軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第95話 お迎え

『協議の結果を報告します。第四試合、アート学院長とシン総長の戦いは、双方が試合放棄という事で…… 引き分けとする事にしました! この結果を踏まえ、これまでの戦績を振り返りますと、互いに一勝一敗二引き分け! つまりつまり、ラストを飾る第五試合にまで、対抗戦の勝敗を持ち越す事になります! いやあ、まさかここまで一進一退の展開になってしまうとは、誰が予測できたでしょうか!? 皆さん、最後の試合も要注目ですよ! それでは、ミルキー教官!』

『はい、最後の組み合わせを発表しますね。第五試合、ルミエスト代表、クロメル・セルシウスさん。冒険者ギルド代表、ケルヴィン・セルシウスさん』

『おおっとー! ファミリーネームが同じぃ!? これは一体どういう事だぁー!?』

学内に流れる放送は、大変に熱狂的なものになっていた。第五試合の出場選手である、ケルヴィンとクロメルの親子関係について。またケルヴィンがS級冒険者となってから、どのような活躍をして来たのか、その子供であるクロメルがどんなに優秀な生徒であるのかを、これでもかとばかりに解説している。

「ハァ、遂にこの時が来てしまいましたか。しかも、相手がパパだなんて…… 私、全く勝てる気がしません、です……」

そんな放送を耳にして、お手洗いを後にしたクロメルは、今日何度目かの大きな溜息をついていた。自分が他のメンバーより実力が劣っているのは、最初から理解しているつもりだった。その上で自分のベストを尽くすつもりでもあった。しかし、一番重要とも言えるこの場面で、自分の試合が回って来てしまった。その為、クロメルはずっとこんな感じで、極度の緊張に陥ってしまっていたのだ。

「ああ、クロメルのお嬢ちゃん、こんなところにいたのか」

「えっ?」

そんなクロメルに話し掛けたのは、ケルヴィンが派遣したボディーガード、パウルであった。その隣には格好をつけてポーズを決めるシンジールの姿もあり、なぜかその手には出店で買ったであろう、山のような屋台飯が。

「パウルさんにシンジールさん? あの、その大量のご飯は一体……?」

「レディ・クロメルが緊張してると思ってね。気の利く私が、美味しいご飯を持って来てあげたよ。これで気力が回復するんだろう? うんうん、美味しいものを口にすれば、緊張感も紛れるというものさ」

「え、えと、ありがとうございます? ……でも、その、試合の前に食事をするのは、ちょっと辛いかな、と……」

「な、何だって!? レディ・メルはどんな状況でも、ご飯さえあれば完全復活して、その後の鍛錬もほんの少しだけ優しくしてくれたのに!?」

「いや、それはあの人限定の話だろ。愛娘だからって、そこまで同じにしてやんなよ……」

尤もな意見であった。

「あの、お二人はどうしたここに? 校内の見学ですか?」

「いんや、んなもんに興味はねぇよ。マスターに嬢ちゃんの警護に当たるよう、そう指示されてな」

「マスター・ケルヴィンは子煩悩を極めているからね。さあ、レディ・クロメル! 舞台までの道のり、その警護は私達に任せてほしい。必ずや君を、マスターのところまでお連れしよう!」

「え、あ、はい?」

いまいち状況を理解する事ができないクロメル。まあ、普通に考えれば分かる筈もないのだが、特に断る理由もない為、このまま警護を任せる事に。

「いやはや、胃を掴む作戦は、まさかまさかの失敗か。でも、今の流れで緊張感はいくらか解れただろう? そう、それこそが私の真の作戦だったのさ!」

「ったく、相変わらず調子の良い奴だ。ところで嬢ちゃん、舞台への道はどっちだ? 俺ら、嬢ちゃんを探す為に走り回っててよ、ぶっちゃけ軽い迷子状態だったんだ」

「ま、迷子さんですか?」

「この学園、無駄に広いからね。私達が迷子になるのも、仕方のない事なのさ。そうだろう?」

「……フフッ、そうかもしれません」

パウル達の即興漫才を目にして、どうやらクロメルは笑顔を取り戻したようだ。

「会場へ行くには、こっちの通路を真っ直ぐ行くのが一番―――」

「―――嬢ちゃん、ストップ。それ以上進んじゃ駄目だ」

「えっ?」

会場への方向を指差しながら歩き出そうとするクロメルを、なぜかパウルが呼び止めた。更にシンジールは、まるで何者かからクロメルを護るかのように、彼女の前に立ち塞がっている。

「ど、どうしたのですか?」

「いやあ、ちょっと嫌な気配を感じたもんでね。そこに隠れている人、出て来たらどうだい? そこに居るのは分かっているよ」

「……なるほど、気付かれてしまいましたか」

通路の物影からそんな声がすると、次いでそこより大柄な人物が姿を現した。そして、その人物はクロメルがよく知る人物でもあった。

「ホ、ホラス教官?」

「教官? 誰だ?」

「えと、ルミエストに勤めている先生の一人です。マール寮の寮長さんもされています、です」

「はー、要はそれなりに責任ある立場にいるって事か。で、そのお偉いさんが、うちの嬢ちゃんに何の用だい? あんな敵意剥き出しでよぉ?」

相手が学園の教官であろうと、パウルの言葉に遠慮という文字はなかった。しかし、それは仕方のない事でもある。何せたった今彼が言ったように、ホラスには明確な敵意が備わっていたのだから。

「敵意? はて、何の事やら。私はそこにいるクロメル一年生を迎えに来ただけですよ。先ほどの放送にもあったように、次の試合はクロメル一年生が出場されます。ただ、少しばかり控室から退席している時間が長かったので、何名かの教官で彼女を探していたのです。そして、この区画は私が警備を担当する場所、たまたま私がクロメル一年生を発見したのです。何もおかしなところはないと思いますが?」

「フッ、下手な嘘はつかない方が良いと思うな。それなら、そんなところに隠れる必要なんて一切ないだろ? 尤も、嘘を言うにも隠れるにしても、もう少し殺気を抑えた方が良い。レディ・アンジェに死ぬほど鍛えられた私達の察知能力、甘く見ないでほしいな。本当に! 冗談でなく! 死ぬほど鍛えられたからね!」

シンジールの言葉には、やたらと力が入っていた。

「……生徒が怪しげな男達に声を掛けられていたので、少し様子を窺っていたまで――― と、流石にこれ以上は無理がありますね。なるほど、A級冒険者でも多少はやるようになった、という事でしょうか。過小評価していた事を、ここにお詫び申し上げます」

パウルとシンジールに対し、ホラスが深々と頭を下げ始める。誤解が解けた? と、クロメルはそんな風に考えたが、それでもパウル達が警戒心を解く事はなかった。それどころか得物を構え始め、より警戒心を強めている。

「ですので、ここよりは少々手荒な真似をさせて頂きます」

「「ッ!」」

顔を上げたホラスの頭上には、いつの間にか漆黒の輪が、更に背中には同色の翼が形成されていた。その姿は、まるで堕天使そのものである。

「おいおいおいおい、一体何だってんだよ! 俺は嬢ちゃんの引率に来ただけだってのに!」

「引率とは失礼だな。そこはエスコートと…… って、それどころでない事は確かか。さて、どうしたものだろうね」

ホラスから解き放たれる圧も最初の比ではなく、クロメルでさえも肌で殺気を感じられるほどになっている。そして、ケルヴィンの下で鍛え上げられたパウル達だからこそ、眼前の何者かの実力が自然と分かってしまう。これは間違いなく格上の敵、つまり―――

(面白ぇ、俺が潰す!)

(貴重な強者、私が倒す!)

―――喰い甲斐のある敵だ、と。バトルジャンキー教育の弊害、ここに発生。

「ホ、ホラス教官、貴方の目的は、一体……?」

そんな戦闘狂が異常発生している中で、まともな思考を維持していたクロメルが、至極真っ当な質問をぶつけた。ホラスはクロメルに対し軽く微笑み、この質問に返答する。

「最初に言った筈ですよ。クロメル一年生、いえ、堕天使クロメル。私は貴女をお迎えに上がったのです。同じ堕天使として、ね」