軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第101話 未知の魔法

対抗戦の第一試合から第四試合、その全ての相手が喉から手が出てしまうほどに欲しい 敵(・) であったが為に、待て状態から解放されたケルヴィンは今や歯止めの効かない暴走機関車となり果てていた。実際のところは理性も多少ありもするのだが、その理性はこの試合を如何にして戦い楽しむかに費やされているが為に、あまり意味を成していない。目の前に美味しそうな 人参(ドロシー) をぶら下げられては、戦闘狂は最早ブレーキというものを必要としていないのだ。

「 覆尽くす黒剣軍(オブシダンフィーレ) !」

「ッ!」

ケルヴィンが高速詠唱し発動させたのは、戦場となる舞台全面を巨大な黒剣に作り替えるS級緑魔法【 覆尽くす黒剣軍(オブシダンフィーレ) 】であった。それまで修復するなどして均一な平面を保っていた舞台全域が、ケルヴィンがいる場所を除いて突如として変色・隆起し、鋭利な刃を天にかざす巨剣の大群へと変貌する。その場に生成されただけで、頭上に存在していた全ての生物を串刺しにしてしまう凶悪なる巨剣は、巨大なだけでなく数までもが膨大。人ひとりが収まるほどの隙間もなく、舞台上に立っていれば、まず間違いなく斬り刻まれてしまう代物だった。

「死角からの攻撃にも対応可能か。良い察知能力をしてるじゃないか」

「嬉しくもない世辞をどうも。貴方も、噂以上の馬鹿げた魔力を有しているようですね」

だが、ドロシーはこの攻撃にて全くダメージを受けていなかった。ケルヴィンが口に出した通り、剣の大群が生成されるよりも早くに、真上へと大きく跳躍していたのだ。

「だが、跳んだ後はどうする? ――― 煌槍十字砲火(レディエンスクロスファイア) 」

「踏み潰すんですよ。 ――― 腐り堕ちる(デカダンス) 」

ドロシーが空中に飛び出すのを確認するや否や、ケルヴィンの指先から十本の光の槍が放たれ、 目標(ドロシー) 目掛けて光速で迫って行く。対するドロシーは何を思ったのか、折角躱した剣の大群の中へと、再びその身を投じようとしていた。

一度空中へと跳躍した状態から、不自然な加速をしながら落下するドロシー。彼女は剣の波に飲み込まれ、その姿を消してしまった。刹那の時間で 煌槍十字砲火(レディエンスクロスファイア) が追跡しようとするが、地面の巨剣に射線を遮られて衝突、大きな爆発が引き起こる。

(地面の剣に直撃、いや、寸前にあいつの落下地点にあった剣だけ分解された? 妙な超スピードといい、本当に面白い戦い方を見せつけてくれやがって!)

ケルヴィンは子供のようにワクワクしながら、自身の魔法を通してドロシーの状態を確認。舞台の上に着地し光の槍による爆発が近くで起こった今も、恐らくは無傷だと結論付ける。そして、今度はドロシーの方から動きがあった。

「 逝き渡る(コンテイジョン) 」

ドロシーが何かの魔法名を呟いた次の瞬間、彼女の周囲に乱立していた巨剣群が、次々と崩壊していったのだ。あるものは瓦礫と化し、またあるものは砂に近い大きさにまで粉々に。破壊される度合いに多少の差異はあるものの、彼女の付近に無事な巨剣は最早皆無と言っても良い。

ドロシーが着地した地点は舞台のちょうど中央に当たり、そこより発せられた円が段々と大きくなるように、巨剣の崩壊は外側に向かって行く。その崩壊の輪はかなりの速さで、ケルヴィンの下にまで迫っていた。

(ダハクの 息吹(ブレス) みたいな、対象を腐らせる能力? いや、ドロシー自身が纏っている魔力と、この見えない崩壊の波の魔力は酷似している。超緩急も謎崩壊も、どっちも同系統の力の筈だ。これを手っ取り早く確かめるには、そうだな―――)

迫り来る見えない、しかし確実な死をもたらすであろう不可視の波に向かって、ふとケルヴィンは片腕を突き出していた。

「は?」

「は、じゃねぇよ。これが一番直に理解しやすいだろうが!」

眼前にあった巨剣の崩壊、そして見えない波への接触。ケルヴィンは全神経を、並列思考の半分以上を突き出した片腕へと集中させていた。

―――ズズッ。

片腕に訪れた変化は腐食ではなく、急速な老いであった。まず目に見えてやせ細り、次いで弱々しい老人のような腕へとなっていく。最も早くに接触した指先は、更に肉の崩壊、白骨化まで開始しようとしている。一連の現象を脳に焼き付け、ケルヴィンは嗤いながら打開策となる魔法を詠唱した。

「 神聖天衣(ディバインドレス) 」

ケルヴィンが状態異常の一切を払拭する白き神聖なオーラを纏い、急速に侵食して来た老化現象は二の腕の辺りで治まった。しかし見えない波自体は止まっていない為、ケルヴィンの背後にあった巨剣は次々と倒壊していく。舞台の上に生み出された巨剣全てが破壊された時、漸く見えない波はその猛威を止めたようだ。

「ふい~、一応状態異常の類ではあったみたいだ。無事に止まってくれて、何とか助かったよ」

「……貴方、やはり頭がおかしいのですね。正体の分からない攻撃に向かって、自ら片腕を差し出すなんて」

「何言ってんだ、実際これが最適解だったろ。つまり、俺の頭は正常だよ」

ドロシー、こいつ何言ってんだ? という、怪訝な表情を作り始める。

「って、なんだ? 律儀に舞台の上だけで止めてくれたのか? やけに優しいじゃないか」

「……虐殺が目的ではありませんので」

「なるほど、これ以上広い範囲に使うと魔力がもったいないのか。強力な攻撃だが、燃費はあまりよろしくないようだ。俺とお揃いだな!」

「………」

白骨化した片腕をプラプラとぶら下げながら、納得したように何度も頷くケルヴィン。戦いの前段階で見せしめに人質を殺そうとしていたドロシーが、虐殺云々を気に掛けるなんて、欠片も考える筈がないと断定している様子だ。対するドロシーは、そんな風に心の内を見透かすケルヴィンを、少し気持ち悪そうに睨みつけ始めていた。

「おっ、良いねぇ。漸く瞳に感情が灯って来たんじゃないか?」

但し、睨みつけられている戦闘狂は、そんな事をされても喜ぶだけだった。結果、ドロシーの視線が更に鋭くなる。

「実際に目にして直に触れて、色々と面白い体験をさせてもらったよ。その上でさ、お前が使ってるその魔法、時を操る類のものかなって、そう予想してみた。不自然な速度は自分だけを早送りの状態に、唐突に剣や俺の腕が崩れ落ちたのは、急激に時を進めて老朽化と老化をさせたから、ってな。本当にそんな魔法が存在していたのならマジで脅威だが…… どうだ?」

ケルヴィンは大鎌で使い物にならなくなった片腕を自ら切り裂き、ついでとばかりにドロシーにそう問い掛ける。ちなみになくなった片腕は、ドロシーが答えを返すよりも早くに魔法で再生していた。

「……ステータスは『隠蔽』の上に『偽装』も施している筈なんですけどね。流石は戦いにおける第一人者、と褒めて差し上げるべきでしょうか?」

「嬉しい世辞をどーも。それで、正解か?」

ケルヴィンの予想は的中している。ドロシーは舞台上に現れるよりも以前に、自らの早送りを可能とする 生き急ぐ(ヴィーヴル) を施し、ピンチに陥った時にのみ発動させる事で、ケルヴィンの攻撃を躱していた。更に足裏にのみ範囲を集中させる事で、その場所のみを一瞬で数十年ほど経過させる 腐り堕ちる(デカダンス) 、その効力を僅かに落とし、代わりに射程を広げた 逝き渡る(コンテイジョン) を詠唱する事で、これまでの不可思議な現象を現実のものにして来たのだ。

「ええ、そうですよ。認めましょう。私は最強の魔法である『時魔法』を、この世界で使える唯一無二の存在です。そして、もうお遊びはここまでにしましょう。静止する時の中で、安らかに死んでください。 ――― 堕ち尽く(エテルネル) 」

ドロシーが杖の底で舞台を叩いたその瞬間、舞台の上で時が止まった。