作品タイトル不明
第151話 死神の提案
大聖堂に踏み込む新たなる人影、その数は3つ。カツカツと鳴らされる足音は、自然とその場にいた者達の視線を集める効果を発揮させていた。
「少しは頭を冷やせましたか、皆さん?」
「……驚きですね。まさか貴女が、こんな場所に現れるとは…… 神人、ドロシアラ」
そう、先ほどの声はドロシアラ――― もとい、学園都市にいる筈のドロシーのものであったのだ。彼女の前には対抗戦でも使っていたトライセンの本が浮かんでおり、また手には大杖が握られている。見るからに完全武装状態だ。更に彼女の背後には戦闘服を纏ったリオンとベルが陣取っており、対抗戦のオールスターの一部がそのままやって来たかのような様相となっていた。
(『英雄想起』と『王の命』のコンボか。メルの指輪があるから、俺達にはあんま効果がないけど…… さて、ルキルに対してはどうだったかな? ドロシーの言葉通り、ちょっとは落ち着いてくれれば良いが)
と、そんな事を考えながら、ケルヴィンはルキルを注意深く観察する。ルキルはテンションの浮き沈みが激しい性格をしている為、見た目や雰囲気から心の内を判断する事が非常に難しい。一見冷静そうに見えても、数秒後には感情を爆発させて何をやらかすか、分かったものではないのだ。コレットにも似たような性質があるが、ルキルの場合、それが悪い方向にばかり向く可能性が高いので、取り扱いがより難しい。
「………(ぐっ!)」
一方で「私は落ち着きましたとも」と、そんな表情をサムズアップと共に向けて来るコレット。しかし、敬愛するリオンが登場したからなのか、片方の鼻穴からは紅い雫が垂れている。こちらも冷静になっているの正直分からず、判断に困る結果となっていた。
「私の同胞に関わる話ですからね。ルキルさん、でしたっけ? 氷国レイガンドにて神鳥ワイルドグロウを捕らえたそうですね。彼を一体どうするつもりです?」
「……それを聞いて、どうするのです? ここにいるデラミスの巫女達と同様に、私と敵対するつもりですか?」
「おい、だから人の話は聞けって。俺達はお前と協力関係を結べないかって、そんな提案をしに来たんだよ」
「協力関係?」
直ぐにキレない辺り、多少は『王の命』が効いてる。そう判断したケルヴィンは、いよいよ本題を明かす。
「今この世界は、天使達から 白翼の地(イスラヘブン) を奪った十権能、転生神ゴルディアーナの味方をする俺達地上の民、そしてそのどちらとも敵対する、お前の第三の勢力が鎬を削っている状況だ。まあ、とは言っても戦いは始まったばかりだし、プライドが高いのか理由は知らんが、十権能は最上位の実力者しか狙わないみたいなんだけどな。俺達にとっては不幸中の幸いってやつだ」
「まるでケルヴィン君みたいだよね~?」
「狙われる確率が高まって幸いと思っているのも、多分 ケルヴィン(こいつ) くらいよね」
「アンジェ、ベル、茶化さない」
「はいさ!」
「別に茶化してないし」
ビシリと敬礼するアンジェ、視線を逸らして不機嫌そうなベル。そんな彼女らに対し、ケルヴィンはやれやれと首を振り、コホンと咳払いを一つ。何事もなかったかのように話を続けるのであった。
「さっきも言ったが、一般人に被害が広がらないのは幸いだった。けど、今のままだと不味いんだ。敵の本拠地の場所が分からないから、向こうから戦いを仕掛けて来る事があっても、こっちから仕掛ける事はできない。これじゃあ精々が返り討ちにする事ができるくらいで、基本的にやられっ放しだ」
十権能が奪った敵のホーム、 白翼の地(イスラヘブン) は世界中の空を移動し続ける浮遊大陸だ。大陸は大規模な結界によって保護されており、基本的には内部から操作しない限り、結界の外から中に入る事はできない。かつて堕天したメルフィーナも策を講じなければ、この結界を突破する事はできなかった。更にこの結界には異常なまでの隠密効果も備わっており、セラやアンジェの察知スキルを以ってしても、その居場所を発見するには至らなかった。
解決策の一つとして、『位置特定』の固有スキルを持つパウルを十権能の誰かと接触させ、わざと本拠地に逃がす事で発見する、という手もケルヴィンは考えていた。しかし、これはあまりにも現実的とは言えない。十権能が次に誰を狙うか分からないし、その場所にパウルが居合わせるなんて事は奇跡に近い。更に十権能の中には、あのゴルディアーナをも倒してしまう猛者がいるのだ。パウルを当てにするのは、少々どころか凄まじく酷というものだろう。次点でセラの『血染』で十権能を操り、居場所を明かさせるという策もあるが、この場合もセラがそこに居合わせないと難しい。使役したハードも完全に無意識になってしまった為、セラの効果を適用しても意味がない。
「 白翼の地(イスラヘブン) の居場所さえ分かれば、結界自体は俺の 大風魔神鎌(ボレアスデスサイズ) で破壊できる。けど、肝心のその場所が分からないままでさ」
「……なるほど。それで、私から 白翼の地(イスラヘブン) の現在位置情報を引き出したいと?」
そう、ケルヴィン達にとっての現実的な案とは、ルキルを協力者として迎え、 白翼の地(イスラヘブン) の位置を特定する事にあった。
「ですが、それは貴方の希望的観測に過ぎないのではありませんか? 貴方が言う通り、 白翼の地(イスラヘブン) は姿を消したまま移動する浮遊大陸です。今も尚、居場所を変えているでしょう。十権能に掌握された 白翼の地(イスラヘブン) を、どうして敵対中の私が居場所を知っていると?」
「ハハッ、何の策もなく十権能を裏切るほど、ルキルは無計画じゃないだろ? 連中と敵対しているからこそ、 白翼の地(イスラヘブン) に入り込む手段を残している筈だ。違うか?」
「……仮にその手段があったとして、それを貴方達に教えて、私に何のメリットがあるのです?」
「は? そんなの、考えるまでもないだろ。勝手に俺達と十権能が潰し合いをしてくれるんだぞ? ルキルは漁夫の利を得て、勝ち残った方に戦いを仕掛ければ良い。何なら、お前が神柱を使ってやろうとしている事、それを手伝ってやっても―――」
「―――ケルヴィン」
話を遮り、ドロシーがケルヴィンを睨む。それ以上言葉を発する事はなかったが、無言の圧力が凄まじい。
「……すまん、ちょっと語弊があった。ルキルの目的がドロシーの癇に障らない範囲のものであれば、その邪魔はしないし、むしろ手伝うっていう選択肢も生まれる…… かもしれない(チラッ)」
「………」
ドロシー、特に反論せず。どうやら、この路線であればオーケーであるらしい。
「要はこういう事だ。ルキルが協力してくれれば、黙っているだけで敵対するどちらかの勢力が潰れ、或いは激しく消耗する。神柱に関しては内容次第だが、ドロシーの御許しが出れば、それも比較的安全に遂行できる。これがルキルの利点だな。対する俺達の利点は、こっちから十権能にカチコミに行ける事、そして十権能と戦えて、その後にはルキルとも戦える事だ! ……あっ、あと、ゴルディアーナも助け出す事ができる!」
思い出したかのように、利点を付け加えるケルヴィン。コレットは「流石はケルヴィン様!」と感激しているが、ベルなどはいつもの戦闘狂の 性(さが) に呆れていた。
「もちろん、それ以外にもお互いの情報を共有するっていう、そんな利点もあるけどな。で、どうする? これでもかなり譲歩しているつもりなんだが、まだ足りないってんなら、応相談で―――」
「―――神柱の統合、完全なる神化」
「……何?」
不意に、ルキルが意味深な言葉を発した。その意味が読み取れず、ケルヴィンはルキルに聞き返す。
「私が神柱を使い、成そうとしている事ですよ。メルフィーナ様を愛憎する一方で、私はエレアリス様の信者でもあります。エレアリス様が創造なさった神柱の力で、メルフィーナ様を再び神の座へと押し上げる…… それって、実に素晴らしき事だとは思いませんか?」