軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第201話 境界

セラ達が飛び込んだ暗闇、言ってしまえばエレベーターのシャフトなのだが、その中はどこまでも闇が広がっていた。真下に続いていると思えば、決してそういった訳でもなく、緩やかなに方向を転換したり斜めに進み始めたりと、かなり入り組んだ構造となっている。

「うごあっ!?」

「もう、ジェラールったら静かに進みなさいよ。敵に気付かれちゃうじゃない!」

「そ、そうは言ってものう……」

そんな道を下って行くに当たり、ジェラールは何度も壁との衝突を繰り返していた。パーティ一の頑丈さを誇るジェラールである為、ダメージを負う事は一切ないが、その度に大きな音が発生&発生。夜目の利くセラは兎も角として、灯りもなしにこのような道を突き進むは、やはり無謀であったようだ。

「まあ、でも今更かしら。十権能の中でも上位に位置する敵なら、私達がここへ入った時点で気付いているでしょうしね」

「じゃろうな。しかし、何もして来ないのは不思議じゃのう。暗闇に乗じての不意打ち、罠の類を仕掛けるなど、やりようは幾らでもあると思うのじゃが」

「うーん…… 案外、ケルヴィンみたいに正面からの戦いが好きな奴だったり? ほら、ゴルディアーナを倒した十権能も、そんな感じだったんでしょ? って、思い出したらムカついてきちゃった。今回はダハクに譲ったけど、次は私がゴルディアーナの 敵(かたき) を討ってやるんだから!」

「いやいやいや、仇って。ゴルディアーナ殿、まだ死んでおらんから。囚われの身じゃから」

「分かってるわよ。ゴルディアーナが挨拶もなしに死んじゃう訳ないもの。それに…… まあ、ジェラールだったら、敵討ちを先にやらせてあげても良いわよ。私は親友だけど、ジェラールは、その…… ゴルディアーナと大人の関係だった訳だし―――」

「―――一切合切違うわい! そんな関係捏造せんでくれ!」

シャフト内にジェラールの叫びが響き渡る。最早そこに隠密行動という言葉は微塵もない。その道のプロ、今回不在のアンジェがこの様子を目にしたら、泡を吹いて倒れてしまいそうだ。

とまあ、そんな感じでわいわい騒ぎながら二人が道を進んで行くと、僅かな光が灯された広大な空間に行き着く。空間の中央には巨大な機械装置が鎮座しており、何本もの野太いケーブルと繋がっていた。またその機械装置の真上には、赤紫色の大きな宝石が浮遊している。

「見るからに重要そうな物体じゃのう」

「十中八九、この浮遊大陸の 動力源(コア) よね。で、アンタは?」

二人の目に映っていたのは、 白翼の地(イスラヘブン) の動力源だけではなかった。機械装置の前にて、祈りを捧げるような格好で座っていた人物が居たのだ。その者の名はイザベル・ローゼス。セラの問い掛けを受けて、彼女は床に置いていた杖を手にし、静かに立ち上がる。

「じゅ、十権能の一人、イザベル・ローゼス、です。あの、降伏するつもりは…… ありません、よね? それで、大人しく魂を明け渡す気も―――」

「ないわね!」

「ないわい!」

「で、ですよね、そうですよね…… すみません、変な事を聞いてしまって。でも、でも…… 素晴らしいです」

顔を上げたイザベルの表情は、非常に晴れやかなものだった。今から戦いに挑もうとする者の顔とはとても思えず、むしろ相手を慈しんでいるようにも見えるほどだ。

「神を前にしても己を曲げず、自らの意志を最上とするその姿勢…… 感嘆に値します。ああ、やはり世界はこうあるべきだったのですね」

「……? 何訳の分からない事をごちゃごちゃ言ってるのよ? 戦う気あるの?」

「ええ、ええ、もちろんですとも。是非とも、この世界で生まれ育った貴方達を、もっと理解したい。直に感じてみたいのです」

胸に手を当て、牧師のような語り口調で話を続けるイザベル。その声色は柔らかで、耳触りのよいものだ。しかし、だからこそ、この戦場には場違いとも言える。

『……ジェラール、こいつ大丈夫かしら?』

『ワシに聞かんでほしいわい。だが、油断するな』

『当然、欠片もしていないわ』

セラとジェラールは既に臨戦態勢を整え終えている。今は相手の出方を窺うに止めているが、戦うとなればいつでも始められる状態だ。二人はイザベルの言葉、そして 一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく) に集中する。

「だからこそ、私も誠意を示そうと思います。 ――― 聖死架苦刑(ドライエック) 」

「「ッ!?」」

何の予備動作も、魔力も流れも感じられない刹那の瞬間。気が付けばセラ達は、結界らしき壁に取り囲まれていた。結界は全体的に淡い青色で、歪な紋章が描かれた立方体となっている。つまるところ今、セラ達はその四角い結界の内部に居る訳だ。傍目からすれば閉じ込められてしまったように見えるが、セラが危機感を覚えたのは、それとは別の事柄だった。

『うわっ、結界の構築、全っ然気が付けなかったわ…… ジェラールは?』

『セラが気付けんかったら、ワシはお手上げじゃわい。奴の権能か?』

そう、セラの察知能力をもすり抜ける、結界の展開力の早さが問題であったのだ。今のケルヴィンでさえ、 栄光の聖域(グローリーサンクチュアリ) などの魔法を使用する際は、瞬き程度の間は必要としている。魔力の流れを隠そうとしても、セラならば感じ取る事ができる。だが、今に目にしているイザベルの結界魔法には、そういったものを何も感じ取る事ができなかった。発現まで何の予兆もなく、全く認識できないというのは、セラの悪魔生において、これで二度目の事である。

(なるほどね。突然目の前に攻撃を置きに来てた、あのグロリアの姉らしい能力じゃないの……!)

権能三傑の一人に数えられる『守護神』イザベル・ローゼス、ケルヴィムの情報通りであれば、彼女はグロリアよりも格上の存在である筈だ。非常に厄介。と、セラはそう思うと同時に、やっぱりケルヴィンもこっちに来れば良かったのに、なんて事も想ってしまう。

「色々と不思議に思っているようですね。ならば説明致しましょう。私の権能『境界』は、ある条件下で結界を作り出すと言うものです。今作り出した結界も、もちろんその権能によるものですよ」

「へえ、気前が良いのね。まあ、教えてくれるってなら聞いてあげるけど?」

「フフッ、素直な性格の方のようですね。ますます素晴らしい」

「お世辞は要らないわよ。で、その条件ってのは?」

「この権能の名の通り、そこに何らかの境界がある事、ですよ。身近なもので喩えれば、敷地を区切る庭の塀。大きな規模で表せば、国と国とを区切る国境線――― どんな些細なものでも、どれほど厳格なものでも、それが境目であると私が認識すれば、この権能は力を発揮するのです。即座に、自在に、自由に、無制限に発揮されるのです」

「ふむ? その説明が本当であったとしても、ワシらの周りにその境界に当たるものはないと思うが?」

「……ジェラール、床よ」

「む?」

ジェラール達の足場となる床には、大量のタイルが敷き詰められていた。それらは何の変哲もない、どこにでも見受けられそうな、ただの床タイルだ。しかし見方を変えれば、その一つ一つには境界線がある。今二人を取り囲んでいる結界も、確かにそれらタイル同士の境目、その組み合わせから成り立っているものであった。

「……これを境界と言い張るのか。まるで幼子の言葉遊びのようじゃのう」

「いえいえ、子供の遊びも馬鹿になりませんよ? 子供には子供にしかない、豊かな発想力がありますからね。それに、ほら、貴方達は今もこうして、多くの境界を跨いでしまっている」

―――ズッ……!

次の瞬間にセラ達に降り注いだのは、境界の全てを区切ろうとする格子状の結界、否、結界という名の刃であった。