作品タイトル不明
第116話 おかわり
「ぐう、はぁっ……! ぜぇは、ぐ、ふっ……!」
ロッククライミングならぬアイスクライミング、それとモンスターとのバトルを同時進行でやり遂げた俺達は、登頂者しか拝めない天辺から絶景を楽しんでいた。まあ吹き荒れる吹雪で景色もクソもないし、パウル君に関しては、うつ伏せになって呼吸もままならない様子だが。何はともあれ、賛辞の言葉を送りたいと思う。
「おめでとう、パウル君。限界を超えたな!」
「へ、へへへっ…… 余裕、だぜ……!」
「うんうん、こんな状態でも啖呵を切れる余裕があるなら、崖下に蹴り落してもう一度登らせたいところだけど…… 今日は修行メインじゃないからな。当初の予定通り、天使の安全確保を優先しよう」
「鬼か、マスター……」
鬼じゃなくて死神だって。と、そんな冗談をさて置き、メル達はどこかなっと? 辺りを見回し、状況を確認する。
「……喜べ、パウル君。突き落とすまでもなく、おかわりがあるみたいだぞ」
「ぜぇ、ぜぇ…… は?」
ガバッと顔を上げ、俺と同じく目の前の光景を確認するパウル君。俺達の視線の先にあったものは、サラフィアの住処であろう氷の神殿――― プラス、その上に無理矢理建造された、氷の塔であった。塔はここまで俺達が登って来た高さ、いや、それ以上の高度がありそうだ。途中で塔が雲の中に突っ込んでいる為、ここからじゃ天辺が見えない。
「塔って事は、中に階段か梯子くらいはありそうなもんだが…… 流石にこの辺で、一度休憩を挟んでおこうか。これ以上限界を超えたら、パウル君が死んじゃいそうだしな」
「な、なんちゅうところに、避難場所を……!」
何か言いたげなパウル君であるが、空を移動する大陸、『 白翼の地(イスラヘブン) 』から避難するのであれば、この塔は良い目印になるというものだ。一見無茶な構造だけど、サラフィアも色々と考えてこうしたんだろう。
「あなた様ー、遅いですよー」
「あまりに暇だったから、ロザリアのアイスキャンディーを10本も食べてしまった。なかなかに美味だった」
「お粗末様でした。ですが、良い休憩になりましね」
塔の下にある氷の神殿に入って行くと、団欒するメル達を発見。大分暇を持て余していたようで、三人が寛ぐ氷テーブルの上には、アイスキャンディーの棒らしきものが散乱していた。いや、積み上がって山を形成していた。絶対に10本どころじゃない本数食っただろ、お前ら。
「さっ、適度な間食、適度な休憩も挟んだ事ですし、そろそろ塔を登るとしましょうか。今の私は腹五分目未満、動くには最適の腹具合ですよ!」
「………」
「あんま意地悪言ってやるなよ、メル。パウル君が絶望したような顔になってるぞ」
「てへっ♪」
死神な俺も、流石にパウル君の休憩時間をすっ飛ばして出発するほど死神じゃない。まあ五分も休憩すれば、最低限のスタミナは回復するかな?
「ご主人様にパウル様も、このアイスキャンディーをどうぞ。疲労回復・リラックス効果がありますよ。メイド長直伝、滋養強壮料理です。まあ殆ど能力で作りましたから、料理と称して良いのかは、正直微妙なところですが」
何か思いの外凄いアイスキャンディーが出て来た。
「ああ、悪いな。ほれ、パウル君も。食欲がなくてもアイスなら食えるだろ」
「お、おう……」
極寒の地でアイスを勧めるなって? 大丈夫、この神殿内は外よりも暖かいから。
「おっ? 見た目は透明なのに、しっかり味がある。チョコミント味?」
「チョコ? 俺のは果物っぽい味だぜ?」
「フフッ、ちょっとした遊び心ですよ。外見は全て同じですが、口にするまで味は分からないようにしているんです。大量生産の面ではまだまだ母様に及びませんが、こういった独自性でいえば私のアイスキャンディーに軍配が上がる事でしょう。フフフフフフ」
「「へ、へえ……」」
一体どこを目指しているのかよく分からないのだが、ロザリアからすれば、これも氷竜王を超える為の道なんだろうか?
「私が食べた冷やしトマト味はなかなかユニークだった」
「それを言ったら、私が食べたドリアン味以上にインパクトのあるものはないと思いますよ? こう、臭い的な意味で」
「「へ、へえ……」」
味だけでなく、香りまで再現しているのか。同じ青魔法の使い手でも、食べるの専門なメルにはできない芸当なんだろうな。だってメルの料理の腕、シルヴィア達に並ぶほど壊滅的でゲフンゴホン!
……兎も角、食べていたらマジで元気が溢れて来たし、エフィル直伝の料理というのも頷ける出来なのは間違いない。将来的には炎料理のエフィル! 氷料理のロザリア! って感じで、屋敷の中で争える腕前になるかもしれないな。ちょっと楽しみかも。
「しゃくしゃく…… ッシ、何とか回復したぜ! 氷の山でも塔でも、何でも来いや!」
と、そんな事をしている間に、パウル君が回復と超回復をしてくれたようだ。肉体的な強さ、精神的な強さも以前の比ではない感じである。うんうん、これでこそ五分も休憩した甲斐があるってものである。へへっ、もっと強くしてやるからな、パウル君……!
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氷の塔を登る。登りに登る。登ったら登る。塔の外壁を伝って第二のアイスクライミングを開始しようとも考えたが、休憩によるタイムロスが発生した為、素直に内部の階段を使っているところだ。ここまではモンスターも出現しないようで、本当に登るだけの作業である。ぶっちゃけ、ちょっと退屈。
「……うさぎ跳びしながら行くか?」
「あなた様、タイムロス云々の話はどこに行っちゃいました?」
時折こういった妥協案を出すも、尽くが却下されてしまう。クソッ、なぜだ?
「にしてもよ、ふう、ふう…… ッチ! ただ階段を登ってるだけだってのに、やけに疲れやがるぜ……!」
「今現在、氷山よりも高い位置にいる。よって、それだけ空気も薄い。代謝が落ちるし、疲れやすくなるのも自然の流れ。パウルが今にも死にそうなのも納得」
「あらっ? フフッ、ムドファラクも随分と博識になりましたね。実に喜ばしい事です。子を育てる母様の喜び、少し分かったような気がします」
「訂正要求、私はロザリアに育てられた覚えはない」
「たとえ話ですよ、たとえ話」
「それにしても、随分な高さにまで来ましたね。そろそろ次のおやつタイムに入りたいところです。 ……ロザリアもそう思いませんか?(ニッコリ)」
「思いませんね(ニッコリ)」
階段の上だというのに、器用にも地面に両手をついて、ガックリと項垂れる心清き天使様。どんな高所に居ようとも、自らの欲求が満たされないのが不満な程度で、元気も元気な様子だ。パウル君にも、このくらいの余裕があればなぁ。環境に上手く適応すれば、この程度は自然と体が慣れてくれるものだが、さて。
「ん? そういや避難した天使達は、ここよりも高い場所に居るんだよな? パウル君みたいな惨状になっていないのか?」
「お、おい、マスター・ケルヴィン。俺だけが酷いみたいな言い方は、うぷっ……」
うん、まだまだ駄目っぽいですね。
「天使は元々 白翼の地(イスラヘブン) に住んでいましたからね。種族全体として慣れっこなんですよ、えへん」
清き天使様、なぜか自慢気。
「なるほど…… つまり天使達は全員、俺が鍛えたパウル君よりも強い?」
「いえ、そういう訳ではないのですが…… まあ、強さの指標としては悪魔と同程度ですよ」
「ほう、つまり天使の中にも義父さんや悪魔四天王に並ぶ存在がいたり?」
「あなた様、よだれ、よだれ」
おっと、つい欲望が出てしまった。ロザリアから渡されたハンカチでそれを拭い、心を落ち着かせる。 ……よし、落ち着いた。
「ご主人様、出口が見えて来ましたよ」
「よっしゃ待ってろまだ見ぬ強敵達!」
「あなた様、よだれ、よだれ。あと、敵じゃないですから」