃に触れ、刃こぼれもしないとは…… ますます素晴らしい。花丸型の斬撃を差し上げましょう」

「花丸、とはッ……! そういう歳でもないのだが、のう……!」

標的をセラからジェラールへと変えたイザベルは、その細腕が振るっているとは思えぬほどに凶悪な剣技を、次々と放ち続けた。ジェラールも必死に喰らい付くが、所詮はそこまで。一撃の重さや手数、その他諸々の剣技としてのレベルが、残酷なまでに違い過ぎている。

本来『斬撃無効』のスキルを持つジェラールは、イザベルの剣技を防御する必要も躱す必要もない筈だ。それが斬撃の類の攻撃であるのならば、その名の通り尽くを無効化するからである。だが、ジェラールはそれを良しとしなかった。

(セラの真似事ではないが、ワシの長年の勘が言っておる。彼奴の剣に斬られてはならぬ、となッ!)

その判断が正しいかどうかは今のところはまだ分からない。が、イザベルの剣に斬られたセラが、未だに両腕を再生できていないところから察するに、あの漆黒剣に何かしらの力が働いているのは確かだ。

そしてその一方、先ほど負傷したセラは一度戦線を離脱し、ある事に集中していた。体内から直に『血染』で命令を行い、再生を阻害する結界を消そうとしていたのだ。しかし、どうも上手くはいっていないようで。

(クッ! 私の傷を覆っているこの結界、想像以上に厄介! こんなに小さい規模の癖して、馬鹿みたいに強固な造りになってる! ひょっとしたらガウンで私の邪魔をした、あの紫色の結界並み? ううん、下手したらコレットの秘術並みじゃないの……!)

消す事ができない訳ではない。但し、命令を発してから結界が解除されるまで、数秒ほどの時間を要してしまう。閃光の如き速度で行われるこの戦いの場で、数秒のタイムロスは致命的だ。今回は腕であったからまだ良かったが、これがたとえば首であったとすれば、セラは再生が間に合わずに死んでいただろう。斬られても即時再生すれば良かっただけの 聖死架苦刑(ドライエック) とは違い、回復の類を否定するあの漆黒剣による攻撃は、セラを以ってしても危険過ぎた。

結界を解除しようとしている間にも、 悪夢の紅玉(ナイトメアボール) による援護は行っている。死角を含めた四方八方からの血の突貫、防御が間に合わなくなりそうになったジェラールの盾としての展開、トラップ代わりに地面に設置するなど、思い付く限りの活用方法を遂行している。

しかし、それでも前述の結果なのだ。奮闘するジェラールに加え、セラがこれほどまでに援護したとしても、戦況はイザベルに押されていた。剣術と体術、そして時折発動する 損罪廷吏(フェアトライブ) の反射のみを操るイザベルに対し、たった一度のダメージも与えられない。

(妹のグロリアも結構な実力者だったけど、こいつの強さは本当に次元が違う……! ってなると、同じ権能三傑の相手をしているダハク達もやばいわね。あと、ドロシーの方も――― って、今はそれどころじゃなかった!)

数秒かけて両腕の結界を解除し、即座に両腕を再生するセラ。流石と言うべきか、結界が消失してからの回復速度は尋常でなかった。

『よっし、解除完了! ジェラール、今行くから!』

『できるだけ早う頼む! 神界最強の剣士というだけあって、彼奴はワシだけでは捌き切れぬ!』

『了解! それと、この女がたまに使ってくる反射障壁、観察する限り連続では使えないわ! 効果は瞬間的なもので、少なくとも次の使用までに三秒ほどは要していたの!』

『ほう、それは良い情報じゃて。ならば、ワシらが狙うべきは?』

『もち、連続して攻撃を叩き込む事よ!』

遺憾ながらにも 見(けん) に回っていたセラであったが、そのお陰なのか彼女の予想は的中していた。自身に降りかかるあらゆる害を、反撃の衝撃として変換するイザベルの『 損罪廷吏(フェアトライブ) 』は強力な、いや、強力過ぎる結界だ。しかし強過ぎるが故に、その効果を発揮する時間はごく短く、再び展開させるのにも三秒の時間を置く必要があったのだ。その隙を突けば、イザベルにもダメージを与える事は可能だろう。

「「はぁぁぁっ!」」

念話の直後、戦線復帰したセラがジェラールと共に、息の合ったコンビネーションアタックを仕掛ける。動きの一つ一つがリンクし、互いの隙を埋めながら行われるそれは、最早芸術の域に達したものだ。初期の頃からパーティの前線役として活躍していた二人だからこそできる、完成された連携攻撃である。

「こ、これは、なんという事でしょうか……! 再び私の想像を超えた、素晴らしい連撃を見せてくださるとは……! 涙で前が見えません……!」

が、その連携でさえもイザベルには通じなかった。更に速度を上げた漆黒剣は、二人の攻撃を封殺するだけでなく、 剣が通った道(・・・・・・) に障壁を作り出していく。それが一体どんな力なのか、今はまだ分からない。が、このままでは連続攻撃でダメージを与えるどころか、一度として攻撃がイザベルに届く事はないだろう。

「何と、もう『 調停隔壁(レイセプタム) 』を解除したのですか? 流石です……! それに貴女、確か妹のグロリアを倒した悪魔ですね? なるほど、これほどの力を有しているのであれば、グロリアが敗北したのも頷けます。あの子は手強かったのでしょうか? いいえ、貴女ほどの実力者であれば、恐らくはそう難しい事ではなかったのでしょう。違いますか? 違いませんね? ああ、素晴らしい……!」

「こ、のっ……! 戦闘中にッ……! うっさい、わね……!」

「こちらの鎧の方は…… ふむ、剣を打ち合う度に魔力が吸われている感覚がありますね。これがその大剣の力なのでしょうか? それに、段々と貴方の動きも良くなっています。徐々に調子を上げていくタイプ、或いは戦闘が長引くほどに力を高めていく能力なのでしょうか? それも違う気がしますが、まあ結果としては同じ事…… 未だに力の底を見せぬとは、素晴らしい潜在能力です!」

「彼奴、本当にどこまでの力を……!」

長話は余裕の表れだろうか。感涙するイザベルは、どうもセラ達に合わせて力を調整しているようだった。