軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第72話 入場

「さあさあ、遂にこの日がやって参りました! 学園都市ルミエストが主催する、年に一度の対・抗・戦ーーー!」

「「「わああああっ!」」」

アナウンスされた威勢の良い声に、会場が熱気と大声援に包まれる。対抗戦の会場は今、今日一番の盛り上がりを見せていた。

「例年と同じく、今年の対抗戦も学園と冒険者ギルドの強者達が覇を競います! ああ、申し遅れました! 実況は私、放送部が誇るエースアナウンサー、ランルル・ビスタがお送りします! 将来の夢は獣国ガウン総合闘技場で実況をする事! 尊敬する方はもちろん、ロノウェさんです! 気軽にランとお呼びくださいッ! そしてそして、解説はセルバ寮長の~?」

「はい、ご紹介に預かりました。ルミエスト教官兼セルバ寮長のミルキー・クレスペッラです。本日はよろしくお願い致します」

「よろしくお願いします! ミルキー教官は昨年、そのまた前の年も解説を務めていらっしゃいましたが、私は結構意外に思っていたんですよ」

「あら、それはなぜですか?」

「そうですね。これは私の勝手なイメージなのですが、こういった矛や拳を交える戦いは、どちらかと言えばアーチェ教官の分野かなと。ほら、アーチェ教官って武術や武器を扱う講義を担当されていますし」

「ああ、そういう事ですか。確かに、その一方で私は研究分野が主ですからね。そう思われるのも仕方のない事だと思います。まあ、少々浅はかだとも思いますけどね」

「へ? あ、あの、ミルキー教官?」

「さ、そろそろ開会式が始まりますよ。自分の職務を全うしてくださいね」

「は、はいっ! 間もなく開会式です! 皆様、指定された席にてもう少々お待ちください!」

和やかそうでそうでないような、そんな不思議なトークから始まった実況と解説。昨年の対抗戦を観戦した生徒や関係者は、今年もまた荒れた解説になりそうだな、と、そんな事を思いながら苦笑いを浮かべていた。しかし初見となる者達にとっては、今の会話も問題に映る。

「な、なかなか破天荒な指導者ですな。ルミエストに所属している以上、実況をしている彼女も一応はどこかの名家なのでは? 当たりの強い国なら、それこそあれだけで厄介事が舞い込むと思いますが……」

「フッ、尤もな意見だな。私も最初はそこが疑問だったよ。ただ、このルミエストという環境が実に特殊でね。学び舎という形でありながら、世界が認める中立国として成立している。生徒はどこの誰であろうと生徒であり、指導者は喩えそれが平民の出身であろうと指導者なんだ。あの程度の事を一々槍玉に上げていては、学び舎として機能しないのだよ。そして不必要に生じた問題は他生徒の学業の妨げとなり、もっと言えば他国を邪魔立てしている事にも繋がる。これだけ多くのネットワークがあるんだ。噂が広まるのも早いだろう」

「つまり、巡り巡って他国から白い目で見られると?」

「その通りだ。度が過ぎれば、何かしらの制裁を与えられる事もあるだろうな。何はともあれルミエスト学園内に通っているうちは、誰もが一般生徒として扱われる。高度な教育を施されるだけでなく、世間知らずも上等な人間も、等しく世間に社会に揉まれる。それがルミエストなんだ。今日この場に来ている者達の殆どは、暗黙の了解としてそれらを心得ているだろう」

「な、なるほど、教育機関としてルミエストが各国に重宝される訳ですね。しかし、学園と生徒ではそうでしょうが、生徒間でも色々とトラブルはあるのでは?」

「その色々を体験してこその学生生活だよ。少なくとも、私はそう期待している。まあ、そう心配するな。昔であれば話は別であっただろうが、今の学院長であるアート氏になってからは、地位や血筋による差別は大分なくなっていると聞いている。もちろん、完全にではないだろうがね」

「な、なるほど……!」

そんな会話をしていたのは、学園外のキャンプ地に設置された映像投影型マジックアイテム、そこに映し出された試合会場の光景を眺める、どこの誰とも知らない商人達であった。どうやら映像と音声を酒の肴に、親目線で語る後方両親 面(づら) ごっこなるものをやっているらしい。彼らの趣向は兎も角として、対抗戦に強い関心を持つのは、何も関係者だけでないのは確かだろう。

「お待たせ致しました! それでは本日の主役である英傑達に入場して頂きましょう! まずは西の門、我らがルミエストの代表メンバー!」

ランの合図と同時に西から中央ステージへ上がり始める、学院長アートが率いる学園メンバー。ランが英傑と謳うだけあって、彼らからは普通とは異なる、圧倒的な存在感が放たれていた。

「ああっと、これはどういう事でしょうか!? 今回特例として参加する事になったアート学院長、全身ピッカピカです! 眩しい、眩し過ぎるッ! そして金ピカ学院長の後ろに続くは、おおっと、こちらも凄い! 全身を不思議な形の鉄仮面と重装甲で包んだ大男、セルバ寮一年のグラハム君ですッ! 何なんだぁその装備はぁーーー!?」

……主に格好的な意味で。

「ミ、ミルキー教官、これは一体……?」

「あの大鎧、甲冑と呼ばれる大国トラージ独自の装備ですね。トラージはグラハム君を推薦した国でもあります。あれだけの大サイズですから、グラハム君の体格に合わせてオーダーメイドで作ったんでしょう。今のところそれ以上の事は分かりかねますが、恐らく素材も相当なものを使っているかと」

「東大陸の大国、トラージの鎧ですか! それは凄い! それでは、アート学院長の格好は―――」

「―――まあ! 見てください、グラハム君の後ろに付いて歩くクロメルさんの可愛らしい姿を。純白の衣服を纏った彼女は、正しく純白の天使と言っても良いでしょうね。しかも、こちらの装備からも尋常でない魔力が感じられます。凄まじい性能を有していそうですね」

「な、なるほど…… えと、ではアート学院長の―――」

「―――フフッ、ベルさんは黒衣の胴着、リオンさんは軽鎧、ラミさんは制服のままですか。今年は生徒側も色とりどりの格好ですね。見ているだけで胸が躍ります。そうは思いませんか、ランルルさん?」

「……はい! とってもそう思います! という訳で、以上の六名がルミエストの代表メンバーとなりまーす!」

これ以上質問を繰り返すのも厄介だと思ったのだろう。ミルキーのスタンスに乗っかる形で、ランもアートの輝きを見なかった事にしたようだ。

「続きまして東の門、冒険者ギルド代表メンバーです! ステージへどうぞ!」

そんなランの掛け声と共に、東門より現れる六人の人影。

「え? なあ、あれって『 不羈(ふき) 』じゃないか? ほら、冒険者ギルド総長の……!」

「ま、待てよ、S級の『女豹』や『死神』、最近になって昇格した『紫蝶』までいやがるぞ!?」

「いつも冒険者ギルドって、A級の冒険者の人達をメンバーにしてなかった? それなのに、何なのこの面子は……?」

「ろ、六人中四人がS級冒険者って、どっかの国と戦争するつもりかよ!?」

「にしたって過剰戦力だぞ!」

シンを先頭に次々と現れるS級冒険者の姿に、会場とキャンプ地が驚きの声で包まれる。それもその筈、彼らは今の今まで、対抗戦にS級冒険者が出場する事を知らされていなかったのだ。

「おおっとー! これは一体どういう事でしょうか!? 解説のミルキー教官!?」

「それだけ冒険者ギルド側が、今年のルミエストは強敵だと判断したのでしょう。これまで何十回と開催されて来た対抗戦ですが、そのどれもが冒険者ギルド側の勝利で終わっています。ここで負ける訳にはいかないという、そんな強い意志が感じられますね。私も妥当な判断だと考えています」

「なっ、なんという事でしょう! 今年の対抗戦はレベルが違うぞぉーーー!」

驚きは歓声へと変わり、今日一番のヒートアップ度合いを更新し続けた。