作品タイトル不明
第52話 ですわ!
「わっ、ここが僕達の部屋か~」
「え、ええっ、えええ~~~!」
ボルカーン寮の二階、見晴らしの良い角部屋を割り振られたリオンとドロシーは、早速部屋の扉を開けて中を確認する。部屋には家具一式、それも見るからに高級そうなものばかりが、備品として既に備え付けられていた。流石は王族貴族が多く通う学園といったところだろうか。中には家具まで持ち込みで変えてしまう者もいるようだが、そんな事をする必要がないほど、ベッドなんてフカフカのヌクヌクである。そして、そんな部屋の内装を目にしたドロシーは開いた口が塞がらない様子だ。
「し、資料で家具が予め設置されている事は知っていましたけど、ここまで凄い高級品で揃えてしまうものなんですか……!? うわ、うわー、ベッドがフカフカのヌクヌク……」
「わーい♪ お行儀は悪いけど、やっぱりお尻から飛び込んじゃうよね~」
「そ、そんな、ベッドをトランポリンみたいに! こんな高級品を粗末に扱うなんて、でも、私もやりたい抗い難い……!」
結局、二人は気が済むまでベッドの感触を楽しんだ。
「さて、そろそろ引っ越し作業に戻ろっか」
「そ、そうですね、頑張りましょう。 ……えと?」
ベッドから跳ね起きたリオンが、その場で自分の影の中に手を入れた。何事かとドロシーが見守っていると、その影の中より一匹の子犬、いや、子狼らしき生物が飛び出した。リオンの相棒アレックスである。
「ウォン!(出れたー!)」
「あはは、アレックスもこの部屋が気に入ったみたいだね」
「えええぇーーー!?」
尻尾を振りながらあっちにこっちにと、興奮気味に床を駆け巡るアレックス。ドロシーは状況を理解できず、取り敢えずの叫びを上げる事しかできない。
とまあ、一通りのお約束を済ませ、リオンはアレックスをドロシーに紹介。ペット枠として連れて来た事を説明すると、ドロシーも納得したように胸を撫で下ろした。
「突然だったので、かなり驚いてしまいました…… ですが、そうでしたね。このボルカーンとセルバは、ペットの同伴が認められているんでした。自分の事で一杯一杯で、私、失念していました」
「ごめん、登場が急だったもんね。もしかしてシーちゃん、動物は苦手?」
「いえいえ、だとしたら最初から他の寮を希望しています。むしろ大好きです♪」
その後、アレックスと戯れモフモフタイムへと突入。リオン達の引っ越し作業が再開されたのは、それから更に数十分後の事であった。
―――一方、他の寮の様子はというと。
「キャー、可愛い! このポーズも可愛いわ!」
「クロメルちゃん、次はここで座って! あ、そのままクロトちゃんを抱えてみて! きっと良いアクセントになるから!」
「あ、あのー……」
「クロメルちゃん、今良いところだから動かないで!」
「は、はひっ!」
クロメルが配属されたセルバ寮では、どういう訳か樹の寮章の下で大スケッチ大会が開かれていた。御供のクロトを抱えたクロメルを中心に、セルバの女生徒達がその周りを囲み、瞳を輝かせながら手に持ったペンを必死に動かしている。
「……できた! どう!? 私の絵が一番天使じゃない!?」
「フフン、そんな事ないもんね! 私が書いた絵の方が絶対的に天使だし!」
「ああ、良~な~クロメルちゃん。どんなポーズでも可愛いし、本当に絵になるし~」
「ねえねえ、クロメルちゃん。どの絵が最かわだと思う? 私のだよね?」
「え、えっとー……」
「はうっ! 戸惑うクロメルちゃんもまた良き……!」
どうやら最年少のクロメルは、すっかりこの寮のマスコットとなってしまったようだ。純粋無垢なところに母性をくすぐられてしまうのか、同級生な筈の女生徒達はクロメルに夢中のようである。
「でも、クロトちゃんも何気に可愛いのよね。私、スライムにこんな感情抱いたの、初めてかも……!」
「分かる! クロクロコンビで学園の可愛いを制覇できそうなくらいだもの!」
「ああ、クロメルちゃんとクロトちゃんをまとめて抱き締めたい……!」
可愛いの相乗効果が働き、めでたくクロトも人気になっている。但し、クロトは日頃からパーズなどで子供達の相手をしていた経験があった為、クロメルよりかは手慣れた様子で付き合っているようだ。
「おや? お主ら、まだクロメル殿の絵を描いておったのか? 良い時間になったで 候(そうろう) 、そろそろ家移りの作業に戻るでござるよ」
そんなスケッチ会場に現れたのは、侍口調の巨人グラハム。彼は一足先に引っ越し作業を終わらせたようだ。
「あ、グラハム君」
「もうそんな時間? って、やばっ! 私、スケッチブックとペンしか出してないや!」
「私は『保管』の中から荷物を取り出すだけだから、今からでも楽勝かな~? あ、その分クロメルちゃんを手伝ってあげる! 私ってば役得!」
「いや、アンタ部屋が違うでしょうが…… クロメルちゃんの相方であるこの私が、責任を持って面倒を見ますから!」
「「「何それ狡い!」」」
彼女達によるクロメルの取り合いは、残念ながらまだまだ終わりそうにない。
「あ、あのー、クロトが『保管』を持っているので、私もそこまで時間は掛からないのですがー……」
「ふ~む、セルバはこれから賑やかになりそうでござるなぁ。しかし皆の衆、そろそろ教官殿がいらっしゃるでござるよ。おーい、聞いてくだされー」
クロトを両腕で抱えながらおろおろするクロメルと、やれやれといった様子で首を振るグラハム。この直後に寮長のミルキーが、怒筋を浮かべながら本当にやって来る訳であるが、そこはあまりに毒である為、割愛しよう。
―――最後にベルが配属されたシエロ寮であるが、こちらは何やら、他の寮ではなかった緊迫感に満ちているようだ。大空の寮章を掲げるシエロ寮のエントランスでは、ベルと縦ロールな髪型の目立つ女生徒、そしてその取り巻きらしき者達が対峙していた。
「ベルさん? 貴女、ちょっと調子に乗っているんじゃなくて?」
「調子に? 言葉の定義が分からないわね。私のどこがどう調子に乗っているのかしら?」
「そういう態度が、ですわ! ちょっと成績が良かったからと首席になって、すっかりその気ではありませんか! 人と悪魔の橋渡し役だか何だか知りませんが、もう少し慎み深さというものを身につけるべきですの!」
「「「そうよそうよ!」」」
縦ロールの言葉に取り巻きの女生徒達が続く。
(ハァ、いつか来るとは思っていたけど、早速とはね……)
入学式にて慣れない言葉で挨拶をし、現在ベルはそれなりに気疲れしていた。さっさと部屋を整え、ひと眠りしようとしていた矢先にこんな状態になってしまった為、それはもうげんなりしている様子だ。無視するのも手ではあるが、不幸な事に部屋の相方は眼前の縦ロールだった。今後の展開を考えるに、舐められたら尚更面倒なのである。
(挨拶の時にこっそり会場に流しておいた『色調侵犯』入りの風、私への敵対心を薄める効果があった筈なんだけど…… ああ、会場が広くて風量が気付かれない程度のやつだったから、プライドの高い馬鹿まで効果が及ばなかったのか。ッチ、本当に面倒臭いわね)
ベルは数秒の間で考えをまとめ、彼女達に 教育(・・) を施す事で、この騒動を解決する事に決めた。そしてその為に必要なのは、分かりやすい挑発であると結論付ける。
「私の事を気に掛けるよりも、まずは鏡を見てはどうかしら、三下の皆様? キャンキャンキャンキャン煩くってかなわないわ。群れないと何もできない負け犬なのは理解してあげるけど、犬臭いから私に近づかないでくださる? 臭いが移っちゃうでしょ?」
「ハ、ハァ―――――!? な、何ですのその物言いはぁ!? 穏便に済まそうと思っていましたけど、もう許せません! ベルさん、貴女に決闘を申し込みますわ!」
縦ロールは自身が身につけていた白手袋を、ベルの足元に向かって勢いよく叩き付けた。その際のベルの表情は、若干ケルヴィンの笑みに似ていたそうな。