作品タイトル不明
第94話 ダブル断罪
一方その頃、ケルヴィンが今現在最も危険視している 爺馬鹿(ジェラール) & 親馬鹿(グスタフ) はというと―――
「「うおおおおぉぉぉーーー!」」
―――学園都市ルミエストの外、映像放送が行われているキャラバンの外れにて、魂の叫びを上げていた。
「いい加減うっさいわよ! 隠居するどころか限界を突破し続けてるし、父上もジェラールも何なのよ、もう!」
セラはそんな迷惑な保護者達の頭を鷲掴みし、手の平に切った傷より血を流す事で、『血染』による拘束をし続けていた。本来セラの『血染』は頭さえ押さえてしまえば、対象の全てをコントロール下に置く事ができる無敵の固有スキルであるのだが、どうした事か、このダブル馬鹿はその支配を逃れる寸前のところにまで至っていた。アンジェの毒や封印の鎖といった搦め手を同時に使っているのだが、それさえも乗り越えて、ダブル馬鹿はこの叫びを上げる始末。一応、この叫びはシュトラの結界によって周囲に聞こえないようにはしているが、ダブル馬鹿の本体が動き出すとなれば、隠蔽工作がこれ以上持たなくなるのは必然であった。
「セラさん、ケルヴィン君の試合が終わるまで持ちそう?」
「そこまでは頑張って持たせるけど、その後は保証し切れないわね……! というか、ホントにどういう原理よ、これ……!」
「グスタフのおじ様はセラお姉ちゃんと同じ固有スキル持ちだから、それで対抗してると思うけど…… ジェラールお爺ちゃん、そんな能力持ってたかなぁ?」
「うーん、シュトラの記憶にないとすれば、私も思い当たるようなものはないんだよね。ジェラールさんの固有スキルって、身につけている装備品の性能を上げる『自己超越』と、敵を倒すごとにステータスが上昇する『栄光を我が手に』、だっけ?」
「……セラお姉ちゃんの血も自分の装備品として認識させて、存在の概念を書き換えているのかな? 体内に回った毒、拘束している鎖も同じようにしているとか」
シュトラが凄まじく恐ろしい考察をし始めた。
「うわー、何それ。セラさーん、らしいよー? 恐いねー、気を付けてねー」
「セラお姉ちゃん、押さえつけてるゲオルギウス達、退避しても良い? 私のヌイグルミ達まで取り込まれるのは、流石にちょっと……」
「何だか他人事じゃない、二人とも!?」
そんな風に分析したり怒ったりしている間にも、ダブル馬鹿の抵抗は強まっていく。
「私の『報復説伏』が使えれば、無理矢理にでも言い包めるんだけど…… 二人とも、私に敵意がないから効果がないの」
「万事休す、ってやつかな? あっ、簡易転移門を使って、北大陸に送り帰すっていう荒業も一応あるけど、どうする?」
「それをやったら、多分あっちにいる悪魔四天王が全滅するわ! それに、折角立て直した国が悪評だらけになっちゃう!」
「「あー……」」
容易に想像のつく、最悪の光景であった。
「本当に面倒なんだから! 二人とも、良いの!? ここで無駄に暴れたら、ベルやリオンから一生嫌われちゃうわよ!? 私も嫌うし、そこのシュトラやアンジェだって嫌う! 当然、クロメルもよ!」
「「ッ!?」」
セラがそう声を荒げた途端、ダブル馬鹿の叫びがピタリと止まり、また同時に二人の巨体がビクリと震えた。
「あらっ?」
そんな意図はなかったのか、当のセラもキョトンとしている。しかし、アンジェとシュトラはこの展開を予想していたようで。
「あっ、セラさん遂にやっちゃう? 二人を止める最終手段」
「さ、最終手段?」
「うん、最終手段。ギリギリの臨場感を楽しんでもらう為に、ケルヴィンお兄ちゃんの前ではもう無理! っていう演技をしていたんだけど、やっぱりお爺ちゃんとおじさんには、これが一番効くと思って。えっと――― 自分勝手で我が儘な大人、私、大っ嫌い!」
「「ッ!!??」」
そうシュトラが精一杯叫ぶと、再びダブル馬鹿の巨体がビクビクと震え出した。どうやら精神面にクリティカルヒットしているようである。
「……ああ、なるほど! 単純な解決法過ぎて、今の今まで忘れちゃってたわ! 小難しい事なんてせず、正面から罵倒するのが一番効くのよね、父上達には!」
「そうそう、この二人が一番怖がる事って、娘や孫に嫌われる事だからね~」
「だから余裕だったのね、アンジェ達…… まあ、良いわ。それが分かっちゃえば、やる事は一つだし!」
「うん、やっちゃえやっちゃえ! セラさんが言えば、きっと効果覿面だよ~」
「よーし、スゥ…… 父上にジェラール! あまり度が過ぎると、式にも呼ばれなくなるんだからね! 私の晴れ姿、一生見せない!」
「「ぐぅはぁっっっ!!!」」
あまりの衝撃に、遂には吐血をしてしまうダブル馬鹿。そのまま白目をむき、バタリと地面にぶっ倒れる。
「ちなみに、ベルっちのも当然不参加だよー。あ、不参加というより、立ち入り禁止? うわー、二人の晴れ姿を見られないなんて、可哀想だなー。それはそれは素晴らしくて、後世に残すべき大切な場面なのになー。それどころか最悪の場合、式の後には絶縁されちゃうかもー?」
「優しいリオンちゃんやクロメルにも、流石に我慢の限界というものがあります。学園生活を滅茶苦茶にした人に対して、今までと同じように接する事ができると思いますか? 良い大人なんですから、孫に甘えるのも大概にしないと、後々大変な事になってしまうかもしれませんよ? 少なくとも、今後トライセンには入国禁止です」
「「だぁうはぁっっっ!!!」」
更にアンジェとシュトラはダブル馬鹿が倒れたところに、追い打ちならぬ耳打ちをしていた。ダブル馬鹿の耳元で囁かれる言葉は、どれも鋭利な刃物となってガラスのハートを粉砕する。その結果、ダブル馬鹿は口から泡を吐き出し、全身から力という力を抜かれるのであった。ついでに魂のようなものも出かけているが、ダブル馬鹿も良い大人なので、後は自分で何とかする事だろう。
「悪は滅された、いえ、馬鹿は滅されたが正しいのかしら? 一歩間違えれば、ケルヴィンも 馬鹿に(こう) なってしまうのよね…… そうならない為にも、私達が正しい道に導いていかないと!」
「そうだね!」
「うん!」
こうしてケルヴィンが最も恐れていた危機は去り、ルミエストの地に一時の平穏が訪れるのであった。相手が元魔王と暗黒鎧なだけに、決して笑い事で済まされる事件ではなかった。が、正直落としどころとしては、至極妥当なところだろうなと、三人は心から納得している様子だ。
(でも、さっきから嫌~な予感がするのよね。父上とジェラールを黙らせたら収まると思っていたけど、どうもそんな気配もないし、うーん……)
セラはキャラバンで放送されている映像を見詰めながら、不穏な予感について考えを巡らせる。このような予感がする時は、十中八九何かが起こると、経験則から知っていたのだ。
(……まあ、いっか! どうせケルヴィンが喜んで何とかするだろうし!)
但し、それは同時にケルヴィンが喜びそうなものでもあった為、次の瞬間には考えるのを即座に放棄。考えを巡らせる代わりに、アンジェ達と共に屋台を巡り始めるのであった。
「あっ、パインかき氷ですって! 美味しそう! 二人も食べない?」
「もち、食べる食べる!」
「わ、私は少しだけで十分だから、お姉ちゃん達のを分けてほしいかな。ムドファラクみたいに一杯は食べられないし……」
「「え? メル(さん)じゃなくて?」」
『『くしゅん!』』
意思疎通(かなた) から腹ペコ天使&竜王のくしゃみが聞こえて来た。