軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第150話 エゴとエゴとエゴと

「昨日レイガンドで会ったばっかだってのに、随分と精力的に動くじゃないか。いや、余裕がないから、そうせざるを得ないって感じか。あのデカ杭を奪ったと言っても、十権能とも対立するのはキツイだろ?」

ルキルの声を遮ったのは、彼女も知る男の声だった。祈りの場に置かれた祭壇、その背面より声の主がゆっくりと現れ、コレットの横に並ぶ。

「……これは驚きました。ケルヴィン、よくこの場所が分かりましたね?」

そう、ルキルの目の前に現れたのは、氷国レイガンドにいる筈のケルヴィンであったのだ。

「お前の行動、ある意味十権能よりも過激っぽかったからな。どう動くか予想してこっちも動かないと、おちおち寝てもいられないんだよ」

「なるほど。メルフィーナ様と共に私の次の行動を予想し、西大陸からこの東大陸へと、大急ぎで渡って来たと…… そういう事ですね?」

「ん? ああ、まあ、そんな感じだ。俺らの場合、転移門があるから先回りも余裕だしな」

そんな答えを返すケルヴィンであるが、この返答には少しだけ嘘もある。ルキルがこの場所に向かって行ったの知る切っ掛けとなったのは、メルフィーナとの共同予測をしたからなどではなく、パウルが固有スキル『位置特定』で細かくルキルの動きを監視していたお蔭だ。

『ルキルのマーカーが神皇国デラミスに向かって、大移動を開始しやがった!』

と、パウルからそんな連絡を受けたケルヴィンは、大急ぎでその対応に動いたのだ。レイガンドの転移門の使用許可をもらったケルヴィンは、目的地であるデラミスへと先回り。ケルヴィンとの再会という、突然のサプライズに血を吐きながら喜び勇むコレットに、何とか事情を説明したのである。

そして、この祈りの場に巫女の秘術である『 安穏神域(オアシス) 』を施してもらい、ケルヴィンはそこで隠れながら様子を窺っていた。 安穏神域(オアシス) は気配を完全に消し去る隠密結界、流石のルキルもこれを見破る事はできなかったようだ。

「フ、フフッ、フフフフッ……! そうですか、メルフィーナ様が私の事を想到し、見事その推理が的中したのですね! ああ、どうしましょう! 神の寵愛を一身に受けてしまいました!」

(こいつ、無敵かよ……)

だが結果として、その嘘はなぜかルキルを喜ばせる事となってしまう。これには流石のケルヴィンも苦い顔をし、コレットは心なしか少し羨ましそうにしているような、いや、そんな筈はない。今のコレットは真に清い聖女なのである。何よりも彼女はケルヴィンから、実際のところを説明されている筈なのだから。

「クッ、羨ましい……!」

……真に清い聖女も、時に感情を出すものだ。それがたとえ嘘だと分かっていたとしても、想像したら羨ましいのである。

「コホン! ケルヴィン様、彼女が例の堕天使なのですね?」

「ああ、 白翼の地(イスラヘブン) に住んでた堕天使、ルキルだ。避難の最中に行方不明になっていたんだが、裏で十権能と繋がっていた。で、ついこの間にその十権能も裏切って、ついでに俺らとも敵対中だ」

「それは何と言いますか…… 度が過ぎるほどに大胆不敵な方のようですね」

「その言葉、称賛と受け取っておきます。私が真に味方するは、メルフィーナ様のみですからね。 ……ひとつ質問しますが、メルフィーナ様はお見えにならないのですか?」

キョロキョロと辺りを見回すルキル。つられて、コレットも祭壇の後ろを捜し始める。

「いや、だからコレットは知ってる筈だろ…… メルフィーナがいたら、お前らがまともに会話できなくなるからな、来てないぞ。その代わり―――」

「―――その代わり、私ことアンジェお姉さんが来てま~す」

ルキルの退路を断つように、彼女の背後に猫耳フードを被ったアンジェが現れる。どうやらアンジェもまた、隠密状態で待機していたようだ。手には毒塗りのダガーナイフ、凶剣カーネイジが握られており、笑顔を携えてはいるが、臨戦態勢である事が明らかだった。

「ッチ!」

そして、分かりやすく鳴らされるルキルの舌打ち。背後を取られた自分に対する戒めなのか、期待していた人物でない者が現れた落胆からなのか、その舌打ちは結構な大きさで大聖堂内に響いていた。それを聞いたアンジェも、何だよ~と口を尖らせている。

「失礼、つい本心が出てしまいました。で、どうするのです? 私の退路を断ったという事は、逃がすつもりはないのですよね? デラミスが誇るこの大聖堂の中心地で、一戦私と交えますか?」

「それも凄く魅力的な提案ではあるんだが、そう結論を急がないでくれ。ほら、俺らも別に、戦いに来たような雰囲気ではないだろ?」

そう言って、自らの顔を指で差しながら笑顔を作るケルヴィン。どう見ても戦いを欲している際に作る笑顔だが、まあ笑顔は笑顔なのだろう。ルキルの後ろにいるアンジェも、同じタイミングでにっこりと可愛らしく笑っている。ダガーナイフを片手にどう見ても臨戦態勢なのだが、流石本職だけあって、その笑顔に不自然なところはなかった。そんな二人を見て、コレットも空気を読んでにっこり。メルフィーナやケルヴィンを前にしている時にだけ見せる、渾身の聖女スマイルをルキルにお見舞いする。

「いえ、不自然でしかないのですが…… 何なんですか、その不気味な笑顔は?」

「不気味とは酷いな。まあ、敵意がないって事は分かってくれ。さっきコレットにしようとした事も、未遂って事で水に流してやる。 ……次はないぞ?」

ケルヴィンがそのような言葉を口にした次の瞬間、死神を模した殺気が全身から溢れ出る。同時に鋼鉄をも貫いてしまいそうな、そんな鋭い視線がルキルに浴びせられる訳だが―――

「あら、次があるのですか。悠長ですね、欠伸が出ます」

―――それでも最悪の狂信者は怯まない。彼女も彼女で禍々しい殺気と濁った視線で応戦する。となれば、結局は間接的なバトルとなり、プレッシャーのぶつかり合いで大聖堂にはた迷惑な影響が出始めてしまうのであった。

「ケルヴィンくーん、それ以上はフィリップ教皇から愚痴が飛んで来ると思うなぁ、アンジェお姉さんは」

「っと、そうだった! おい、だから戦う気はないって言ってるだろ! そんな顔して俺を誘惑するんじゃない! ハニートラップのつもりか!?」

「……コレット様、仕える方は選んだ方が良いですよ?」

「ケルヴィン様が私の為に本気で怒ってくださってる! 今直ぐにこの寵愛の海に飛び込み溺れたい! この大聖堂を揺るがすほどの寵愛に深く深く潜行したい! ですが、ですが今は決してその時ではありません! ケルヴィン様が欲望に耐えられるのであれば、このコレットもまた耐えましょう! 圧力が強まると共にケルヴィン様の香りもまた強まり、私を更なる堕落へと誘おうとしていますが、私は負けませんともハァハァスゥハァ! ……あ、すみません今立て込んでいますので、私には話し掛けないで頂けると助かります」

「は? メルフィーナ様を差し置いて、こんな男に何を媚び諂っているのですか? 一時は私が同志だと信じていたのに、その醜態は何ですか? 今直ぐに死にますか? お手伝いしますよ?」

「だから、そんな殺気で俺を誘惑するなって。我慢するにも限界があるんだ。そろそろ口端が吊り上がるぞ?」

「だからだから、争っちゃ駄目なんだって! 皆、落ち着いて~!」

この場に集まった面子のエゴが強過ぎて、足並みは一向に揃いそうにない。それどころか、本格的にバトルが開始される一歩手前だ。

「……『落ち着け』」

不意に、その場にいた誰のものでもない声が大聖堂内に響き渡った。