軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第121話 堕天使の暗躍

運命の日から数百年後。十権能の前に姿を現した彼女は、紛れもなくルキルであった。黄金の髪をなびかせ、天使を体現しているとも言える、慈悲深い雰囲気を晒し出している。ひと目見れば誰もが聖女、聖人と称してしまうであろう、神聖なるオーラが可視化しているようだった。それほどまでに、彼女の存在は神聖そのものだったのだ。 ……ただ一つ、彼女の天使の輪と翼が漆黒化している、という点を除けば。

「十権能の皆様、お招き頂きありがとうございます。ルキル、ここに参上致しました」

ルキルが片膝をつき、こうべを垂れる。その様は完全に十権能に服従しているように見える。少なくとも、見た目だけは。

「ルキル、改めて君には礼を言っておかなければならないな。君が天使の長の肉体を義体として調整し、地上の同胞らに働き掛けてくれたお蔭で、我々はこの世界に予定よりも早くに降り立つ事ができた。言うなれば君は、我々が復権する機会を作ってくれた訳だ」

「もったいないお言葉です」

十権能のリーダー、エルドが謝辞を述べるも、ルキルは抑揚のない言葉で返す。あまりその話には関心のないような、そんな様子だ。

「フッ。エルド、この女は礼など要らないとさ。前置きを飛ばして、さっさと話を進めてやったらどうだ?」

「どうやらそのようだな。ルキル、我々には君の願いを叶える用意がある。先代の偽神であるメルフィーナの殺害、それが君の願いだったな?」

「………」

ルキルは何も答えない。メルフィーナという名前に反応する訳でもなく、動揺する事もない。彼女はただ、エルドの次の言葉を待っていた。まるで彼ら十権能を見定めるように、ジッと。

「……沈黙は肯定と捉えよう。これから我々はこの世界の浄化、その第一段階へと取り掛かる。浄化対象は我らが神の障害になり得る存在、つまりは君の狙いであるメルフィーナも含まれている。君には我ら十権能の一人に同行してもらい、浄化作業の手伝いをしてもらおうと考えているのだが…… どうだろう、やってくれるか?」

「もちろん、それは私にとって願ってもない申し出ですから。ただ、同行という形になっているのは、どういった意味が含まれているのでしょうか? 御力を貸して頂けるのは大変有り難いですが、私一人だけでも、どうとでもなります。私としては、自由にやらせて頂きたいのですが?」

「ルキル、敵をあまり過小評価しない方が良い。それが如何に低俗で、自分よりも劣る者だったとしても、一度は君を欺いた相手なんだろう? ならば、油断はしない事だ」

「………」

エルドとルキル、双方は全く表情を変えないが、取り巻く空気が非常に重くなっている。肌に刺さるような痛さもあり、近くにいたレムなどは、また愚図り始めてしまうほどだった。

「カカッ! 小娘よ、何もワシらはお主が心配なのではない。地上の堕天使共の情報によれば、お主のお目当てである元偽神、今はレイガンドという国におるんじゃろ? そこにはワシらも用があっての。同行するというのは物のついで、そう、ついでに付き添うくらいのニュアンスなんじゃて。お主が単独で片を付けられるのなら、それに越した事はない。ワシらは一切手出しをせんよ。まあ、危機に陥れば話は別じゃがな?」

「……分かりました。ならば、それで結構です」

両目を閉じたルキルは、これを了承した。

「ぐすっ…… それじゃ、誰が行く……?」

「まあ、レムではない事は確かじゃろうな。今のお主が誰かと連携できるとは思えんからのう」

「うう……」

レムは未だに目に涙を溜めていた。十権能であるほどの力は持つが、どうやら彼女は極度の泣き虫でもあるようだ。

「リドワン、君がルキルに同行してくれ」

叡智の間、その入り口の近くに座っていた十権能に、エルドは声を掛けた。

「………」

鉄仮面を被った巨漢が、無言のまま立ち上がる。声を発する事はなかったが、これが彼なりの了承の合図であるらしい。

「決まりだな。レイガンドには既に我らの手の者が潜んでいる。詳細はその者らに聞くといい」

「………」

巨漢の仮面堕天使、リドワンが小さく頷いて見せた。

「寡黙な方ですね。では、参りましょうか。それぞれの目的を達成する為に」

「ルキル、もしも目的を達して無事にここへ戻って来れたならば、君に我らの力の源、『権能』を授けよう。成果を期待している」

「……ありがとうございます。では」

次の瞬間、ルキルとリドワンの姿は叡智の間から消えていた。レイガンドへと向かったようだ。

「……エルド、あの女をどこまで信用している? 俺の目には従順そうには、とても見えないのだがな。むしろ、自らの目的の為に我々を利用しようとしているぞ」

「逆に言えば、ルキルも私達が完全に信用しているとは思っていないだろう。地上産の天使としては優秀なのかもしれないが、いつ飼い犬に手を噛まれるか予想できないほどに獰猛でもある。見た目とは裏腹だ」

「ああ、外面こそ取り繕っているが、アレは我々の目的とは別のものを先に見ている」

ルキルの存在に、ケルヴィムとグロリアが苦言を呈する。

「分かっている。二人の言う通り、彼女は少しでも隙を見せれば裏切る、特大の火薬庫のようなものだ。上手く扱うのは難しいだろうな。我々を復活させたのは、あくまでメルフィーナに対する嫌がらせか…… まあどちらにせよ、彼女が我々に協力する理由はその程度のものだ」

「カカッ! 嫌がらせで世界を巻き込むか! 何とも大胆な女じゃのう、気に入ったわい!」

「そ、そんな奴に、協力するの……? 怖いよ……」

「……火薬庫であると同時に、ルキルのメルフィーナに対する狂気も本物だ。何せ数百年もの間、機会を窺い、自分を偽り、他の天使を騙して力を蓄えて来た魔女なのだからな。偽神の有力候補だっただけあって、実力もこの世界ではトップクラスだろう。事の次第によっては、ルキルは我々の障害となり得る。だからこそ、協力する。協力して、ここで駒として使い潰すのだ」

「ああ、なるほど。だからルキルの関心がメルフィーナへと向かっているうちに、それらで潰し合いをしてもらう狙いですか。そして、生き残った方をリドワンに始末させる…… エルドさん、なかなか策士ですね」

「ふむ…… じゃが、あの様子から察するに、 奴(やっこ) さんもそれは承知の上じゃろう? ともすれば、先にリドワンと敵対せんか?」

「彼女の目的は、あくまでメルフィーナだ。その目的を果たす前に、下手に消耗するような真似はしないだろう。まあ仮にそうなったとしても、リドワンが動くだけの事だ。バルドッグ、万が一にもリドワンが負けるような事があると思うか?」

「フッ、あり得ませんね。何せ彼は、僕の―――」

「―――バルドッグ、止めろ。その話はきっと長くなる。しかし、エルドよ。その万が一が起こって、リドワンがルキルとやらに負けたらどうする? 十権能は神の両指となって動く至高の存在、下手な損失は責任が問われるぞ? サブリーダーとして、その辺りを心配してしまうなぁ」

ケルヴィムが歯に衣着せぬ物言いで、エルドに訊ねた。

「そうだな。その時はリドワンの代わりとして、彼女に十権能の末席を担ってもらうのはどうだ?」

「……何だそれは? 火薬庫を自ら抱え込むと言うのか?」

「カカカカッ、ワシは賛成するぞ! 選ばれし者だけが世界に君臨する、それが我らの主義思想だったではないか! 本当にメルフィーナとリドワンを倒したとなれば、ルキルこそが十権能に真に相応しい者となるのは道理! カカッ、良いのう、愉快じゃのう!」

「うう、ハザマ、声が大きい……」

「ふん、起こり得ない話は無益ですよ」

ハザマが一頻り笑い、レムが耳を塞ぐ。一方で、バルドッグはどこか不機嫌そうだった。

「ならば、次は有益な話をするとしよう。レイガンドへ向かう者は決まった。浄化最大の脅威、偽神ゴルディアーナと勇者セルジュについてだが…… 殺(や) りたい者は?」