作品タイトル不明
第148話 決意
ズン…… ズン……
(……何だ、遠くで大きな音が聞こえる気がする)
―――姉弟子、しっかりしろ! ついでに作業着の兄ちゃんも死ぬなぁ! 根性だぁ、根っ…… 性ーーー!
(すっげぇ暑苦しい声まで聞こえて来やがった。だがこの声、どっかで聞いたな。どこだったか……)
―――クッ、俺の筋肉マッサージでも起きねぇか! 気合い入れてやってるよな!? お前の本気はそんなものか、俺ぇ!?
(何だよ、筋肉マッサージって…… 心臓マッサージの親戚かよ……)
―――ふん! ふぅん! 『 薬壺(やっこ) 』の効力も出ている筈なんだが、さて、どうしたものか! 唸れ、俺の頭筋肉ぅ!
(ああ、そうか…… いつの間にか俺、寝ちまっていたのか…… つか、全身がいてぇ……?)
―――しかし、これだけ強くやっても壊れないとは、流石の肉体の強さだ! ハッハー、素晴らしい筋肉をしている! さわりさわり!
(早く起きねぇと…… プリティアちゃんに、グロスの奴も心配だ……)
―――ふぅむ、こうなったら最終手段、人工呼吸によるショック治療をするべきか!
「って、おい! 待てやぁぁぁ!」
「やだん、オッドラッドちゃんったら大胆なんだからぁん!」
意識の覚醒。視界に広がるは雲ひとつない澄みきった青空。凄まじい勢いで起き上がったダハクは、隣で同時に起き上がったグロスティーナの姿を確認する。そして、そこにはもう一人知り合いがいた。
「おう、漸く起き上がったか! やっぱどんな状況でも、小粋なトークってのは必要なんだな! マスター・ケルヴィンの言う通りだぜ!」
ゴルディアを学び、グロスと共に対抗戦に出場したオッドラッドだ。
「この馬鹿野郎、冗談でもんなアホな事吐くんじゃねぇよ! 俺の貞操の危機だったじゃねぇか!」
「おっ、そうだったのか? いや、それはすまなんだ!」
「あらん、チェリーな青い果実ってやつぅ?」
「う、うるせぇうるせぇ!」
ナイト志望の土竜王様、そのお顔は真っ赤であった。
「んな事より、何でゴルディアの聖地にお前がいるんだよ、オッドラッド!」
「おお、露骨に話を逸らしたな! まあ、それも良かろう! 一度パブの仲間達の下に戻った俺だったんだが、こう、胸騒ぎのようなものを感じてな! マスター・ゴルディアーナ的に言うと、第六感が働いたと言うのか? まあ、そんな感じで、俺も後からゴルディアの聖地に向かって出発していたんだ! で、到着してみて驚いたぜぇ!? ここに姉弟子と作業着の兄ちゃんが倒れていたんだからなぁ!」
「作業着言うなや…… 俺の事はダハクで良い。つうか、ケルヴィンの兄貴んところで、何度か顔を合わせただろ」
「む、そうだったか? 修行に夢中で、それどころではなかったからなぁ! 忘れている可能性大だぁ!」
「忘れるなや! 割と何度も話したぞ!?」
「まあまあ、落ち着きなさいってぇ。でもでも、お手柄よぉ。オッドラッドちゃんの筋肉マッサージのお蔭でぇ、こうして私達が動けるようになった訳だしぃ」
「あー…… まあ、そこだけは礼を言っとく。ありがとよ」
「おう、感謝しておけぇ! ハッハー!」
オッドラッドの笑い声を聞きながら立ち上がり、体の調子を確かめるダハクとグロス。全身の筋肉が無理矢理解されたかのように痛むが、それ以外に問題は見当たらないようだ。
「グロス、俺らどのくらい倒れっ放しだった?」
「んー、私の腹時計によれば、丸一日ってところかしらねぇ」
「クッ、結構経ってんな……! だが、あいつが言っていた三日よりかは大分マシか」
「ふむ? 状況から察するに、姉弟子達はここで何者かと戦っていたのか? それに、マスター・ゴルディアーナの姿が見えないが」
「お前に対する説明は後だ。まずはケルヴィンの兄貴に念話しねぇと。どういう理屈なのか、動けなくなっていた時は念話もできなかったからな。ちゃんと繋がると良いが……」
そう言って、ダハクは足を若干曲げ、両手を膝の辺りに置く。更に背中を丸く屈めた任侠な挨拶姿勢となり、念話のスイッチをオン。どうやらこの体勢は、目上に対するダハクの念話姿勢であるらしい。
『ケルヴィンの兄貴、お忙しいところ失礼しますッス! 一番の舎弟、ダハクッス!』
『……お、おう、急な念話だな、ダハク。確かお前、プリティアちゃんを追いかけて、ゴルディアの聖地に行ったんだったか。遅れてオッドラッドの奴もそこに向かったって、アンジェから連絡があったんだけど、あいつとは会えたか?』
『うッス! お蔭様でガッツリ遭遇ッス! それよりも兄貴、大変な事が起こりまして!』
『大変な事? 何があった?』
『プリティアちゃんが…… プリティアちゃんが、プリンセスの如く囚われの身になっちまったんッス!』
『……はい?』
その言葉を全く予想していなかったのか、何とも間の抜けた声を返してしまうケルヴィン。まあ、今のダハクの説明で理解できる者は殆どいないだろう。理解できたとしても、勘の鋭いセラくらいなものだろうか。なので、ダハクも更なる説明を続ける。
『あいつ、プリティアちゃんが世界一の美女だからって、暴力を振るって拉致しやがったんだ!』
『……ええっと?』
ダハクの言葉は間違ってはいないのだが、状況説明としては全く適していなかった。恐らく今、ケルヴィンの頭の中では微妙な誤解が生まれている。
『兄貴、俺は悔しい、悔しいよ! あんな最低最悪な奴に負けちまうなんてよぉ!』
『分かった、分かったから一旦落ち着け。落ち着いて、初めから説明してくれ』
ケルヴィンは懸命に話を解読しようとするが、それは困難を極めるものだった。興奮冷めやらぬダハクの説明は色々と独自視点の解釈があったのだ。ゆっくり噛み砕いて理解していき、漸くケルヴィンは事の成り行きを理解するに至る。想像以上に疲れたらしく、理解した後に溜息が漏れていた。
『オーケー、何となくは分かった。にしても、プリティアちゃんとタイマンで勝っちまう十権能ハオ、か。ダハクとグロスティーナがタッグで挑んでも歯が立たないとなると、そいつの実力は本物だな。本格的に厄介そうだ』
念話越しである為、ダハクにはケルヴィンの表情を窺う事はできない。だがまあ、いつもの顔になっている事は、一番の舎弟なので簡単に想像ができる。
『兄貴、嬉しそうにしているところ、申し訳ねぇんスけど…… あいつは俺が倒したいッス』
『ダハクがか? ジャイアントキリングしたいって気持ちは痛いほど、いや、死ぬほどよく分かるが…… 今回は囚われたプリティアちゃんの命がかかっているんだ。鍛錬するにしても策を練るにしても、時間が殆どないぞ?』
『分かってるッス。これは俺の我が儘でしかないんで、兄貴に取られても文句は言えねぇ。けど、ここで覚悟を表明しとかねぇと、俺が俺を許せねぇっつうか……』
沈黙してしまうダハク。握り締めた手からは血が滲み、言葉に表す事ができないダハクの悔恨を、代わりに示しているかのようだった。
『……分かった。なら、お前はお前の好きなように動け。それと、その覚悟が本物だってんなら、短期間で強くなる方法、俺も一緒に考えてやるよ。兄貴分として、それくらいの世話をしてやっても良いだろ?』
『……ッ! あ、兄貴、アンタって人は……!』
任侠な姿勢のまま、更に勢いよく頭を下げるダハク。それはダハクなりの感謝の表れであり、目頭が熱くなっている事を、近くにいるグロスティーナとオッドラッドに見せない為のものでもあった。尤も、二人は何となく察している訳だが。
『今後の動きを決める為にも、一度どこかに集まろうか。こっちも知らせたい事があるしな』
『うッス! 了解っス……!』
ケルヴィン達は囚われの姫君、もといゴルディアーナ奪還を目指し、行動を開始する。