作品タイトル不明
第171話 死の神
ケルヴィムの考えは分かった。よく理解できた。他世界に殴り込みに行く云々はさて置き、共に十権能の長を倒しに行く事自体は、俺としてもやぶさかでない。敵の本拠地である 白翼の地(イスラヘブン) の場所がハッキリするだろうし、ルキルの情報とのすり合わせもできるだろう。この誘い自体が罠って可能性もあるから、その辺りは警戒すべきだろうが…… 何というか、こいつが嘘を言っているようには思えないんだよな。まあ、ここは後でセラ達にも確認すれば、実際のところが見えて来るだろう。って事で、総合的に考えれば協力するメリットはでかい。でかい…… が。
「そして、お前も強いんだよな、ケルヴィム?」
「……? そう言っているだろう?」
「なら、それを俺に確認させてくれよ? 他世界の神々との喧嘩、十権能への加入――― お前の言う通り、その成功報酬は俺にとってかなり魅力的だ。だが、仮に協力してエルドを倒せたとしよう。下剋上狙いではなかったとはいえ、その後はなし崩し的にお前がトップに立つ事になるんだろう?」
「……ああ、他の十権能との多少の議論はあるだろうが、十中八九そうなるだろう。それがどうした?」
「不安なんだよ。そんな未来の上官様が、俺よりも弱かったらどうしよう、ってな」
「……ほう?」
ケルヴィムから僅かに殺気が漏れ出す。ああ、どす黒くて良い殺気だ。
「だからさ、お前の強さを俺に体験させてほしいんだ。良いじゃないか、少しくらい。十権能のナンバー2なら俺との戦闘程度、赤子の手を捻るようなものだろ?」
「フッ、簡単に言ってくれるものだな。生憎と、俺の力は加減するのに適していない。試すと決めたが最期――― お前、死ぬぞ?」
緩めていた蛇口を一気に全開にしたかの如く、ケルヴィムから心地の良い殺気が溢れ出した。それと同時に、俺の口端も吊り上がってしまう。だって、ほら、ククッ…… こいつ、想像以上なんだよ。
「まあ、何だ。そんな詰まらない事は心配してくれなくても良い。それにだ、お前と戦って即刻死ぬ程度の男が、お前よりも強いというエルドと戦って、戦力になると思うか? 思わないだろう? 十権能の一度や二度倒したって戦歴はこの際捨て置いてさ、自分で協力相手の力を見定めるのが一番現実的だ。 お互い(・・・) にとって、さ」
「ク、クククッ、なるほどなるほど、なるほどな。ケルヴィン、お前がずっと俺と戦いたがっていたのは、そういう意図があった訳だ? ただの戦闘狂だとばかり思っていたが、なかなかに聡い面もあるではないか。気に入ったぞ」
「……ああ、俺は最初からそのつもりだったからな」
嘘は言っていないぞ、嘘は。
「ならば、お望み通り付き合ってやるとしよう」
「その気になってくれて嬉しいよ。ああ、そうだ。折角のバトルなんだ。ここはひとつ、ゲーム的な要素も入れてみようか。そうだな…… 敗者は勝者の命令を何でもひとつ聞くってのはどうだ? 単純で分かりやすいだろ? お前が勝ったら、さっき言った案を全て呑ませる事もできるし、気に入らなければ俺に止めを刺せば良い。何なら、誓約書も書こうか?」
「……不要だ。闘争の果てに、そのような無粋なものは必要あるまい。そもそもゲーム云々以前に、屈服させた相手への支配権が勝者に与えられるのは、至極当然の事だ」
「ハハッ、話が早くて助かるよ」
俺が黒杖を肩に担ぎながら距離を取ると、奴も同時に後方への移動を始めた。良いね、打ち合わせもなしに公平な間合いを自然に取れるってのは。最初とは違って、この辺の空気は読んでくれるもんなんだな。
「思いの外話が長くなっちまった。 義体(そっち) の制限時間が来る前に、さっさと始めてしまおう。準備は良いか?」
「無論。測ってやろう、見定めてやろう、そして屈服させてやるぞ、ケルヴィン! 冥府の旧支配者にして『死の神』と謳われた、このケルヴィム・リピタがな!」
「お、尚更に良いねぇ。戦場での名乗り上げってやつか。じゃ、コホン…… S級冒険者、『死神』のケルヴィン・セルシウスだ! 非力ながらに抵抗して、ついでに楽しませてもらおうか!」
闘気を、魔力を、プレッシャーを解き放つ。周辺の海やら雲が何やら荒れ始めているようだが、今はケルヴィムにのみ集中する。
「 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) !」
「 閻帝の法鎌(アヴィスターク) !」
手始めに出現させるのは、やはり頼れる相棒の大鎌だ。手に馴染み、より戦闘意欲を掻き立ててくれる――― なんて思っていたら、ケルヴィムも大鎌を出して来やがった。どこまでも黒く、かつて黒女神時代のクロメルが使っていた、あの真っ黒な魔法に似た雰囲気の大鎌だ。バトル中にこんな事を考えてしまうのも何だが、 戦闘スタイル(そこ) まで似てしまうもんなのか? つか、さっきの口上で二つ名も似てなかった?
「けど、何気に鎌対決は初めてだな。それはそれで新鮮で良し……!」
「使い古した良い得物ではないか。だが、俺の方がより危険だぞ?」
「「……フッ!」」
奴が振るった漆黒の大鎌と、俺の振るった暴風の大鎌が正面から激突する。
「「ッ……!」」
衝突するや否や、俺の大鎌が消失し、敵の大鎌がスッパリと両断された。この展開は素直に喜んで良いものだろうか? リドワンもといハード戦の時とは違い、敵側にも攻撃は通じている。しかし、こちら側もただでは済んでおらず、よく分からない効果で大鎌が消えてしまった。いや、大鎌に使っていた魔力自体が瞬時になくなったと言うべきか。攻撃の衝撃波で割れてしまった海や雲はそのまま残っているから、やはり魔法を対象に作用しているのか? ……ハハッ、愚問だった! この展開は実に喜ばしい!
「嬉しいなぁ、初見の強敵との戦いってのは! 魔力吸収の類か、それとも魔法を無力化する力か!?」
「フン、俺の 閻帝の法鎌(アヴィスターク) を斬ってしまうとはな。お前の力は単純だが、だからこそ凶悪であるらしい!」
俺達は再度大鎌を展開させ、攻撃を仕掛け合う。得物をぶつける度に双方の大鎌が破壊されてしまう為、敵よりも早くに大鎌を再生し、如何にして敵よりも早くに大鎌を振るうか、そんな勝負に入っている感じだ。敵も大鎌の扱いに長けているらしく、このゴリ押しの押し付け合いは拮抗。計二十回ほど大鎌が破壊された辺りで、俺達は弾けるようにして互いに距離を取っていた。
「 斬裂旋風群(ハリケーンリッパー) !」
間合いを取る時間ももったいない。その間にS級緑魔法【 斬裂旋風群(ハリケーンリッパー) 】を詠唱した俺は、この海域に幾つもの竜巻を発生させた。真下の海水を巻き込んで周囲を旋回するこいつらは、攻撃手段であると同時に頑丈な防壁、更には目眩しとしても機能する万能魔法だ。更に更に、この竜巻達は合体と分離が可能で、様々な戦況に対応する事ができる。さて、ここからどう攻めて―――
「――― 風葬黒天輪(ジブリール) 」
俺が詠唱を完了させた直後、ケルヴィムが漆黒の波動、輪っかのようなものを周囲に拡げた。水滴が水面に落ちた時に生じる波紋の動きの如く、その輪は横へ横へと凄まじい勢いで拡がり続けている。漆黒の波紋は紙のように薄く、速いと言ってもただ横に拡がっているだけなので、俺が避けるのは容易だ。けど、触れるのはマジでやばい。何があっても絶対に触るなと、さっきから俺の察知スキルが警報を鳴らし続けている。