作品タイトル不明
第186話 集うS級
声がした方を見るも、そこにはよく分からないアイテムの山しかなかった。だけど、今の声はどう考えても―――
「―――まさかとは思うが、通信水晶をガラクタの山の中に埋もらせてはいないだろうね? いや、流石にそれはないか。整理整頓という概念が微塵も存在しないシンと言えど、そんな馬鹿な真似をする筈がない。 ……ないよね?」
ああ、やっぱりそうだ。この声はルミエストの学院長、アートのものだ。恐らく、通信用のマジックアイテムを通じて、ここに声を届けているんだろう。そして、そのマジックアイテムはあの山の中に埋もれている訳で。
「相変わらず失礼な奴だな、アート! 私が収集したアイテムはガラクタではない! どれもこれもが国宝級だ! つまり、これは宝の山なんだ!」
「シン総長、その国宝級アイテムを無造作に積み上げるのは、正直俺もどうかと思うんだけど」
「なあっ!? 突然のケルヴィン君の裏切り!?」
別に最初から味方なんてしていないし。ただ純粋に常識を問うただけだ。
「やはりか。馬鹿な事を言っていないで、早く通信水晶を捜し出したまえ。割れやすいマジックアイテムを適当に放置するなど、上に立つ者として言語道断の行為だぞ」
「ちぇー、分かった、分かりましたよ。所詮私はだらしのない女ですよー」
「何拗ねてんだよ……」
「拗ねてませんー」
葉巻をスッパスッパ吹かしながら、山の中からマジックアイテムを捜し始める総長。この人、普段から自由が過ぎるけど、アートが絡むと更に子供っぽくなるような…… っと、そうこうしているうちに水晶を発見したようだ。
「ほら、発見した上にテーブルの上に置いてやったぞ。上々だぞ」
「また意味の分からない事を…… 水晶越しに私の美しい姿が見えないからと言って、そんなに不機嫌になるものではない。今はこの美声に聞き惚れ、存分に酔うが良い!」
「はいはい、耳が腐る耳が腐る」
「むっ、これは失礼。貴様の耳は元から腐っていたな」
「「………」」
「あ、あの、アート学院長? 喧嘩をする為に連絡を寄越した訳ではないですよね?」
この二人に任せていると、絶対に話が先に進みそうにないので、仕方なく話に介入してやる。ルキルとケルヴィムの時といい、最近は自分勝手な奴が多くて困る。なあ、ジェラールもそう思うだろう? え、何だよ、その懐疑的な目は?
「っと、セルシウス卿に迷惑は掛けられないな。シン、ここは素直に話を軌道修正しよう」
「まあ、ケルヴィン君がそこまで言うなら仕方ないね。アートに対して敬語なのが気に入らないけど、ここはケルヴィン君の顔を立てて触れないであげよう」
「あ、ああ、ありがとう……?」
何で俺が礼を言っているんだろうか。まあ良い、何の話だったっけ?
「最初にも言わせてもらったが、その決戦とやらに私も参加させてもらいたい」
ああ、そうそう、それそれ。それだったね、うん……
「……一応お伺いしておきますが、それはシン総長が参加するから、自分も! とかいう考えですか?」
「まさか。私はシンと違って、そこまで幼い対抗心は持っていないよ。もっと立場的な問題さ。十権能を崇拝する堕天使達は、我が校の教員にスパイを送り込んでまで、生徒達に危害を加えようとした。これはルミエストの学院長として、到底許容できない行為だ。ドロシー君を利用した件も含めて、一歩間違えれば大惨事に至っていただろう。だからこそ、私は責任者である十権能にお灸を据えたい。セルシウス卿、どうか一考してもらえないだろうか?」
先ほどまでの自己陶酔的な態度とは打って変わって、今のアートの言葉のトーンは低く、かなり落ち着いているように思える。いや、静かに怒っていると言うべきか。逆鱗に触れる行為とは、正にこの事だろう。こちらもシン総長と同じく、参戦する理由としては十分なものだ。
……しかし、しかしだ。シン総長に続いて、アート学院長まで参加表明か。心強いが、不安要素が増える予感もまたする。具体的には取り分が減る事を危惧している。どうしよう、ジェラール。トライセンの時みたいに、当日に俺達だけで先駆けるのってアリかな? いや、だからその哀れむような目は止めろって! 俺だって真面目に考えているんだって!
「ああ、セルシウス卿の悪癖は理解している。そう心配せずとも、セルシウス卿の楽しみを奪うつもりはないよ。私が得意とするのは後方支援だ。言ってしまえば、演奏で皆を士気を向上させ、逆に敵側には不利な条件を押し付ける役割だね。宝探しが目的となっているそこのシンと同様に、十権能と直接的に戦うつもりはないと断言しよう。まあ、自己防衛程度は許してほしいものだが」
ああ、そう言えばアート学院長、対抗戦でも楽器を使って戦っていたっけ。学院長の戦闘スタイルは敵の注目を集めに集め、迫る攻撃を躱しに躱し、その上で周囲に補助効果や阻害効果をばら撒くといったものだった。 ……改めて考えてみると、パーティの後方支援役としての能力を掻き集めた、欲張りセットみたいな性能をしているよな。最前線で戦う傾向の強いS級冒険者としては、結構珍しいタイプとも言える。そんなアートが参戦してくれれば、確かに戦況を有利に運ぶ事ができるだろう。
「……そういう事であれば、俺が反対する理由はないですね」
「まあ、アートにしては真っ当な理由だし、良いんじゃない? 精々私を支援してくれたまえよ?」
「すまないが、耳が腐っている者に私の支援は届かないんだ。私怨なら届けてやっても良いがね」
「おっと、支援と私怨をかけたのかな? くふふ、なかなかに上手い洒落じゃないか! ……喧嘩なら買うけど?」
「はいはい、どうどう」
参戦させるにしても、この二人は絶対一緒に行動させちゃ駄目だな。俺、密かにそんな決意。
「ふむ、S級冒険者が揃い踏みじゃな。王の意向は兎も角として、ワシは貴殿らと共に戦える事を光栄に思うぞい。そういえば王よ、他のS級冒険者達はどうするのじゃ?」
「ん? ああ、人によりけりかな。今ダハク達と一緒に居るバッケは、十権能と言うよりもダハクに興味があるから指導をしている感じで、今のところ戦い自体に参加する可能性は薄い。一方でグロスティーナに関しては、プリティアちゃんの事もあって意欲的だ。まず間違いなく参加するだろう。残る東大陸のS級、レオンハルトとシルヴィアは…… んー、微妙なところかな。レオンハルトは国益が第一だし、シルヴィアは今、トラージの客将扱いだ。客将だから比較的自由だろうが、それでもツバキ様の意向を無碍にはしないだろう」
「ふうむ、難しいものじゃのう」
「その辺、調整役を任された私はどうすれば良いのかな? S級冒険者も歴としたギルドの面子だ。騒動解決の為に参加させる方向で進めちゃう?」
「……それ、わざと言ってるよな?」
「くっふっふ」
葉巻なんてものを吸っている癖して、総長の笑みは非常に子供っぽいものだった。決戦前に先んじて敵拠点に乗り込む作戦、真面目に考えておいた方が良いかもしれん。