作品タイトル不明
第154話 ダハクの覚悟
おにぎりに夢中なメルをさて置き、気を取り直して話を再開する。
「ハオって奴については、実際に戦ったダハクから意見を聞いた方が良いだろう。ダハク、ハオの強さや権能について、何か付け足しておきたい事はあるか?」
「うッス。その筋肉がどうこうってのは分からなかったッスけど、兎にも角にもステータスの次元が違う感じだったッスね。あと、何よりも正体不明の技がやばかったッス。俺には奴が何をしたのか、まるで見えもしなかった。それでも生み出した植物達や、グロスの毒が尽く無力化されたのは理解できたッス。アレはパワーだけでどうこうできるような代物じゃないッスよ。あいつの言動や得物を持たないスタイルからして、多分『格闘術』の類で何かしたとは思うんスけど、正直それで合っているかの確信はないッスね…… あっ、あと、けいけつ? を突いたとか何とかって言って、俺とグロスを動けなくしたッス。で、勘も馬鹿みたいに鋭い! それこそセラ姐さんくれぇかな?」
「ん? それ、私の事を馬鹿にしてる?」
「いやいやいや! も、ものの例えッスよ、ものの例え! 兎に角! 奴は尋常でないスピード、問答無用で捻じ伏せるよく分かんねぇ技、未来予知めいた勘の良さを持ってんだ! 悔しいッスけど、あのプリティアちゃんと互角以上に渡り合っている時点で、接近戦が最強ってのは間違いないと思いますぜ。あ、けどプリティアちゃんも全然負けてなくて、あいつの左腕を落とすまでに至ったんス! 本当に五分五分の戦いだったんスよ、絶対!」
なるほど、熱弁するダハクの話が本当だとすれば、ハオは間違いなく強敵だ。強さもさる事ながら、これまで行動からして、ただただ強さを追い求める求道者タイプ――― つまりは、俺に似た性質を持っていやがる。似た者同士は引き寄せ合うっていうし、ひょっとしたら、俺にもこいつと拳を交える機会があるかもな。
「……ケルヴィンの兄貴、楽しそうなのは良いッスけど、ハオの奴は俺がやりますぜ? いくら兄貴でも、これだけは譲れねぇ」
っと、また顔に感情が出ていたか。にしても、ダハクはマジでやる気なんだな。まあ、その為に短期間超鍛錬メニューを組んだ訳だけど…… 先生役、そろそろやって来る頃か? ……うん、来てる。
「悪い悪い、職業柄、ついな?」
「ったく、兄貴の悪い癖がまた――― あ」
「ん? どうした?」
「い、いや、これは戦いとは全然関係ないと思うんスけど、ちょっと思い出した事があって……」
「何か引っ掛かる事があるなら、俺の表情みたいに遠慮せずにぶっちゃけてくれ。何がヒントになるか分からないからな」
「ハ、ハァ。えと、そのハオって奴、イケメンなんスよ」
「……はい?」
俺は耳を疑った。いや、何でもとは言ったけどさ、この話の流れで急にどうしたのかと。俺の表情以上に意味不明だぞと。
「いえ、ただイケメンじゃないんスよ。後光が差すレベル、それこそプリティアちゃんにも劣らないくらいなんス」
「へ、へぇ……」
ダハクの視界上では、常時ゴルディアーナから後光が放たれていたのか。今更ながら、どんな景色を目にしているんだろうな、ダハクの目。だがまあ、ハオに相応のパワーが備わっているって事だよな、それ? ダハクの言葉を借りるなら、それこそプリティアちゃんにも劣らないくらいのパワー、か。 ……うん、やっぱ強敵だ。
「そう見えちまったのも屈辱だったんスけど、どうもハオの奴、戦闘中の顔がおかしいんスよ」
「……? どういう意味だ? プリティアちゃんに並ぶくらいのイケメン――― 要は絶世の美男って事だろ? 顔がおかしいって事にはならないだろ?」
求道者のハオなら昔戦ったクライヴ君みたいに、転生して顔を作り直したって事もあるまいに。クライヴ君の顔は何というか、作り物めいた不自然さがあった。
「いや、それがおかしいんスよ。あいつ、戦いの最中にイケメン度数が瞬間的に跳ね上がって、更にイケメンに磨きが掛かるんス。もしかしたら、その権能の力を使って顔を変形させているんスかねぇ? そんな事をする意味は分からねぇッスけど」
「イケメン度数……? ええと、要はダハク視点で、更に格好良くなってるって事か?」
「そうッス! 一瞬だけスッと! それでまた次の瞬間には戻っているんスよ!」
「……視認できない筈なのに、何でハオの顔は見えたんだ?」
「そこはまあ、光の加減ッスかねぇ。さっきも言ったッスけど、真の美男美女は後光が差すもんで、ハオの顔からは猛烈な光が放たれていたんスよ。プリティアちゃんは強くも優しい光ッスけど、アレはただただ眩しいだけっつうか、もう滅茶苦茶な輝きだったッス。あんだけ輝いてりゃ、正確に見えなくとも流石に俺にも分かるッスよ。プリティアちゃんとハオが戦っている時も、前方から迫り来る圧と光がぱねぇっした!」
「………」
ダハクの言葉を翻訳してみよう。ダハクにとっての格好良さとは、確かその者が持つ物理的な力強さに比例していた筈だ。だからこそ、ダハクにはゴルディアーナが絶世の美女に見えるし、心の底から惚れ込んでいる。以前にジェラールやセラ、それにグロスティーナの事をハンサムだとか美人だとか言っていたし、元の容姿は殆ど関係ないものとして考えて良いだろう。
で、そんなダハク視点でハオの容姿が瞬間的に高まるという事は、イコール、ハオの筋力が瞬間的に高まっている事と同義だ。つまり、ハオはゴルディアーナとの戦いで権能を使い、自らのパワーを高めていた。俺達の目では捉えられない力の変化も、ダハクアイだからこそ、それが解明できたという訳か。恐らく常時使うのではなく、インパクトの瞬間などの要所要所で発動させているのだろう。筋力の底上げ、それにプラスして敏捷の底上げもしているかもしれない。
「……『剛力』と『鋭敏』の複合能力、その瞬間上位版ってところか」
もちろん、これがハオの力の全てだとは微塵も思っていないが、権能についての取っ掛かりはできた。まさか、ダハクの感性がハオの能力バロメーターとして働くとは思わなかったな。
「ダハク、ナイスな着眼点だ。やっぱお前、プリティアちゃんの事となるとすげぇよ」
「え、そうスか? よく分かんねぇッスけど、兄貴は俺をよく分かってるッスねぇ!」
「主、あまりダハクを甘やかさない方が良い。また調子に乗る」
「う、うん…… おでも、それが心配……」
「あ、てめぇら! また適当な事を言いやがって!」
ダハクがメルの隣で和菓子スイーツを堪能しているムドと、体の割に小さなおにぎりを堪能しているボガに食って掛かる。
「まあまあ、落ち着けって、ダハク。お前の覚悟、俺は一番よく分かってるつもりだ。プリティアちゃんを助け出す為なら、どんな鍛錬でもするってくらいだもんな?」
「ったりめぇじゃねぇッスか! ハオは俺が仕留めやす! その為ならこのダハク、何でもする所存ッス!」
うん、今何でもするって言ったな。絶対言った。これでも耳は良い方なんだ。極端に興奮していない限り、聞き間違える筈がない。
「という訳で――― 先生、出番です!」
「へ、先生?」
俺の呼び声に応えて、部屋の 襖(ふすま) がダァンと、少々乱暴に開けられる。そう、俺はダハクを鍛錬してもらう為、打って付けの先生をお呼びしていたのだ。
「おう、ケルヴィン! 何でもアタシに紹介したい良い男がいるんだって!? ったく、アンタも悪い男だねぇ! まあ、アタシにとっては良い男なんだけどさ!」
「ああ、そうなんだ。つか、急だったのによく来てくれたな、 バッケ(・・・) 」
「……兄貴、この女、確か『女豹』の二つ名を持つ、S級冒険者の?」
そう言ってバッケを指差すダハクの表情が、段々と硬くなっていく。硬くなるな硬くなるな、お前が固めるべきは覚悟の方だ。
「ふむ、ふむふむ?」
一方でバッケは、紹介したい人物がダハクだと察し、「ほう」と何やら視線で物色し始めていた。
「……なるほど。アンタ、新しい竜王、土竜王だね?」
「お、おう、それがどうしたよ……?」
ダハクの周囲をグルグルと回りながら一通りの観察を終えたバッケが、改めてダハクを正面から見据える。ジッと見詰める。獲物として見定める。
「ハハッ! アタシとした事が、うっかりしていたよ。そういや今まで、竜は食った事がなかった! もちろん、あっちの意味で。野良の竜はいけ好かないが、うん、うん、この坊やはなかなか楽しめそうだ。顔も良い。むしろ、アタシ好み。二児の母として、食わず嫌いのまま生を終わらすのも忍びないし、良い機会だねぇ」
「……兄貴、いまいち意味が分からねぇんスけど、この女は何を言っているんスか?」
「ん? ああ、死に物狂いで鍛錬する気、あるんだろ?」
震えるダハクに対し、俺は鍛錬の開始を宣言した。