軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第67話 代表選出

エドガーの求婚騒動から暫くしたある日の事、一年生から三年生の数名の生徒達が、学園の施設の一つである模擬戦場に集められた。知らされたのは日時と場所だけで、そこに集まって一体何をするのか、そこまでは聞かされていない。が、その生徒達は集められた理由を、何となく察していた。何せ、彼らは来たる対抗戦の候補者達。本格的に代表メンバーが決める事を、今か今かと待ち侘びていたのだ。

「ふわ…… あら、皆早いのね」

「お、ベルっちおっす~」

「ベルちゃん、おはよー」

「おはようございます」

当然ながら、リオンをはじめとしたいつもの一年生メンバーも集まっている。早朝の時間である為か、低血圧のベルはかなり眠そうだ。いつもはビシッと決めている髪型も、所々に寝ぐせが見受けられる。

「ったく、何もこんな朝っぱらからやらなくたって良いじゃないの。ねむ……」

「そうですわね、ベルお姉様! 今度私の方から、学園側に改善するようクレームを出しておきますわ!」

そんなベルの背後には、彼女をお姉様と呼ぶ縦ロールな女生徒がいた。彼女の名はカトリーナ、寮に配属された際に、ベルに喧嘩を売った例のお嬢様である。ただ、今はその時とは様子が大分異なるようで、ベルを見る目や態度等々が変化していた。

「カトリーナさんもおはよ~」

「あら、リオンさんではありませんか。おはようございます。朝から相変わらず貧相な顔と胸ですわね」

「カトリーナ」

「はい♪ なんでしょうお姉さぐはぁっ!?」

ベルが詠唱した 重風圧(エアプレッシャー) によって、地面に顔面から倒れ伏すカトリーナ。次いで背中に右足の踵を押し当てられ、ぐりぐりっとされてしまう。

「貴女如きが何て口の利き方してんのよ。分を弁えなさい」

「は、はああん! お姉様! そんな、そんなところおおぉ!」

「ベルさん、最近そちらの方と仲良しさんですね。とても良い事です」

「これを見て仲が良いと感じる 貴女(クロメル) の感性、かなりおかしいと思うのだけれど…… 仲良くなんてないわよ。何の間違いなのか、この子も対抗戦の候補者に選ばれちゃってね。それで今日も朝から、というか部屋の前からずっと付いて来てんのよ。犬かってくらいに!(ぐりっ)」

「おほおぉぉ!」

「あれ、雷ちゃん?」

「何も見えないさんです」

「鬼ハードで見せられないし」

これ以上は教育によろしくないと察したのか、ラミが稲妻的速度でリオンとクロメルの目を隠した。どうやらカトリーナは何かに目覚めてしまったようだ。上級生達の視線も集まり始めているが、ベルはだからどうしたと言わんばかりに、全く気にしていない。眠気を晴らすかのように、尚もカトリーナを踏み続けている。

「一年は私達とこのカトリーナ、後はグラハムとエドガーが候補に挙がったみたいね。ま、少なくともカトリーナは候補者止まりだから、今日限りで忘れてもらっても構わないわ」

「ああ、辛辣ですわ! でも、そんなお姉様も素敵……!」

「ベルっちの調教ぱねぇなぁ。あ、学院長が出て来た。そろそろ始まりそうだし」

ラミの言う通り、模擬戦場に学院長のアートが教官のミルキーを連れて姿を現した。ステージ中央へと進んで行った彼はそこで立ち止まり、マイクを片手に集った生徒達を見回す。

「やあ、皆のアート学院長だよ。今日は朝早くから集まってもらってすまないね。早速本題に入るけど…… うん、もう集まってもらった理由は分かっているだろう。来月に行われる冒険者ギルドとの対抗戦、そのメンバーを今日この場で決めたいと思う」

アートの言葉を受け、集まった生徒の何人かがゴクリを唾を飲み込む。対抗戦のメンバーに選ばれるのは、ルミエストの生徒達にとって大変に名誉ある事だ。他を寄せ付けない圧倒的な戦闘力を持った者でなければ、決して選出される事はないであろうこの行事。選出メンバーは学園内外の多くの権力者の目に留まり、つまるところ、卒業後の進路や祖国の威信に大きく関わる。冒険者でいうところのS級の昇格式のように、お披露目会としての意味合いが強いのも頷けるだろう。結果的に冒険者に敗北したとしても、相手は常に実戦に身を置く、それもA級以上の強者達だ。成長途上である学生の身で僅かにでも見せ場を作る事ができれば、それだけで十分な評価に繋がるのである。

一方で、内容としても何の結果も残す事ができなければ、それは汚名以外の何ものでもない。対抗戦の出場メンバーに選ばれたからには、家の名を、国の名を、学園の名を背負うだけの責任と覚悟を持たなくてならない――― と、表向きにはされている。実際にはギルド側がその年の実力に見合った冒険者を選定して来る為、滅多な事がない限りは活躍の場が用意されているのだ。もちろん学生達はその事を知らない為、対抗戦に本気で挑む事には変わりないのだが。

「今年も例年通り、対抗戦に出る生徒メンバーは五名だ。今日集まってもらった一年生七名、二年生五名、三年生九名から更に絞って、このメンバーを決めていく訳だが…… まずは一度、確認しておこう。現段階で候補者から降りたいと、そう考えている生徒はいるかな? 対抗戦には多くの責任と、重く厳しい義務が伴う。自分の弱さを認めるのも、生きていく中で必要な事だ。恥ずべき事では全くないと、美し過ぎる私がそう断言しよう。さあ、どうだい?」

アートが生徒達を再び見回す。生徒の多くは緊張した様子だが、誰一人として手を挙げる者はいなかった。

「よろしい、それでは一旦このまま話を進めよう。ミルキー教官、例の資料を皆に配ってくれたまえ」

「よろしいのですか? ご自分で配った方が、何かと目立つと思いますが?」

「おお、それは一理あり!」

ミルキーの助言(?)を聞き入れたアートは、彼女から資料を全て受け取り、自ら生徒達に配り始めた。「この美貌、君に届け☆」などと、手渡す際に必ず一言添えられた為、生徒達は笑いを堪えるのに必死だった。

「資料と私の想い、皆に行き届いたね? 今年の対抗戦は少し変則的なものとなっていてね、いつもは一対一の計五試合をしていたんだけど、今回は一対一が四試合、二対二を一試合する事になったんだ。二対二の試合に出る生徒には、実力の他に連携力が求められるだろうね」

「あの、アート学院長。それではメンバーが全部で六人になりませんか?」

上級生の一人が、当然の疑問を投げ掛ける。

「いや、五人で間違いないよ。だって一対一の試合のうちの一つは、この私が出る事になっているからね」

「えっ?」

予想外なアートの回答に、生徒達の間にどよめきが走る。アートがS級冒険者であり、異次元の強さを有している事は周知されている。対抗戦に出るだけの十分な実力があると、誰もが納得するところだろう。が、しかし、この対抗戦に生徒ではなく教官が、それも学院長が出るなんて事は前例がなかった。生徒達が驚くのも、仕方のない事なのである。

「はい、静粛に。君達が驚く気持ちは痛いほど分かるよ。私にとっても、これは苦渋の決断だったんだ…… 先日、冒険者ギルドから知らせが届いた。今年のギルド側のメンバーには、S級冒険者を少なくとも四人は参加させるとね」

「え、S級冒険者!? それも、四人!?」

更なる喧騒が生徒達の間で広がっていく。ここに集った者達は、ルミエストでもトップクラスの力を持つ生徒ばかりだ。しかし、だからと言ってA級冒険者に勝てるほどの戦闘力を持ち合わせている訳ではない。二年三年の上級生達は、昨年の対抗戦を直接目にしている。その時の選出メンバーの実力と、今の自分達の実力を比較すれば、冒険者との力の差は自ずと分かって来る。ましてや今回の相手はS級、勝てる見込みがない事は明白だった。更にメンバーになった際の責任と重圧は例年以上のものになるだろうと、生徒達の殆どは察してしまう。

「あ、あの…… 私、やっぱり辞退します……」

「お、俺も取り止める!」

次々と辞退を表明する生徒達。最終的に模擬戦場に残ったのは、最初の半数ほどの生徒だけだった。