軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第172話 黒の戦い

迫り来る黒の波紋を躱す。先ほども言ったが、これ自体は簡単な事だ。だが、周囲に展開している 斬裂旋風群(ハリケーンリッパー) はそうもいかない。竜巻の壁らしく海面から上空に至るまで、絶対に当たるであろう高さを誇っていたからだ。

―――ズッ。

敵の最も近い位置にいた竜巻が、黒の波紋に接触してしまう。するとその瞬間、竜巻は魔力を消失させて消えていた。ついさっき、俺の大鎌がケルヴィムの大鎌と衝突し合った時のように、だ。そうしている間にも、黒の波紋は次々と竜巻を巻き込み、消失させていく。普通巻き込むのは竜巻側だろと、軽く冗談を言ってしまいたいくらいに愉快な光景だった。

「だけど、ジョークは連続して言うもんじゃないってな!」

まだ無事な状態にある 斬裂旋風群(ハリケーンリッパー) を操作し、波紋の軌道に入らないように分離を行う。上下真っ二つに分かれた竜巻は、海を巻き込む下の方はそのままに、空を駆ける上の方はより自由に動き回れるようになっている。

「ほう、あの大規模な竜巻を二つに分けるか。器用なものだな」

「戦闘中の無駄話も嫌いじゃないが、今は戦いに集中してほしいんだが?」

「まあそう言うな。こう見えて、俺は結構お喋りな方なんだ」

「ああ、そうかい!」

分離させた竜巻五つを合体させ、風車のような形へと変化させる。既に羽の一つ一つが回転している訳だが、更にこの風車自体を回転させて――― 放出する。

「 斬裂旋風車(ヴィントミューレ) !」

こいつは通り過ぎる物体全てを粉砕する、言うなれば巨大なシュレッダー、いや、採掘機のようなものだ。地上だと周辺への被害が酷い事になる為、こういった何もない海の上でしか使用できない魔法の一つである。だけど、そんな危険な魔法もこいつからすれば―――

「 閻帝の法鎌(アヴィスターク) 」

―――たった一度、大鎌で斬りつけるだけで無効化されちまうんだからな、本当に堪らないよ。血が滾る。

「フッ!」

「なるほど、今の魔法は目眩しに過ぎなかった訳か!」

斬裂旋風車(ヴィントミューレ) の陰に隠れながらケルヴィムへの接近を果たしていた俺は、壁が無力化されたのと同時に大鎌を振るった。奴が風車を迎撃し、その隙を狙っての攻撃だ。当然、序盤も序盤なこの程度の策で奴がやられる筈もなく、攻撃後の態勢から難なく躱してくださった。詳細不明の能力、大鎌の扱いだけでなく、こいつは体術にも期待を持たせてくれるらしい。

「おいおい、俺も大概だが魔力が底知れないな、アンタ!」

「驚いているのは俺の方だ。ケルヴィン、お前は本当に人間か? その規模の魔法を、なぜ連続で詠唱する事ができる?」

大鎌で斬り合い、壊され、形成し直し、雑談に興じる。強敵との戦いとは忙しいものだ。ついつい時間を忘れてしまいそうになる。

「っと!」

嫌な予感がした為、奴の大鎌を躱すついでに真下へとダイブ。するとその直後、先ほどまで俺が居た場所に、何かが背後の方から戻って来ていた。さっきの黒の波紋、彼方へと通り過ぎて行った筈の、あの輪っかである。

「おいおい、ブーメランかよ!?」

「投げてそれだけでは、魔法として芸がないだろう?」

そんなケルヴィムの言葉を体現するかのように、戻って来た輪は上下左右と目まぐるしく矛先を変えながら、その場で回転し続けている。なるほど、輪を外側へ展開している時以外は、ああやって輪自体を動かす事もできるのか。

「ああ、そうだ。折角だから警告しておこう。俺の権能は『致死』だ。俺の攻撃はどのようなものであれ、触れただけで死に直結する。精々気を付ける事だ」

「そいつはご丁寧にどうも……!」

どうせ触れたらアウトなのだからと、ケルヴィムは自信満々に能力を説明してくださった。致死、つまりは接触そのものが即死に繋がるって事か。触れたものを最低値のステータスにまで退化させるクロメルの力と同じくらい、嫌らしくも実用的な攻撃だ。 ……ん、即死? さっき確認したのは、魔法の消滅だったぞ?

「ケルヴィン、お前はこう思っているのだろう? 致死が俺の力であるとすれば、さっき魔法を掻き消したのは一体なぜなのか、とな! 教えてやろう、戦いながら心して聞くが良い!」

「ええっ……」

今までにないタイプの説明の仕方に、期待していた戦闘中であるにも拘わらず、俺は何とも間の抜けた表情を作ってしまった。いや、戦うけどさ。今も大鎌を壊し輪を壊し、他にも色々と魔法のクソ激しい応酬をしているけどさ。展開は兎も角内容は満足だけどさ。何か腑に落ちねぇ……

「我が権能『致死』は、生ある者を不条理に死に至らしめる最凶の力! 生物はもちろんの事、それらが発した魔力をも死滅させる事が可能なのだ! 先ほど、お前の魔法が消失したのもその為よ!」

「要はHPだけでなく、MPも0にするって事か!?」

「理解が早いな、流石は俺が目を掛けた男よッ!」

「またまたどうもッ!」

「興が乗った! お前にだからこそ教えてやるが、俺はまだ権能を完全には顕現させていない! その意味が分かるか?」

「権能の力はこんなものではない! プラス、俺はまだ本気を出していない! って事だと嬉しい!」

「その通りだ! だが、この程度の戦闘にはまだ出してやらん! なぜならば、お前もまた本気を出していないからだ、ケルヴィン!」

お喋りが過ぎる性格にこそ難はあるが、こいつの実力と能力はやはり厄介そのものだ。このまま実直に戦うのも乙なものだが、トータルで考えると一度でも触れたらアウトな俺が不利。奴の義体の制限時間も無限ではないだろうし、いたずらに戦闘を長引かせるのは論外だな。

「 栄光の聖域(グローリーサンクチュアリ) !」

「何かと思えば、この程度――― 皮膚下の鉄剣(クシャスアラ) !」

栄光の聖域(グローリーサンクチュアリ) による拘束を試みるも、奴の体から突如として生えて来た数本の黒剣が、結界のリングを全て貫き破壊してしまう。多分、黒魔法に権能の力を付与しているんだろうが、そんな義父さんみたいな事もしちゃうのか。リーチのある大鎌の攻撃なら大丈夫だが、それ以上の接近戦、たとえば格闘術での戦いを仕掛けていたら不味かった。

「……フゥ」

奴の体の中に黒剣が戻って行くのを見届け、小さく息を吐く。俺の周囲には先の戦いの最中に生成した 剛黒の黒剣(オブシダンエッジ) が群体で浮遊しており、その矛先をケルヴィムに向けている。が、これを放出したところで、結果は今までと変わらないだろう。

「どうした、もう疲れたのか?」

「いいや、余力を残した戦いはこのくらいにして、そろそろ本気をぶつけ合いたいと思ってさ。そっちにも義体の制限時間があるんだろ? ならこの戦い、時間切れなんかで終わらせたくない。それにケルヴィム、お前の本気も是非この目で見てみたいんだ」

「……それはつまり、お前も漸く本気を出すと?」

「本気もそうだが、召喚士としての本領の発揮するって意味もあるかな」

「召喚士……? ああ、なるほど、そういう事か。だがケルヴィンよ、俺を相手に頭数を増やすのは愚策ではないか? 確かに攻め入るチャンスは増えるだろうが、同時にそれは仲間を危険に晒す行為でもある。四肢の欠損、肉体に大穴を開ける程度の負傷であれば、お前の白魔法で癒す事もできようが…… 死んでしまっては無に帰すのみ、汎用の力では生き返らせる術などない。それともケルヴィン、お前にそのような力があるとでも?」

「いいや? そんな上等な力、俺にはないさ。見た事はあるけどな」

「何?」

尤もその術も、エストリアの使徒脱退によって、今や失われている訳だが。俺が考えている策は、もしもの事態が起こってからの事ではない。そんな最悪な展開にさせる気もない。

「来い、ハード」

俺の手元に黒き球体、配下のハードを召喚する。

「ッ! ……お前」

「お前にとってこいつは天敵だったりするんじゃないか? なあ?」