作品タイトル不明
第184話 兄貴分
「ケルヴィンの兄貴、挨拶が遅くなって申し訳ないッス! 何分、鍛錬中だったもんで!」
ダハクの鍛錬風景を眺める事、暫くして。座禅を終えたダハクが、挨拶をしにダッシュでこちらへとやって来た。
「いやいや、そんな事は気にしなくて良いよ。むしろ、ダハクの鍛錬姿に感動を覚えたくらいだ。お前の覚悟、痛いほど伝わって来たよ」
「へへっ、当然ッスよ。俺、プリティアちゃんの為に命捧げるつもりッスから。あ、でもマジで死ぬ気は全然ないッスからね! そんな事したってプリティアちゃんは喜ばないだろうって、俺は分かってるッスから。助け出す覚悟があるなら、助け出す側も無事に生還! これは絶対ッスよ!」
……っと、ダハクの成長っぷりに、不覚にも少し感動してしまった。この様子なら、俺から言う事は特になさそうだな。それくらい今のダハクは頼りになる。
「ところで、何でムドとボガがここに居るんスか? エフィル姐さんの所に居た筈じゃ?」
「それがさ、ここのところ怠惰な生活を送ってばかりでな。このままじゃ竜王としてどうなのかと思って、ここに強制連行した。要するに、ダハクと一緒にバッケに鍛えてもらおうって魂胆だ」
「ああ、なるほど。理解したッス」
「わ、私はまだ見極めている途中。正直、さっきの鍛錬内容も全ては納得していない」
「おでもここで鍛錬するがは、まだ決めてなぐて……」
現在、指南役のバッケはグロスティーナを呼びに行くと言って、ここを留守にしている。その為なのか、ムドとボガも多少の冷静さは取り戻したようだが…… うーん、まだやりたくねぇオーラが滲み出ているんだよなぁ。どうしたもんかね?
「おう、声が震えているじゃねぇか。お前ら、そんなに嫌なのか?」
「だ、だって、身の危険が凄い……」
「だな…… おでを見る目が怖い……」
「ったく、竜王が弱音を吐くんじゃねぇよ。いいか? バッケは確かに色んな意味でこえーし、まるで獲物を見るような視線をぶつけて来やがる。毎日二十四時間、どんな時でもな。お蔭で寝る時だって、俺はずっと警戒が解けねぇし落ち着かねぇよ」
「それは……」
「酷いんだな……」
うん、それは確かに。俺も就寝中、メルの寝相の悪さに何度殺されそうになった事か。ほろり。
「けどよ、俺達がこれから挑もうとしている壁は、それ以上にやばいもんなんだぜ? プリティアちゃんでさえ敵わなかった、最強の敵…… 俺はそれを直に見て、肌で感じて、力量の差を理解した。今のままじゃぜってぇに勝てないってな。だからよ、俺は強くなりてぇ。今こそ、ケルヴィンの兄貴やジェラール旦那を超えて、それこそプリティアちゃんを超えて、強くなりてぇ。その為なら、俺は地獄みてぇなこの場所に、足を踏み入れられる。何なら、住んでやってもいい」
「「……ゴクリ」」
拳を固め、己の覚悟を言葉にして示すダハク。その圧に押されてなのか、ムドとボガは無意識に息を呑み込んでいた。
「お前らもよ、竜王になった事に浮かれている場合じゃないと思うぜ? プリティアちゃんの件を抜きにしても、兄貴達は常に前へと歩き続けている。舎弟としてよ、そんな兄貴の顔に泥を塗りたくねぇんだ。隣に立つどころか影も踏めねぇようなら、兄貴達と一緒に戦う意味もねぇ。お前らは違うのか?」
「私は……」
「おでは……」
待って、ちょっと待ってほしい。ダハクの不意打ちの言葉が、俺の心に突き刺さっているんですけど? やだ、本気で逞しい…… お前、この短期間にどんだけ成長しているんだ? 少しどころか、マジで感動して来てるぞ? 俺まで涙目になってしまいそうだ。
「……主、私もダハクと一緒に、ここで鍛錬したい。主の足を引っ張って、エフィル姐さんに迷惑を掛けたくない。その為なら、私も地獄に突き進む!」
「えっと、えっとぅ~~~…… おでも、皆に迷惑、がけたぐないんだな。おっし、おでも、やる……! さ、最適、化……? っでの、ものにする……!」
「へっ、漸くかよ。まっ、途中で心が折れないように、精々気を付けるんだな。ここでの鍛錬は生半可な覚悟じゃ務まらないぜ?」
「ダハクの癖に生意気。ダハクにできるのなら私にもできる。それを証明する」
「おでは自信ないげど、が、頑張るど……!」
ダハクの成長は、ムドとボガにまで良い影響を与えたようだ。もうここには、バッケに恐怖する竜王の姿はどこにもない。レベルやステータスだけでなく、精神面も大きく変化しようとしているムドとボガ――― 控えめに言って、感動的な光景だ。どいつもこいつも、俺の為に強くなろうとしてくれている。嬉しいなぁ、どこまで強くなってくれるのかなぁ。
「話が纏まったようだねぇ。ケルヴィン、アンタもついでに鍛錬していくかい? アタシは歓迎するよ?」
「やだん、素敵な青春してるわねん。私も交じり合いたいく・ら・い(はぁと)」
「……バッケ、グロスティーナ、急に背後に現れないでくれ。俺のノミの心臓が破裂するところだったぞ」
「今の今まで不気味な笑顔を作っていた、戦闘馬鹿の言葉とは思えないねぇ?」
「人を見た目で判断するのはいけないと思います」
バッケがグロスティーナを連れて帰って来たようだ。鍛錬の誘いは嘘偽りなく嬉しいが、そこまでの長居はできないので、ここは丁重にお断りしておく。いやあ、マジで残念だよ、マジのマジ。
「おう、グロスも来たか! 今日からこいつらも世話になるからよ、よろしくしてやってくれ!」
「うふっ、了解よん。私が手とり足とり教えてあげるん。色々と、ねっ(はぁと)」
「おい馬鹿、手とり足とり教えるのはアタシの役得――― 仕事だろうが! ケルヴィンが頼んだのはアタシの方! なら、アタシはこいつらを立派に成長させる義務がある!」
「今、役得って言わなかったぁ? も~、そんなケチな事を言っている場合じゃないのよぉ? 確実にお姉様を助け出す為にも、ここは協力するべきなのん! 私、全てを曝け出す覚悟なんだからん!」
「その覚悟はダハクに決めさせな! それならアタシも歓迎するから!」
「近接戦は戦いの基本よん! あって損はないわん!」
「竜には竜の戦い方がある! 今は狭く深く学ぶべきだろう!」
「ゴルディアの継承!」
「理想追及による竜人化!」
「「~~~ッ!」」
何やら醜い言い争いを始めてしまったバッケとグロス。うーん、一体どこからツッコミを入れるべきだろうか? まあ、これでも二人は俺と同じS級冒険者なんだ。どこかで折り合いをつけて、丁度良い指導をしてくれる事だろう。きっと、多分。
「……ボガ、この展開に私達はどうするべき? 早くも試練突破難度が二倍になってしまった」
「か、覚悟を沢山、決める……?」
「おう、決めろ決めろ。それで強くなれりゃあ役得ってもんだ! 俺のかーちゃんもよく言っていたもんだぜ? 地獄でこそ最高の根性を入れやがれ、ってな!」
「「それ、どんなかーちゃん……?」」
フフッ、ダハクもすっかり良い兄貴分になったもんだ。所々に不安要素もあるが、逞しくなったダハクが居る事だし、ここは任せてしまっても大丈夫かな。さて、俺はそろそろお暇させてもらおうかね。ええと、次は―――
「「―――ケルヴィン(ちゃん)はどう思う(のん)!?」」
「………」
唐突に話を振られた俺は、無言のままジェラールを召喚。反射式召喚術移動法を活用し、次の目的地へと脱出するのであった。