軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第158話 神霊

神皇国デラミスが有する領土には、いくつかの平原が存在する。穏やかな気候が主となるデラミスにおいて、それら平原はどれも牧歌的だ。しかし、一ヵ所だけ例外もあった。一般人の立ち入りが全面的に禁止され、冒険者でも一定以上のランクと、何かしらの伝手がなければ許可されない、名もなき平原だ。凶悪なモンスターが居る訳ではない。過去に悲惨な出来事があった訳でもない。ただ、歴代の巫女達がこの場所は不吉な予感がすると、口を揃えて言っていた。理由はそれだけである。

「―――ただそれだけでも、巫女の言葉は信頼に足る、か。さて、一体何が隠れ潜んでいるのやら」

立ち入りを禁止された平原に足を踏み入れ、辺りを見渡す美男子がここに一人。そんな彼の背後には、何名かの美少女達が控えていた。

「刀哉、勝手にポンポン進まないで! 何が起こるか分からないんだから、もっと慎重になりなさい!」

「あはは、悪かったよ、刹那。久し振りの冒険で、ちょっとテンションが上がっちゃってさ」

「まあまあ、刹那ちゃんも抑えて。神崎君の気持ち、分からなくもないよ」

「そうやって油断した者から死んでいく。異世界とは世知辛いもの」

彼らの名は神埼刀哉、志賀刹那、水丘奈々、黒宮雅。デラミスの勇者と呼ばれ、世間で親しまれる者達――― と、今更紹介するまでもなく、いつも通りの四人組である。

ケルヴィンが魔王を討伐し、ケルヴィンが黒女神を打倒し、結果的に使命を全うしていた刀哉達は、あれから二度、故郷である日本へと帰還していた。長らく行方を晦ましてしまっていた諸々の事情の整理、家族との再会等々、やりたい事、すべき事が多かったのだ。最終的に刀哉達の失踪は海外留学に行っていたという 体(てい) で纏まり、大きな混乱にならずに落ち着いたようだ。ここまでスムーズに事が進んだのは、これまで四人が日本で積み上げて来た信頼があったからこそだろう。もちろん、女神ゴルディアーナの助けがあったのも大きかった訳だが。

「あ、あんまり怖い事を言うなよ、雅。そこまで言われなくても、油断なんてしないさ。勇者である前に、俺は一人の人間でしかない。驕れるような立場じゃないんだ」

「か、神埼君……!」

「分かっているなら良い。私もあの死神にやり返すまで、死ぬに死ねない」

「ハァ、刀哉は兎も角として、雅はまだ根に持っているのね」

「か、神崎パイセン……!」

「奈々もいつまで心打たれて――― ん? 先輩(パイセン) ?」

不意の言葉に違和感を覚えた刹那が、その声の方へと振り向く。

「神崎パイセン、羨ましい! こんな、こんな女の子だらけのパーティが存在するだなんて、ずっこいよ! 世の中不公平だ!」

「……セルジュさん、何をなさっているんです?」

「えっ?」

「む?」

「おっと?」

そこに居たのは古の勇者の一人、セルジュであった。他の面々も、この時になって初めてセルジュの存在に気付いた様子だ。

「あ、漸く気付いてくれた? 結構前から尾行していたんだよ? もう、刹那ったら反応が遅いよぉ~」

「いえ、そんな大胆に尾行を暴露されても反応に困るのですが…… って、その腕どうしたんです!?」

セルジュに軽くハグされた刹那は、その感触から彼女の片腕が義手である事に気付く。またかと笑いつつも、セルジュは義手となった経緯を説明するのであった。どうやらトラージでのお手伝いを終えた後、義手を手に入れて大急ぎでここまで来たようだ。

「見かけによらず、大忙し」

「あ、あのセルジュさんが、そこまで苦戦されたんですか? その十権能って、一体どれだけ……!」

「んー、エレンから聞いた話だと、元神様なチート集団って話だし、まあ全員結構やれる感じだと思うよ? 私が戦った眼鏡君、どっちかと言うと支援職っぽかったし」

「尚更強敵じゃないですか……! ケルヴィンさんはこっちは任せておけって、いつも通りな感じでしたけど…… 予想していた以上に不味そうな状況のようですね」

「大丈夫だよ、刹那。ケルヴィン師匠は信頼に足る御方だ。師匠が任せろと言うのなら、俺達はその言葉を信じるのみ! ですよね、セルジュさん!」

ずいっと刀哉がセルジュに迫る。

「うん、それはそうだけど、神崎パイセンはあまり私に近付かないでほしいかな。ほら、ラッキースケベが発動しちゃうかもだし? 主に私の幸運が仇となるかもだし?」

「あ、ああ、すみません!」

「分かってくれれば良いよ~。あっ、刹那に雅と奈々は全然近寄ってくれて構わないからね? むしろカモンカモン!」

「「ははは……」」

刹那と奈々、苦笑いしながら一歩下がる。

「義手になっても相変わらずみたいですね。まあ、少し安心しました。ところで、以前お渡しした例の資料、お役に立ちましたか? 何に使うのか、用途はさっぱりでしたが」

「刹那ちゃん、例の資料って?」

「チェンソーの内部構造が分かる資料が欲しいって、日本へ帰る前にセルジュさんにお願いされてね。それで一度 異世界(こっち) に戻って来た時に、ネットで拾って来た資料をセルジュさんに渡していたの」

勇者としての報酬として、刹那達は日本とこの世界の定期的な行き来を許可されている。しかしながら、この世界の文明に大きな影響を及ぼすであろう、革新的な技術情報の持ち込みまでは基本的に許されていない。それでも今回、刹那がチェンソーの資料を持ち込む事ができたのは、先代の勇者であるセルジュたってのお願いであったからだ。資料はゴルディアーナ立会の下で目を通し、その場で処分する事を条件に、持ち込みが許可されていた。

「チェンソーの? えっと、木を切る、あの? セルジュさんならチェンソーがなくても、聖剣の一振りで真っ二つなんじゃ……?」

「ふふん、まあね~。奈々の言う通り、その程度ならお茶の子さいさいだぜ。でもさ、勇者たる者、何時如何なる時もバージョンアップは必要じゃん? 前に貰った情報は、まっ、イマジネーションを働かす為の栄養剤みたいなものだよ」

「「な、なるほど……?」」

納得した仕草を一応見せるも、刹那と奈々はまだよく分かっていない様子だった。

「先輩からのアドバイスだけど、神崎パイセンはもっと柔軟にウィルを使ってあげた方が良いと思うよ?」

「柔軟に、ですか?」

「あの、今更ですけど、何で刀哉をそんな呼び方で? セルジュさんの方が先輩なのに、刀哉がパイセンって……」

「気にしない気にしな~い。ノリで生きてる私に理屈を求めな~い。で、話を戻すけど、ウィルは勇者が願えば願うほど、その希望に応えてくれる相棒なんだからさ。ほら、リオンちゃんなんてウィルを持ってもいないのに、三刀流とかやっているんだよ? 二刀流で立ち止まるなんて、もったいない事この上ないぜ?」

「なるほど、つまりは常識に囚われてはならないと…… 勉強になります! セルジュさん、セルジュ師匠ってお呼びしても!?」

「それは全力でお断り! っと、雑談も結構しちゃったし、そろそろ神柱を捕獲しに行こうか」

そう言って、間合いに刀哉が入らないよう迂回しながら前へと進むセルジュ。何が何でもラッキースケベは避けたいらしい。

「セルジュさん、手伝ってくださるんですか?」

「うん、この前の資料のお礼がてらにね。この義手の試運転もしたいし。でも、私はあくまでバックアップ役だ。戦いのメインは君らがやるんだよ?」

「ありがとうございます。それでも心強いです」

「でも、話が上手く行き過ぎている気もする。裏切りが心配」

「み、雅ちゃん、失礼だよっ!」

「ハハッ、雅は疑り深いなぁ。安心して、君らを害するような事はしな―――」

「セルジュ師匠! ご指導ご鞭撻、よろしくお願いします! 俺、セルジュ師匠の近くで色々と吸収して行きたいと思います! セルジュ師匠の近く、間近でッ!」

「……うーん、神崎パイセンは何かの手違いで抹殺しちゃうかも? そのポジション、私的に凄く美味しい理想郷だし」

「セ、セルジュさん、冗談に聞こえないですよ……」

こうして刹那達は平原に存在する不可視の神柱を捜し出し、白熱する戦いへと移行。その後、苦戦しながらも神霊デァトートの捕獲に成功するのであった。