軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第174話 メタ張り

ケルヴィンがケルヴィムの間近にまで接敵した事で、お互いが攻撃を仕掛ければ確実に相手に当たるであろう状態になっていた。大鎌を構え、攻撃を放つ寸前の体勢となるケルヴィン。対するケルヴィムもまた、反射的に大鎌を構えての迎撃体勢となっていた。突破された骨の翼を再構成しても攻撃は届くだろうが、それよりも手元の大鎌で攻撃した方が早いだろう。

(おい、ここまで来てやったぞ? 後は分かるよな? 殺らなきゃ殺られる場面だぞ? 分かるよな?)

(フハハッ! 面白い! こいつ、本当にここまで到達して来おった! 良いだろう、その覚悟を称賛しよう、受けてやろうではないか!)

間近で視線をぶつけ合った二人は、それだけで相手が何を考えているのかを理解した。双方が繰り出すは、相手を殺す為の一撃――― 自らの守りを度外視した、肉を切らせて骨を断つ為の攻撃である。

―――ズズッ。

「「……ッ!」」

振るわれた大鎌が互いの敵へと命中する。

ケルヴィンの 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) 、袈裟斬りの形で振るわれたこの絶対斬撃は、ケルヴィムの左腕をまず両断し、その勢いのまま彼の胴体をも斜めに断ち切った。左腕を失い、肉体が上下に分かれてしまったケルヴィムは、その断面より夥しい量の血液を撒き散らす。しかし、それでも死の神は笑っていた。吐血した口で、ケルヴィンのような笑みをこぼしていた。そう、彼もまた攻撃を終えていたのだ。

ケルヴィムの 閻帝の法鎌(アヴィスターク) 、真下から抉り込むような形で振るわれた致死の刃は、ケルヴィンを確実に捉え、その身に攻撃を食らわせていた。当然この攻撃には『致死』の権能が使用されており、接触=即死という理不尽な方程式が成り立つ――― 筈(・) だった。それでも死神は笑っていたのだ。致死の攻撃を食らった上で尚、いつもの笑みをぼしていたのだ。そう、ケルヴィンは死んでなどいなかったのだ。

「 皮膚下の金剛剣(クシャスサルブ) !」

攻撃を放った直後、文字通り半身の状態になっているにも拘わらず、間髪入れずケルヴィムは追加の魔法を放った。胸部の中心から巨大なる剣を放出し、貫くというよりも吹き飛ばすという形でケルヴィンを彼方へと追いやる。この致死攻撃もケルヴィンにヒット――― した筈なのだが、ケルヴィンは吹き飛ばされる最中に空中にて急ブレーキをかけていた。そして、先ほどの歪なままの笑顔をケルヴィムへと向けるのであった。

「クハハッ! 自分の権能を信じている割に用意周到、いや、流石の柔軟さと言うべきか!? 追撃の先手を取られちまった! どちらにせよ、お前が生きていてくれて嬉しいよ!」

口を忙しなく動かしながら、巨大レーザーをぶっ放すケルヴィン。

「お前の感想などどうでも良い。なぜお前がまだ生きている? 俺が聞き出したいのはそれだけだ。ああ、この魔法には妙なトリックを仕込んでいないようだな」

大鎌でレーザーを切り裂き、その全てを消失させるケルヴィム。

「ああ、魔力馬鹿の俺も、流石に休憩なしに連打するのはキツイんでな! しかし大したもんだよ、良い根性だ! そんなにまでなって、よく生きていられるな!?」

メルから借りて来た『大食い』のスキルで魔力回復薬を一気飲みしながら、またまた接近を試みるケルヴィン。大鎌や周りの巨剣の残弾も新たに補充し終わっており、先ほどよりも明白に殺る気が漲っている事が分かる。ついでに口端も、これ以上ないほどに吊り上がっている。

「俺の『自然治癒』力を舐めるなよ? この程度、秒で再生してくれるわ。だが、なるほど、そういう事だったのか……」

ケルヴィンが到達するまで骨の翼で迎撃し、その刹那の間に失った下半身と左腕を、断面から新たなに生やすように再生するケルヴィム。一方で破損した装備までは再生できないようで、元から裸だった上半身+新たに再生した下半身…… イコール、現在は殆ど全裸に近い格好になっていた。ただ、この場面でそんな事を気にする者はいないので、些細な問題にもならないだろう。

「おおー、すっげぇ! プラナリアかよ!?」

「驚くのは言葉だけで、体は戦闘行動を維持したままなのだな。まったく、噂に違わぬ大馬鹿者だ」

物理魔法固有汎用スキル諸々の殴り合いの中、ケルヴィムは漆黒の輪、 風葬の黒天輪(ジブリール) を翼の先端に大量に展開し、それごとケルヴィンへと叩き付けた。ケルヴィンがそれを迎撃すると、その瞬間に輪が波紋となってランダムな角度へと各自展開。回避する隙間もないほどの密度で放たれたそれら波紋の幾つかを、ケルヴィンはもろに受け止めてしまう。

「……だが、今回も権能の効果は発揮せず、か」

「ああ、喜ばしい事に、な!」

二人の攻防は未だ止まらず、口もまた止まる兆しが見当たらない。

「これまでの攻防でハッキリした。ついでに頭も冷えた。礼を言っておこう」

「はて? 何がハッキリしたのか、言葉にしてくれないと分からないな! 言えよ、お喋りなんだろう?」

「リドワンが俺の天敵であるという、お前の発言の意味だ。リドワンに与えられた権能は『 不壊(ふえ) 』、如何なる攻撃も魔法も受ける事のない、無敵の肉体を手に入れる事のできる力だ。だが、それだけでは俺の権能を無効化する事はできない」

「ああ、そうだな! それだけだったのなら、俺もこんな馬鹿な真似をする事はなかった!」

権能『致死』、接触しただけで対象を死に至らしめるこの力は、途轍もなく強力なものだ。だが、ケルヴィンはそれだけの力を発揮させる為に、条件や縛りが何もないのはおかしいとも考えた。その上でケルヴィンがこの戦いを通じ、明らかにした『致死』の縛り条件は二つ。一つはこの権能を付与する攻撃の種類が、斬撃や貫通させるといった物理的に損傷を与える行為に限られる事。そしてもう一つが、対象が生物として少なからずの自我がある、或いは魂的なものが備わった対象でないと、力が発揮されないというものだ。

ケルヴィンはこれら仮説を検証する為、密かに竜巻の中に銃の弾丸程度に小型化させた、ハードの一部を仕込んでいた。もちろん、もしもの事があってはならないので、戦いの最中にハードを一度デラミスのコレットのところに召喚し、死を巻き戻す巫女の秘術『 生還神域(アルカディア) 』を施してもらうという手間も掛けている。結果として、 風葬の黒天輪(ジブリール) の波紋に接触してもハードは死なず、また接触面から黒の波紋がノコギリ状の刃として高速回転していた事も判明する。要はケルヴィンの立てた仮説は、どちらも合っていたのだ。

よって自らをハードで覆い、彼の権能で守りを固める 智慧形態(アスタロトフォーム) は、『致死』の権能に対抗できる最高の手段となった訳だ。自我を持たないハードが盾となる事で『致死』を無力化し、物理的魔法的なダメージも『 不壊(ふえ) 』でなくす事ができるとなれば、これ以上の対抗策は存在しないだろう。言ってしまえば、最高のメタ張りなのである。

「……なるほどな。リドワンの魂が 聖杭(ステーク) に献上された事を見抜き、それが俺の権能の弱点になり得ると、そう推測したのか。まったく、俺さえも知らなかった権能の欠点を、こんなところで知る事になるとは」

ケルヴィムが攻撃を払い、片手を突き出して、所謂待ったのポーズを取る。

「……何の真似だ?」

「残念な事に時間切れだ。時間内に十回は殺せると踏んでいたが、これがなかなかどうして。ああ、認めよう。お前の力は俺の予想、その遥か上を行っていた。 ……俺の負けだ」

パキパキと、ケルヴィムの角や翼に亀裂が走り始める。やがてそれらは完全に崩壊し、ケルヴィムは権能を顕現させる前の姿に戻っていた。 ……無論、装備までは元通りにはならず、裸のままだが。

「ったく、潔いのも考えものだな。徹底抗戦してくれないと、こっちは消化不良だぞ? ……気分変わった? もっとバトルしない?」

「変わらん。せん。これ以上の戦闘は本当に殺し合うまで続くものになる。そうなってしまえば、どちらかが勝つにしろ、勝者もただでは済まないだろう。エルドと戦う前からそこまで消耗するのは、絶対に避けなければならん。それに、どうせ戦闘狂のお前の事だ。俺が要請しなくとも、自らエルドと戦いに行くのだろう?」

「……まあ、行っちゃうだろうな、うん。けど、本当に良いのか? 敗北それ即ち、俺の配下になるようなもんだぞ?」

「別に構わん。事が済んだら反旗を翻せば良いだ」

「おい、ぶっちゃけ過ぎだろ。少しは隠せ」

「必要ない。これもまた戦闘狂のお前の事だ。俺の反逆も喜んで受け入れて、戦いに臨んでくれるのだろう?」

「……まあ、受け入れるかも……?」

「なら問題ないではないか。この状況は両者にとって好都合! そうだろう!?」

「……そうだな!」

ケルヴィンは戦闘に勝つ事はできた。が、何やら言いくるめられているような、そんな空気が漂っていた。