軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第161話 ロールオーバー

―――ゴンッ!

(~~~ッ……!)

ゴロゴロと物理的に転がり込んで来たカチュアは、そのままの勢いで部屋の中にあったチェストの角に頭をぶつけた。それなりに大きな音が部屋に鳴り響き、次いでカチュアがぶつけた頭を抱え始める。

「だ、大丈夫ですか!?」

「良い音が鳴ったわね」

「はい、すっごく良い音でしたね~」

逸早くカチュアへと駆け寄るリオン、冷静に(?)状況を把握するセラとアーチェ、残るドロシーは何やってんだと溜息をひとつ。兎も角、何があったのかカチュアは酷く慌てた部屋へと入って来たのだ。様子から察するに緊急のようだが、何とも締まらない。

「いたたた…… って、それどころじゃなかった! アーチェさん、大変なんですってうわああああ! あばばばばば……!」

カチュアが一瞬正気を取り戻すが、アーチェの隣に立っていたセラの姿を目にして、再び錯乱状態へと舞い戻る。どうやらセラが自然と発する潜在的な強さが、『人間計測器』としての彼女を強く刺激してしまったようだ。

以前ケルヴィン達を案内した時は、予め覚悟を決めていた為、 あの程度(・・・・) の取り乱しで済んでいた。リオンなどの生徒のレベルの逸脱した者達は、それなりの期間を経る事で多少慣れ、噛み噛みの恐る恐るながらも挨拶を交わせる程度になっていた。しかし、今回のセラとの邂逅は全くの予想外のもの、カチュアにとっては泡を吹くレベルでやべぇものであったのだ。察知能力に敏感過ぎる彼女にとって、セラという存在は劇物以外の何ものでもない。結果として、彼女は―――

「はたっ……」

「カチュアさーん!?」

―――白目をむいて、気絶してしまう。

「ちょっと、何か私を意識しながら気絶した気がするのだけれど、これってどういう事?」

「うーん、どうやらセラさんが刺激的過ぎたみたいですね。なるほど、これが大人の魅力……!」

「お、大人の? ……フフン、それなら仕方ないわね。フフンフフン、大人の魅力だものね!」

傍から見れば失礼でしかないカチュアの行動であったが、アーチェによる咄嗟のフォローによって、セラは納得して満足もした様子だ。しかし、状況は何も進展していない。

「と、取り敢えず、メルねえ印の回復薬を飲ませて…… ど、どうかな?」

「んぐんぐ…… ハァッ!? こ、ここは!?」

「「あ、目覚めた」」

メル印の回復薬は見事カチュアを復活させた。それと同時に、自らの魅力の怖さを理解(?)したセラが、部屋の物陰へと隠れる。

「カチュア事務員、大丈夫ですか? 貴女、部屋に転がり込むなり、チェストの角に頭をぶつけて気絶したんですよ?」

「そそそ、そうだったんですか? すす、すみませんすみません! とんだお目汚しをばっ!」

「それよりも、血相を変えて焦っていた様子でしたが、どうしたのです? また学院長が金ぴか衣装でも着始めたんですか?」

「ちち、違います違います! 流石の私だって、そんな日常的な出来事で錯乱したりしませよぉ!」

「に、日常的……」

「あはは……」

どうしてルミエストの実力者には、教員生徒問わず変な者しかいないのかと、ドロシーはつまんだ右手を眉間に当てた。まともな人間性の持ち主は友達のリオンだけじゃん! と、そんな気持ちであるらしい。だがまあ、それは何もルミエストに限った話ではないのだが。世界規模の話であったりするのだが。

「それで、結局何があったんです?」

「きき、来てるんです! 大きな何かが、このルミエストに近付いて来ているんです!」

「大きな?」

「何か?」

要領の得ないカチュアの言葉に、一同は一度顔を見合わせる。

「えっと、それだけじゃよく分からないですね…… 巨大なモンスターが現れたとか、そういう話でしょうか?」

「いい、いえいえ、全然違います! その程度のものなら、学院長やアーチェさんが退治してくれますし! ええと、何て言えば良いんしょうか…… まるで姿が見えないのですが、上空から途轍もない規模の物体が、途轍もない気配を乗せて移動しているような、そんな感じなんです! ハッキリしない気配なのに、隠そうとしているものが大き過ぎて、凄くもやっとしていて…… 私、こんなよく分からない感じでいるのが初めてで、すっごく気持ち悪いんです! 敵意っぽいものも感じますし!」

「う、ううーん?」

「「………」」

相変わらず要領の得ない話が続き、珍しく困り果ててしまうアーチェ。しかしその一方で、セラとリオンはその話に思い当たる節があった。

『セラねえ、これってルキルさんが奪ったっていう、 聖杭(ステーク) の特徴に当て嵌まらないかな? 杭の形をしたとっても大きな船だし、確か『隠密』能力を持っていたよね?』

同盟を組んだ際、ルキルは今のところ判明している 聖杭(ステーク) の機能についても情報を提供していた。その機能の一つが、たった今リオンが口にした能力である。

『ええ、それも私の勘と察知にも引っ掛からない、異次元レベルの隠密能力よ。面白そうだったから、ルキルの 聖杭(ステーク) が中央海域へ向かう前に、一度見学しに行ったんだけど…… 隠密(その) 状態だと、私も見つける事ができなかったわ。アンジェの 隠密(それ) 並みに厄介な代物よ。正直、ここに接近してるって言われても、 聖杭(ステーク) っぽいものを未だに察知できないし!』

『うん、だからこそケルにいは世界中に魔杭をセットして、いつどこに敵が現れても迎撃できる体制作りをした訳だよね。 ……えっと、一応の確認なんだけど、ひょっとしてカチュアさん、 聖杭(ステーク) の隠密を見破っているんじゃないかな、これ?』

『聞く限りじゃ完全にではないにしても、 何となく(・・・・) 分かっている感じよね。怖がりようも本気みたいだし、敵が放つ殺気まで感じ取ってる。なるほどね、人間計測器とはよく言ったものだわ。それだけ敏感なら、臆病な言動にも納得がいくってものよ。にしても、私よりも聡いって家族以外じゃ初めての事じゃないかしら? すっごくレアな体験ね!』

『感動している場合じゃないよ、セラねえ…… んー、そうだなぁ』

スケッチブックを取り出したリオンが、サラサラッとそこに何かを描いていく。ものの数秒で描き上げたのは、写真の如き完成度を誇る、 聖杭(ステーク) の全身像イラストであった。丁寧にイラストの横には全長の長さ、サイズ感の物差しとなる人の大きさも記されており、絵の元となったものが如何に巨大かを理解できるようになっている。

「カチュアさん、そのおっきな何かって、こんな形をしていませんか?」

「へっ? ……あ、ああーっ! これ、これです! 言われてみれば、ピッタリこの形に当て嵌まります! 今、もやもやが解消されました! スッキリしました!」

「「おおっ!」」

本当に察知できているのだと、改めて驚かされる二人。間髪入れず、続いてセラが身を乗り出した。

「ねえねえ! そのでっかいの、後どれくらいでルミエストに到着するか分かっちゃう!?」

「うびゃあ!? あば、あばばばばばっっ……!」

しかし、セラが物陰から急にスライドした事で、再びカチュアを刺激してしまう。

「カチュア事務員、安心してください。そちらの方はセラさん、クロメルさんの保護者の方です。ベルさんのお姉さんでもあります。怖くない、怖くないですよ~」

「そそ、そうだったんですね!? ととと、とんだ御失礼をばっ!?」

「まだ微妙に錯乱してる感じね…… それで、私の質問には答えられそう?」

「ははははひっ! ええと、ええと…… かなり速いですが、それでも周囲に影響を及ぼさない程度の速度です。恐らく、まだ数十分は掛かるかと……」

「なるほどね。ちなみに、中に乗ってる奴がどれくらいやばそうかも分かる? 目の前の私を基準にしてみて。あと、できれば人数も」

「……同じくらいの怖さが、一人、でしょうか? すす、すみません、大よそにしか分からないです……」

それだけ分かれば十分だと、セラは満足そうに頷いてみせた。