軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第155話 聖杭と魔杭

ダハクが宿の窓から飛び出し、その後をバッケが追う。一応言っておくが、ここは宿の最上階だ。街だから人の目もあるし、そう気軽く目立って良い場所ではない。

「待ちな、男前! このアタシが直々に、色恋のイロハってやつを教えてやるよ!」

「だぁーーー! 俺が知りてぇのはそんなもんじゃねぇし、てめぇが知ってんのは爛れたもんだろうがッ! 死んでもてめぇの世話にはなんねぇっての!」

「何だい何だい!? 折角アタシが足を運んで来てやったってのに、いつまで子供でいるつもりだい!? 大人の恋ってのはねぇ、表があれば裏もあるもんなのさ! 真の男なら覚悟を決めなぁ!」

「俺はそんな上っ面の言葉に騙されねぇぞ! 俺の恋心はプリティアちゃんだけのもんなんだ! そんな浮気めいた事をして堪るかぁぁぁ!」

段々と遠くなる二人の後ろ姿を窓から眺めながら、遠くまで響く叫び声に耳を傾ける。いや、傾けなくても聞こえて来ちゃうな、あの大声量。街の上空だからもろに目立ってるし、後で総長から文句のひとつくらいは言われそうだ。

「お、王よ、流石にアレは可哀想なんじゃないかの? ダハクが食われてしまうぞ?」

「というか、アレで鍛錬になるの? ダハクが必死にバッケから逃げてるだけじゃない?」

「なるさ。バッケは俺の知るS級冒険者の中で、最も野性的な実力者だ。根が素直過ぎるダハクにとって、良いカンフル剤になってくれるだろう。それに、バッケは竜の戦い方も熟知しているからな」

「そう言えば、対抗戦でも見た事のない形態で戦っていたものね。ひょっとしたら、ムドファラクやボガの参考にも……?」

「「遠慮する(んだな)」」

二人は即断即決であった。よほど嫌であるらしい。

「まあ、確かに荒療治ではあるからな。ダハクくらいに覚悟が決まってないと、正直俺も躊躇する鍛錬だよ、アレは」

「ケルヴィン君もやりたがらない鍛錬って、一体……」

「ふむ、ああやって報酬をチラつかせれば、バッケのモチベーションも上がりますしね。何気に期待できそうです。モグパク」

メルは天使なのに、あくまで他人事な姿勢だ。それよりもご飯に夢中なのだ。にしても……

「メル、やけに余裕そうだな?」

「いいえ、欠片も余裕なんてありませんよ。余裕がないからこそ、食べられる時にご飯を食べ続けるのです。来たる戦いの時に備えて、パックパク!」

……尤もらしい理由を述べているが、語尾のパクパク音のせいで全然決まってねぇ。

「あ、あー、ダハクはバッケに任せるとして、だ。次にルキルとの同盟を交わすに際して、拘束を約束した神柱について話そう。今現在この世界には四柱が残ってる訳だが…… シュトラ、その詳細は分かるかな?」

「ルキルが捕らえた神鳥ワイルドグロウ。ルミエストで待機しているドロシー、もとい神人ドロシアラ。そしてデラミスに神霊デァトート、トラージに神鯨ゼヴァルがダンジョンの奥にいるのよね、お兄ちゃん?」

「その通り、流石だな」

「えっへん!」

「ホッホッホ、シュトラは賢いのう~。世界一賢いかもしれんのう~」

ゆるゆる顔でべた褒めなジェラール。実際本当の事しか言っていないのだが、シュトラの幼い容姿と相まって爺馬鹿な発言にしか聞こえない。

「ジェラールはさて置いて、それじゃデラミスとトラージの神柱を捕獲するのが、私達の次の目標になるのかしら?」

「いや、それは現地に滞在している協力者にお願いしようと思ってる。ぶっちゃけ今の神柱の強さなら、俺達が纏まって行く必要もないからな」

「ふーん? まあ確かに、倒すでもなく捕まえるだけだもんね。ケルヴィン君が率先して行きたがらないのも納得かな?」

「ご主人様、ちなみにその現地の協力者とは?」

「トラージの神鯨ゼヴァルは、ちょうど今向こうで客将として待機しているシルヴィアとエマにお願いしてる。あの二人なら、まず間違いないだろうからな。デラミスの神霊デァトートは、名前からして実体がなさそうだし、魔法の扱いに長けたセルジュに――― って考えていたんだが、どうもセルジュの奴、先の戦闘が終わってからどこかに旅に出たみたいで、行方が分かっていないんだよ」

「ええっと、それは少々不味いのでは? セルジュ様は真っ先に十権能に狙われるほどの実力者、単独での行動はかなり危険だと思われますが……」

うん、エフィルの不安は尤もだ。けどまあ、ほら、セルジュだし。何だかんだで無事でいるイメージしか湧かないんだよなぁ。

「取り敢えず、セルジュにはセルジュの考えがある筈だ。俺達は俺達の心配をしよう。で、話を戻してディトートの担当だけど、刀哉達四人に任せようと思う」

「デラミスの勇者達に?」

「ああ、肉体的にも精神的にも、あいつらは随分と強くなった。いつも通り連携して挑めば、神柱をとっ捕まえるくらいの事は十分に可能なレベルだ」

「フフッ、デラミスで私が鍛えてあげた甲斐があったってものよね!」

なぜか胸を張るセラ。ああ、そうか。確か『英霊の地下墓地』でセラ主催のデスマーチに参加していたんだっけ、あいつら。各方面に師匠が一杯で羨ましい限りである。

まあ最悪無理そうな場合でも、いざとなったら孤児院の警護に当たっているエストリアに手伝ってもらう手もある。何とかなるだろう。つか、何とかしてもらう。

「ふむ、では神柱の捕獲はその各方面に任せるとして…… むむっ? 王よ、肝心のワシらは何をするのじゃ? やる事がないぞい? ダハクと同じく、時が来るまで鍛錬でもする気かの?」

「いや、鍛錬するのも悪くないけど、ただやるだけじゃ対応が後手後手になるだけだ。他にやらなきゃいけない事もある」

「「「「やらなきゃいけない事?」」」」

仲間達が揃って首を傾げたところで、俺はクロトの『保管』の中から、とあるマジックアイテムを取り出した。

「迎撃だよ、万全な迎撃準備。向こうが杭で襲来するなら、こっちも杭で対抗だ」

俺が取り出したのは、古代文字が描かれた手の平サイズの杭だ。一見、あの巨大な飛行杭に対抗できるようには見えないだろう。実際、俺にはあんな高度なもんなんて作れないしな。けど、そこはアイデアと使い方次第、やり様はいくらでもあるのだ。

「んー? これ、どこかで見た事があるような……」

「あっ、もしかしてこれって、創造者の『魔杭』かな? トリスタン用に作っていたやつ」

「魔杭…… あーっ、思い出した!」

アンジェの言葉を聞いて、セラがポンと手を叩く。どうやら他の皆も、この杭について思い出してくれたようだ。

「そう、この杭は召喚士の魔力圏内を、杭の周囲に作り出す事ができるマジックアイテムだ。トライセンとの戦いの時に、トリスタンが使っていたものだな」

今となっては懐かしいが、トリスタンはこの杭を戦場に仕込む事で、俺達をかなり翻弄してくれたっけ。バレてしまえば手品のタネのようなものだが、あのジルドラの作品なだけあって、その効力は凄まじいものがあった。あの頃魔力圏内が狭かったトリスタンからしたら、喉から手が出るほどに欲しかったものだった筈だ。尤も俺の場合はそこまで必要としていなかった事もあって、回収してからは出番が殆どなかった訳だが…… ここに来て、漸く日の目を見る機会がやって来た訳だ。

「相手は自分達の欲望の為だけに命を狙い、ダハクが惚れているほどの美女を誘拐する悪党だ。そんな奴らが残り八人もいて、それでいて強い。呆れるほどに強い。そして、そんな十権能がセルジュとかに取られるのは、もったいなくて我慢ならな――― コホン! ……そして、そんな十権能が他の奴らに危険を及ぼすのが、俺は我慢ならない。だからさ、これを使って盛大に歓迎してやろうと思うんだ。他ならぬ俺達が、十権能を!」

拳を固め、俺は高らかにそう宣言する。フッ、決まった、最高に決まった。

「主、言い直した?」

「残念な事に言い直したわね」

「意味ないけど言い直したね」

「全く隠せておらんのに、言い直したのう」

「パクモグモグパク」

……おかしいな。最高に決まった筈なのに、仲間達は「言い直した」と連呼するばかりだ。