作品タイトル不明
第140話 分解
聖剣の軍勢、神話の軍勢が交差する。刃が交わる事で発生する被害規模は、言葉を絶するものとなっていた。セルジュ、バルドッグのどちらが勝利しようとも、この辺境の大地が悲惨なものと化すのは、最早間違いようがない。
そんな災害同士の争いの最中、セルジュは手元のウィルを弓形態の 聖弓(アルテミス) に変形させていた。対するバルドッグの手にはもちろん、先ほどの弓が握られている。となれば次の瞬間に巻き起こるは、弓矢による猛烈な射撃の応酬だ。但し、これら攻撃は双方ともに活路を見出すには至らなかった。
セルジュの矢は百発百中でバルドッグに命中するのだが、彼の纏う鎧が威力を中和して、ダメージが殆ど与えられないのだ。一矢で地面を大きく陥没させる 聖弓(アルテミス) を相手にして、この防御力は流石に凄まじいと言わざるを得ないだろう。これではあと何十何百とヒットさせようとも、バルドッグを倒すには至らない。
一方のバルドッグの弓矢は、未だたったの一度もセルジュに当てる事ができずにいた。初撃に続いて、理不尽なまでに弓の能力が発揮されないのだ。道理に合わない、余りに不条理。そんな風にいくらバルドッグが嘆こうとも、やはり矢はセルジュを避けて飛んで行く。こちらもあと何十何百と放とうとも、セルジュには掠らせる事もできないだろう。
更に、戦いが拮抗するこれら要素は周囲を取り巻く武器の嵐にも適用されており、当たってもダメージのないバルドッグ、武器の方から避けて行かれるセルジュという構図が成り立っていた。
「なるほどね、腐っても鍛冶を司っていたって訳だ。武具のカタログスペックに限っては感心するばかりだよ」
「君こそ、ここまで僕の武器達を翻弄してくれるとはね。かつて対峙した神達の中にも、ここまで出鱈目な奴はなかなかいなかったんだ。誇っても良い。 ……だが、それにしてもッ!」
矢を放つと同時に、バルドッグがセルジュの持つウィルを睨みつける。
「その武器、何か見覚えがあると思えば、僕の後追い作品か!」
「ん? 後追い?」
「ああ、その通りさ! 使用者の望む形へと変幻自在に姿を変えるその性質は、神鉄から僕が創造したリドワンそのもの! 大方、僕達を封印した後にどこかの神が猿真似をして作り出したんだろうが、やはりその程度の力しか備わっていないようだね! リドワンと比べれば、劣化品も良いところだ!」
「ハッハッハ。 ……聞き捨てならないなぁ」
僅かに声色が低くなったセルジュが、放った矢をバルドッグの顔面にぶち当てる。が、バルドッグの被っていた兜は、その攻撃を吸収するかの如く弱体化させた。
「ハハハハッ、いくら凄もうとも結果はこの通りさ! 僕のリドワンはそんな出来損ないとは違う! 武具の枠組みを超えて自らの意思を持ち! 如何なる攻撃にも屈さない最硬の強度を誇り! 時代に囚われない数多の変化を遂げる事ができる! 武器として、兵器としての質が違うんだよ、質が!」
「へえ、そいつは凄い。確かに君は、鍛冶師としては最高峰の腕を持っているのかもね。だけど―――」
宙を踏み締め、風となって突貫を開始するセルジュ。それを見たバルドッグは、直ぐ様に控えさせていた武器で迎撃に向かわせた。が、これまで通り、それらがセルジュに当たる事はなかった。
「―――使い手としては、三流も良いところだ」
「ぐうっ!?」
疾風迅雷、弓から大槌へ、 聖槌(ミョルニル) にウィルを変化させたセルジュは、全力でそれをバルドッグに叩き付けた。全身鎧は猛烈な攻撃の勢いを殺し切れず、バルドッグは空中から地面へと叩き落されてしまう。
「……ク、ククッ、クハハハハッ! だから、無意味だと言っているだろう!? いくら形を変えようとも、そんな武器では―――」
殆ど無傷のまま立ち上がろうとするバルドッグ。しかし、彼の自信と自慢に満ちた口上が紡がれるよりも速く、既に接近を果たしていたセルジュが次の攻撃を放っていた。
「 聖刀(マサムネ) 」
刀剣に変化させたウィルによる、至近距離からの連続抜刀術。生還者のおじさんの技を彷彿とさせる奥義の数々が、全身鎧の関節部などといった、僅かな隙間へと雪崩れ込む。抜刀術の技術としては、セルジュはおじさんに及ばない。だが、彼女の有り余るステータスの高さが技術を補い、殆どおじさんと遜色のない威力・速さへと技を昇華させていた。
「……ッ! 無駄だよ、無駄無駄ぁ! 分からない奴だなぁ! それに、迂闊に近づき過ぎだぁ!」
「!?」
それでもセルジュの攻撃は、バルドッグの全鎧に通用しなかった。それどころか、手痛い反撃を食らう事となる。 ……バルドッグの権能『鍛錬』の発動である。彼の周囲に存在する物質を分解する能力が、セルジュにも及んだのだ。如何にセルジュの『絶対福音』による主人公補正と言えども、空間全てに機能するこの能力を運良く躱す事はできない。
「流石にいつまでも紳士ではいられないのでね! 大人しく僕の作品、その材料になるがいい!」
セルジュの纏う装備が瞬く間に分解されていく。天衣ミトス、神手イエロ、 永靴(えいか) ザーゲ――― いずれもセルジュが長年愛用して来た、選ばれし相棒達であった。だがその中で、ウィルだけは分解されず、未だセルジュの手の中にあり続ける。
「お前に分解されるほど、私のウィルは弱くないよ。あと、頭上注意」
「あ? おぐぅっ!?」
頭上より突如として飛来し、不意打ちの一撃を与える聖なる巨剣、 神聖大剣(ウィル・デュランダル) 。セルジュは空中にて暴れていた聖剣を集合させ、この巨剣を作り上げていたようだ。バルドッグを両断しようと、全身鎧との間で火花を散らす。が、鎧は健在。あと一歩、あと一歩決定打に至らない。しかしその一方で、バルドッグは先ほどまで眼前にいた、セルジュの姿を見失ってもいた。不意の攻撃で巨剣に視線が移った一瞬に、姿を晦ましてしまったのだ。
「ッチ、無駄な足掻きを……! ならば、まずはこのなまくらを分解してあげようじゃないか!」
バルドッグが白き翼を広げ、その先端を鋭い針のように枝分かれさせる。そして、それらを巨剣へと突き刺し注射器で血液を抜き出すが如く、強制的に分解を促し始めた。ただ攻撃を防ぐだけでは飽き足らない様子だ。また、バルドッグは空中に展開させていた武器群を地上へと降り注がせ、ランダムな攻撃を開始させる。
どうせ姿が見えたとしても、なぜか攻撃は逸らされてしまう。であれば、広範囲に攻撃を放ってしまえ。姿が見えなくとも、こちらは攻撃を恐れる必要はないのだ。それに手近な場所に武器を引き寄せておけば、まあ安泰だろう。 ……と、そんな考えが透けて見える。もちろん、その思考はセルジュにも読み取られていた。
「やっぱり、お前はどこまでも悠長、前線向きではないかな。私に勝つ事よりも、自分の創作活動を優先させちゃってる」
「ッ! そこかっ!」
背後からの声に反応して、バルドッグが反射的に手元の武器を飛ばす。しかし、振り返ってもセルジュの姿はなかった。
「 安息の棺(ユーサネイジア) 」
再びバルドッグの背後より、セルジュの声が聞こえて来た。尤も、今度の声はとある呪文の名を唱えていた訳だが。
「これ、はッ……!?」
バルドッグの周囲に展開される、棺型の結界。気が付けば翼を突き刺していた巨剣も消え去っており、結界の中にはバルドッグのみが取り残された状態だった。
「かつての仲間の技を借りて、敵を倒す…… うん、なかなかに主人公っぽい展開だと思わない?」
更には振り返ってみても、辺りを見回しても、セルジュの姿が未だに見当たらない。声のする方に視線を向けても、その瞬間にはまた別の方向に声が移動してしまっている。
「馬鹿がっ! ろくな攻撃もできない癖に、僕を倒すだと!? ……ああ、なるほど、君の魂胆が分かったよ。倒す事ができないから、僕を封印する作戦に移行した訳か! ククッ、この程度の障壁で僕を捕らえられると思っているのか? 待っていろ、こんな障壁、直ぐに破壊して―――」
「――― 聖殺(カミゴロシ) 」
バルドッグの背後より、ブゥオンブゥオンという大きな機械音が鳴り響いた。