軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第147話 決心

肉食植物での攻撃を仕掛けた際、ダハクは大地の下、つまりは土の中に潜り込んでいた。植物を頑強な鎧のように自身に纏わせ、真っ正面からの接近戦を仕掛ける! という、そんな思わせ振りな行動を取っていたダハクであったが、これはあくまでデコイに過ぎない。土竜王の力で植物達を巧みに操作し、今もその鎧の中に自身がいると錯覚させる。そしてダハク本体は土中からハオの死角に回り、肉食植物に紛れて攻め込む――― と、そのような策を描いていたのだ。これまで感情のままに動く事が多かったダハクであるが、眼前でゴルディアーナが倒されて尚、勝利の為に斯くも狡猾に戦えるようになったのは、大きな成長だと言えるだろう。

更に、一歩引いた場所から戦場を見渡すグロスもまた、ただ猛毒を振り撒くだけに終わらなかった。突貫したように見えた 親友(マブダチ) の意図を一瞬で見抜き、その作戦に合わせる形で毒を展開。加えて自らも人型の毒、『 操り毒人形(どくもりどーる) 』を囮として複数作り出し、肉食植物の陰に隠れる形で配置したのだ。この毒人形は触れた瞬間に爆発を起こし、物理的なダメージと麻痺毒を接触者に与える効果を持つ。迂闊に接近戦を仕掛けてしまうと、それはもう大変な事になってしまう超危険物なのだ。グロスはこれら毒を使用し、戦場の混沌化に拍車をかけ、ハオの意識を僅かにでも割かせる事を狙っていた。もちろん、ゴルディアの伝承者として、隙を突いての格闘戦も想定している。

(俺が背後に回れば、グロスの奴と挟撃できる位置取りだ! プリティアちゃんの命がかかったこの場面、ミジンコレベルでも勝率を上げてやる……!)

(ふう、味方の私でさえ騙されるところだったわん。土壇場でのダハクちゃんの機転、絶対に無駄にはしないんだからぁん!)

心で通じ合うダハクとグロス。策略の限りを尽くした布陣は既に展開が終わっており、後はハオを倒すだけとなっている。対するハオにはまだ動きがなく、その場で構える様子もなし。ただ直立し、周囲を観察しているだけだ。一見無抵抗にも思える行動だが、ダハク達に容赦する気は一切ない。

第一の津波、食肉植物。そして猛毒で構成された第二の津波が、次々とハオへと押し寄せる。相手がS級モンスターだろうと一滴で即死させ、問題なく食い殺すであろう凶悪な攻撃には、文字通り一分の隙もない。倒れ伏すゴルディアーナ以外の生命、それこそ小さな虫だろうと一匹残らず平らげ、後に残るは不毛な大地のみとなるだろう範囲攻撃だ。 ……そう、今この場に立っているのがハオでなければ、そのような結末になっている筈だった。

それは刹那の出来事だった。全方向から迫る脅威を確認したハオは、直立のまま姿を消した。どのような姿勢からでも一気に加速し、最高速に達する――― これは合気で老人が屈強な大男を吹き飛ばすが如き、ファンタジー染みた歩法を駆使して、漸く到達する事ができる武芸の極致だ。しかし、『武神』、『闘神』と称されるハオにとって、それは技や奥義などではなく、ごくありふれた行為に過ぎない。ごく普通に駆け出し、壁を抉じ開け、背後にて隠れ潜んでいたダハクに初手を仕掛ける。ただそれだけの事だったのだ。

「がっ……!?」

「激昂したように見せかけ、囮を仕掛ける。そして自らは死角に回り、タイミングを見測らう、か。なるほど、それなりの努力はしている」

動く植物鎧には目もくれず、瞬きの間にダハクの眼前にまで迫ったハオは、ダハクには視認できない速度で右腕を振るった。認識できないのだから、その右腕で何をされたのかは分からない。辛うじて理解できたのは、ダハクの近くにもいた筈の肉食植物が全滅し、猛毒の壁が晴れ、ダハク自身が動けない状態にある事だけだった。足に力が入らず、立つ事もままならない。ダハクは膝から崩れ落ち、前のめりに倒れてしまう。

「ダハクちゃん!」

「貴殿、友を心配している暇があるのか?」

「ッ!?」

グロスが叫び終わった頃には、ハオは彼女の前にまで迫っていた。ダハクが操っていた植物鎧と同様、グロスが作り出した 操り毒人形(どくもりどーる) には全く騙されずに、である。驚きも束の間、ダハクにそうしたように、ハオが片腕を振るう。グロスもこの攻撃に反応する事ができず、同じ結果を辿り――― 片腕というハンデを背負ったハオに対し、ダハクとグロスは大敗を喫したのであった。

「経穴を突いた。人の形態であれば、竜にも有効なものだ。それ自体が死を招くものではないが、三日ほどは指先を動かす事は疎か、声も発せないだろう」

「……!? ……ッッッ!」

ダハクはどうにかして体を動かそうとするが、ハオの言う通り体は動かず、一単語の言葉も話す事ができなかった。辛うじて浅く呼吸する事は可能のようだが、本当にそれくらいしかできない。

「未熟なりの創意工夫への努力、それだけは認めておこう。だが、それだけでは足りんのだ。それにだ、やるべき事の方向性も悪かった。俺は気配に聡い方でな、いくら偽物を立てたところで、本物との区別は容易に――― むっ? バルドッグとリドワンの気配がない? これは…… そうか、彼奴らめ、失敗しおったか。だが、これは朗報だな。少なくともこの世界は、まだまだ俺を楽しませてくれそうだ。フフッ」

ハオがうっすらと笑う。ダハク達に発していた言葉とは打って変わって、今のハオの声には喜びが満ちていた。一方で最早ダハク達に興味はないのか、止めを刺す気もない様子だ。

「っと、失礼した。話を戻そうか。貴殿らの肉体であれば、飲まず食わずでも暫くは生き延びられるだろう。それから何を成すかは自由にするが良い。心を折るのも、復讐心を燃やすのも、全て貴殿らの自由だ。尤も、またこの体たらくであるようであれば、今度こそ止めを刺してやるがな」

足音が聞こえる。ハオがゴルディアーナの下に向かっているのだろうと、ダハクは即座に思い至った。待て! と、そう叫びたい。だが、体は動かない。ハオを見上げ、睨みつける事も叶わない。

「ほう、偽神はまだ生きているか。驚嘆に値する生命力だ」

「……! ……ッ!」

「ふん、安心しろ。この場で殺しはせん。此奴は未だ成長の真盛、ここで殺すには惜しい存在よ。最低限の責務を果たす為、我らの本拠地に連れて行くだけだ。 ……まあ、その後にエルドがどのような判断を下すかまでは、俺には保証できん。この偽神を生かしたければ、それなりに急ぐ事だ。己を鍛え直すにも、救出に向かうにも、な」

そう言い残すと、ハオは残った片腕で器用にゴルディアーナの巨体を担ぎ、宙を蹴って上空の 聖杭(ステーク) まで駆け上って行った。その洗練された動きは、どう見ても怪我人のものではない。尤も、ダハク達にはそれさえも目にする事ができないのだが。

(くそっ、くっそぉぉぉ……! 俺が、俺が弱いから、こんな事にぃぃぃ……! ううぅぅっ……!)

言葉を発せず、体が動かなくとも、不思議と涙は自然と流れ出る。己の無力さを嘆き、後悔の念に駆られるダハク。徹底的に打ちのめされたダハクの心が、このままポッキリと折れてしまうか、それとも叩かれた鉄の如く、より強靭なものとなって生まれ変わるか――― どのような未来を辿るかは、ダハク次第だろう。

(ケルヴィンの兄貴は、絶望の淵からメル姐さんを助け出した。メル姐さんは、ケルヴィンの兄貴を途方もないほど信じ想い続けた。なら、今度は俺とプリティアちゃんの番だ。俺達にだってできる筈だ。連れ去られたプリティアちゃんを、俺は絶対に諦めない! 俺は命を懸けて救い出す! プリティアちゃんだって、俺を信じて待っていてくれる筈だ! 俺はジェラールの旦那に代わって、プリティアちゃんのナイトになるんだッ!)

……ゴルディアーナのナイト。そう、未来では想像以上に凄い鉄が出来上がっているかもしれないのだ。