作品タイトル不明
第118話 百面相
それから俺達はラファエロさんに案内され、避難所奥に建造された氷の神殿、その応接間に通された。 ……うん、ここでも氷の神殿なんだ。塔の下にも全く同じものがあったとか、そんな野暮なツッコミはもうしないさ。きっと、サラフィアもこの辺で建造作業に飽きたんだろう。氷の床で雲を模したり、凝ってるところは凝っているんだ。これくらいの手抜きをしたって良いじゃないか。
「流石は母様、凝り性ですね。この神殿を形成している氷、全て溶けないアイスキャンディーですよ。強度もしっかり確保されています。クッ、これが究極のオリジナリティー……!」
違った。別方向で凝ってた。でも、それはそれでどうなんだろうか。
「「ッ!?」」
はい、そこの元アイドル転生神様と甘味スナイパー竜王、ガタリと立ち上がらない。たとえアイスキャンディーだったとしても、これは食べちゃ駄目なものだから。
「こちらにお掛け下さい。ああ、椅子やテーブルも氷ですが、不思議と冷たくないのでご安心を。私が言うのもアレですが、ここは不思議な場所ですね」
こんな二人の珍妙な行動にも、ラファエロさんは全く動じず、それどころかニコニコ顔で迎えてくれた。なるほど、メルに対する懐の深さはコレット並みと考えて良さそうだ。大抵の、というか、どんな奇行にも笑って対応してくれそうである。
「ああ、どうぞお構いなく…… 二人とも、食べちゃ駄目だぞ?」
「た、食べませんよ!」
「主、流石にそれは失礼というもの。甘味は先ほど補充した。これ以上はエフィル姐さんに叱られる」
じゃあ、何でさっき反応したんだよ…… と、仲間内にツッコミたいが、我慢我慢。取り敢えず、ラファエロさんに案内された通り、席へと座る事とする。どうやら天使側の代表はラファエロさんだけのようで、他の天使達は部屋の外で待機している。氷のコップでのお茶出しも、せっせとラファエロさんがニコニコ顔になりながら配膳して――― この人、また役得だと思っているんだろうな、きっと。
「ところで、お連れの方々はメル様とどういったご関係で? それとも、次期転生神であるゴルディアーナ様のご関係者様でしょうか? 次期転生神様、素晴らしくパワフルなお名前ですよね。お顔を拝見する事は叶いませんが、早く声をお聞きしたいと、皆で盛り上がっておりますよ」
皆で茶をすすりながら一服。と、そんな時にラファエロさんが茶を飲みながら、そんな質問を投げ掛けて来た。まあ、うん、どっちも関係者ではあるけど、何と説明したものか。その昔、俺とメルの関係をコレットは肯定的に捉えてくれたが、こういう志向のファンって一筋縄じゃない気がするんだよな。安易に答えてしまって、果たして良いものだろうか? うーむ……
「えーっと、プリティアちゃ、コホン! ……ゴルディアーナとは以前同業者でした。そして、このメルとは―――」
「―――この方は私の夫です♪」
「ふぶぁっ!?」
口に含んでいた茶を、明後日の方向へと綺麗に吹き出すラファエロさん。ああ、そうだった。メルさんは昔から、積極的にバラしていくスタイルだった。
「だ、大丈夫ですか?」
「い、いえ、少し驚いてしまいまして…… ええと、一応確認しておきますが、冗談ではなく本当に、ですか?」
「本当に、です。もう同棲もしています。ふふん」
「………」
配慮もクソもない正直過ぎるメルの言葉に、俺は冷や汗をかくばかりだ。ラファエロさん、大丈夫だよね? 正しき形のファンだよね? 信じても良いよね?
「………」
「あの、ラファエロさん?」
「……大丈夫大丈夫、私は平常心かつ冷静、心を乱してなんかいない。たとえ推しが結婚していたとしても正しき信者はこれを喜び応援するのが努めでありジェラシーを感じるなんて以ての外でだからこそここは冷静に水を飲むのが正道で同志である巫女様もきっとこの事を喜んでむしろ自らその仲に突貫するくらいの気概を持って祝福を―――」
何か凄い早口でボソボソ言ってる……!
『お、おい、大丈夫なのか、ラファエロさん!? 目が血走ってるぞ!?』
『少しすれば元に戻るでしょう。ラファエロはこれでも、 白翼の地(イスラヘブン) に数名しかいない上級天使なのです。精神面の強さも並ではありませんよ』
『は、はぁ、そんなもんなのか? でもやっぱり、コレットの時みたいにはいかないもんだな……』
『まあ、コレットの精神力は異次元的ですからね。天使達と彼女を比べるのは、些か酷というものです』
確かに、俺もコレットの精神力には勝てる気がしない。きっとメルの為だからと言って、何にでも喜びを見出しちゃうもんなぁ。
「……ハッ!? 私は一体何を!?」
と、念話で適当に時間を潰していると、ラファエロさんの精神が旅からご帰還された。流石は上級天使、思ったよりも早い帰還である。
「か、重ねて失礼致しました。ですがメル様、その事はあまり周知しない方がよろしいかと。我々天使にとって、その情報は劇物となり得ますので、するにしても段階的にやって頂ければと……」
「えー」
でしょうね。そしてそこ、えーとか言わない。
「メル」
「むう、仕方ありませんね。まあ、今回の訪問の目的はそれとは別にありますし、触れないようにしておきましょうか」
「是非ともそうしてくれ。それでラファエロさん、早速いくつか確認しておきたいのですが、 白翼の地(イスラヘブン) からここへ避難して来た天使の方々は、全員無事ですか? 途中で逸れた方や、怪我をされた方はいませんでしたか?」
「幸いにも、怪我をした者はおりませんでした。ですが、その…… 一人だけ、行方の分かっていない者がおりまして…… その者の名はルキル、私と同じ上級天使です」
「ルキルさん、ですか。メル、知ってるか?」
「……ええ、存じています」
ん? ちょっとメルの表情が硬いような。さっきまでのランラン気分じゃなくなってる。
『ラファエロの前では言えませんので、 念話(こちら) で説明します。ルキルは私が転生神となる時、つまりはエレアリスに代わる転生神を天使達の中から選考していた際に、私と並んで最後まで候補者に名を連ねていた天使なのです』
『え、そんな奴がいたのか!? 要はメル並みに強いって事!? 要は要注目天使!?』
驚きの事実が、俺の唾液腺を刺激する!
『あの、早速強さ比べに関心を抱かないで頂きたいのですが…… 戦闘力に優れているだけでは、転生神には選ばれませんよ。神に相応しい内面、如何なる苦境も打破できる柔軟性等々、様々な要素を長達に審査されますから。まあ尤も、私はあなた様に惚れられるほどの強さも、もちろん持っていましたけどね?』
『いや、その時に審査されたのは殆どクロメルみたいなものだったんじゃ…… まあ、今はその辺の事はさて置こう。それで、ルキルって天使について、他に情報は? 俺の興味は今そこにある』
『本当にブレませんね、あなた様…… まず大前提としてですが、私が転生神となる際に、 白翼の地(イスラヘブン) の天使達は私に関する記憶の一切を失いました。ですから、他の天使達は私とルキルの関係についても知りません。ルキル自身も、自分が転生神の候補に挙がっていた事を忘れているでしょう。それらの事を考慮して、不必要に公言しないようにしてくださいね?』
『分かった、理性的な俺に任せておけ』
『わあ、とっても不安です』
失礼な。でもまあいいや、はよ。
『ルキルは私と同世代の上級天使でした。次期転生神として名前が挙がるほどでしたから、実力・性格と共に文句の付け所がない、慈愛に満ちた者だったと記憶しています。まあ、その頃の私ってご存知の通りでしたし、直接的な絡みはないに等しかったのですが』
『転生神の有力候補…… なるほど、才色兼備かつ心まで美しかったって事か』
『あなた様、よくそのルキルを差し置いて、メルが転生神に選ばれたな。とか、そんな事を考えませんでしたか?』
『いや、考えてないよ。お前の愛の重さは世界一よく知ってるからな』
『あ、あなた様……!』
そんな風に念話をしていると、外側では俺とメルが高速で百面相しているように見えるだろう。つまりだ、向かいに座るラファエロさんが凄く不思議そうな顔をしていた。