軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第131話 神鳥

「ですが、メルフィーナ様が私の願いを肯定してくださらない事も、また分かっています。理解しています。私はメルフィーナ様の最大の理解者ですからね」

接近を続けていたルキルが歩みを止め、広げていた両腕を祈るような仕草へと移行する。優れた容姿と相まって、今の彼女からは聖女の如き神聖さを感じられた。 ……尤も、瞳のハートマークは未だ健在ではあるのだが。

「実は、今回の私の目的は 神柱(こちら) でして。メルフィーナ様にお会いできたのは幸運でしたが、今日のところは挨拶にとどめておこうと思います」

「そ、そうですか、それは残念です――― ではなくっ!」

正気を取り戻したメルが、神柱に触れようとしていたルキルを呼び止める。

「ルキル、神柱をどうするつもりです? 堕天使の貴女が神柱に触れれば、それは起動してしまいますよ?」

「……私の大目標はメルフィーナ様が神へと復権される事ですが、そこに至るまでには幾つかクリアすべき小目標がありまして。先ほども申し上げましたが、十権能を 理解さ(わから) せる必要があります。そしてその為には、彼らに対抗するだけの力が必要なのです」

その直後、ルキルは何の迷いもなく神柱に触れた。眩く白き光を放ち出す神柱。その光は地下空間全域に及び、視界を白で埋め尽くしていった。

「クゥルルルルゥ」

白の世界で耳にしたのは、鳥のような、しかし声量の大きな鳴き声だった。その声に呼応してなのか、光が次第に弱まっていく。

「神鳥、ワイルドグロウ……!」

光の代わりに眼前に現れたのは、神柱と同等の大きさはあろう、白き巨鳥であった。かつて氷国レイガンドを救ったとされる、伝説の守り神――― 神鳥ワイルドグロウが、ここに降臨したのだ。

「神人ドロシアラは稀有な力を有していました。また一方で、人間特有の複雑な感情も備えていました。 私の同胞(・・・・) とするには、正に適任であったのですが…… 残念ながら彼女は、もう一人のメルフィーナ様に先を越されていたようで、泣く泣く諦める事に――― っと、コホン! また脱線してしまいました。メルフィーナ様を前にすると、ついつい楽しくなってしまっていけませんね」

「ルキル、止まりなさい」

「いいえ、止まりません。私はメルフィーナ様の言葉だからと、安易に鵜呑みにするような間抜けとは違うのです。間違いがあればその都度に正し、矯正して差し上げられる、真の信奉者なので―――」

「―――クゥゥゥーーー!」

ルキルの言葉を遮ったのは、彼女の直ぐ近くにいた神鳥ワイルドグロウであった。ルキルを堕天使という名の悪と見定めた神鳥は、その鋭利な鉤爪を振り落とし、彼女を引き裂かんとしたのだ。 ……しかし。

「ふむ。この段階の神柱なら、まあこの程度でしょうね」

「クゥル!?」

振り落とされた凶刃を、ルキルは片腕で受け止めていた。神鳥もこの事態を想定していなかったのか、声色に驚きの感情が見受けられる。

「ですが、及第点は差し上げましょう。ようこそ、素晴らしきメルフィーナ様を改心させる会へッ!」

背負い投げの要領で(?)、ルキルが神鳥を氷の地面に叩き付ける。倒れ込む巨鳥はその衝撃で地面を割り、或いは粉砕し、そのまま気絶してしまった。

「御覧の通り、ステゴロでも私、神柱を圧倒できる程度には強いんです。今のメルフィーナ様となら、結構良いところまで戦えると思いますよ? 尤も、今日のところは帰―――」

「―――逃がしませんよ?」

メルが 絶氷山壁(ディープヘイルベルク) を詠唱し、地下空間の出入り口を氷壁で封鎖する。ついでに倒れていたパウルも巻き込まれ、氷漬けになってしまった。

「……なるほど、私の行く手を阻むと同時に、第一王子の保護も行ったという訳ですか。流石はメルフィーナ様、正に一石二鳥の一手ですね。 ……ですが、それでは足りませんよ」

ルキルの片手に、禍々しい魔力が一瞬のうちに集まり出す。そして―――

「――― 落命の黒炎塔(デストレイ) 」

解き放たれた魔力が漆黒の炎へと姿を変え、ルキルの、神鳥の巨体をも覆い尽すほどの炎柱を形成した。黒き炎の柱は地下空間の天井を突き破り、地上へ、空高くへと昇って行く。

「クッ……!」

「今のメルフィーナ様ですと、転生神としてあまり相応しくありません。ですので次にお会いした時は、私が転生神に相応しくなるよう、懇切丁寧にプロデュースさせて頂きます♪」

「……ッ!?」

地に伏していた神鳥を乱暴に持ち上げ、堕天使の翼を羽ばたかせる。そんなルキルの姿が、炎の柱の僅かな隙間から覗く事ができた。ルキルが開いた天井の穴から逃走しようとしているのは、最早明確である。しかし、近づけない。いや、正直に言ってしまうと、そもそも近付きたくない。これ以上話をしたくない。どうしようもない嫌悪感が、メルの追跡の意思を挫いていた。

「さて、そろそろあちらも戦いが終わる頃合いでしょう。どちらが勝っていたとしても、無事な状態では決してない筈です。メルフィーナ様、どちらが勝っていると思いますか? いえ、答えなくて結構ですよ? どうせケルヴィンと仰るのでしょうし。まあ、その場合は 義体(リドワン) の回収だけはさせて頂きます。逆の場合もまた然り、ですけどね。ついでに 聖杭(ステーク) も馬車代わりの移動手段として頂戴してしまいましょう」

「ルキル、貴女は私達だけでなく、十権能とまで敵対すると言うのですか? 勝算があるとでも?」

「おかしな事を言いますね、メルフィーナ様。これは勝算どうこうの話ではないのですよ。貴女様が愛するケルヴィンは、そんな事を考えながら戦いを挑むのですか? 違いますよね? 相手が格上であるほどに、挑戦したくなるものですよね? 私も同じです。貴女が愛する人間と、同じ気持ちで挑んでいるのです。言わば、これは私の信仰心が試される試練……! どんな手を使ってでも、 理解さ(わから) せてやりますよ。最大の敵になるであろうメルフィーナ様にも、邪神なんて紛い物を崇拝する十権能にもね」

そう言い残して、ルキルは黒炎と共に姿を消した。あれほどの巨体を誇っていた、神鳥の姿も見当たらない。

(また姿を消しましたか。最初に顔を合わせた時も、彼女は突如として姿を消していましたね。幻影を作り出すような魔法を使ったのでしょうか? こんな事でしたら、察知系のスキルも習得しておくべきでした)

まだルキルは周辺にいる。そう予想したメルは、ルキルが開けた大穴を通り、ケルヴィンの下へと急いだ。再びルキルと対峙するのは死ぬほど嫌であるが、今は先ほどのように迷っている場合ではない。そう、たとえルキルの狂気がメルに対し効果抜群であったとしても、狼狽えている場合ではないのだ!

(うう、胃が痛い…… 私の鉄の胃が痛い…… もう会いたくない……)

……ないのだが、やはり気後れは多少するようである。

(ですが…… フフッ。なるほど、私が最大の敵ですか。ルキル、やはり貴女は分かっていない。貴女にとって最大の敵となるのは、私や十権能などではないのです。こと戦いにおいて、貴女以上に心を拗らせた私の夫を…… あまり舐めない方が良いですよ?)

メルは全幅の信頼をケルヴィンに寄せながら、更に飛行速度を加速させていくのであった。

「………」

ちなみにであるが、パウルは未だに氷漬けで放置されたままである。