作品タイトル不明
第25話 巡り巡って返る罰
翌日、俺とジェラールは精霊歌亭に赴いた。とある人物から呼び出しを食らったのである。
「ハァ? 貴方達、まだそんな事をグダグダ言っていたの? いい加減、子離れ妹離れ孫離れしなさいな。行き過ぎると私のパパみたいな立場になっちゃうわよ? リオンやクロメルから白い目で見られたいの? そういう変態的な趣味に目覚めちゃったの?」
「いや、その、面目ないというか何というか……」
「ワ、ワシらはただ心配で心配で、他意はないのじゃ。本当なのじゃ……」
その人物とは、俺達の眼前に座っておられるベルさんの事だ。テーブルの上にクレアさん特製のモンブランがなかったら、彼女の機嫌は更に悪化していただろう。恐ろしい、実に恐ろしい。
「セラお姉様に呼ばれた時は驚いちゃったわよ。貴方達のあまりの愚かしさにね」
「「ぐっ……」」
俺達は今、酒場のテーブル席に向かい合うようにして座っている訳だが、ベルが普通に座っているのに対し、俺とジェラールは椅子の上で正座する事を強いられている状態だ。背もたれのないタイプの椅子ではあるが、地面に正座するよりも、こちら方が精神がすり減り負担が掛かる。ジェラールなんてあんな巨躯だから、正座するだけでも大変だ。そしてこの正座タイム、そろそろ一時間を越えようとしている。要は何を言いたいかというとだな、足がもうやばい。感覚がない。ごめんなさい。刀哉、前にこんな罰ゲームやらせてごめんな……
と、なぜに俺達がこんな仕打ちを受けているのかというと、ジェラール最強警備員計画がセラにバレたからである。発信相手をジェラールに絞った念話での情報伝達も、セラが相手ではちょっとしたアイコンタクトで勘付かれてしまうのだ。
『ジェラールだけ警備員にさせるつもりなんでしょ!? アンジェといい、ケルヴィン達ばっかり狡いわ! 私をルミエストの教師にしてくれないのなら、当事者のベルに言い付けてやるんだから!』
勘も良いし運も良いセラを相手に、隠し事をしようとした俺達の愚かさよ。そんなこんなで、俺達の壮大な計画はベルに知られる事となる。信愛なるお姉様のお呼びならばと、ベルは朝一番に屋敷へとやって来た。わざわざ北大陸から海を渡ってやって来た。低血圧なのに、早起きして来てくださった。ちなみに転移門を使うという選択肢は、俺が拒否する事を見越して排除したらしい。流石はバアルの血を引く者、鋭い。
そして到着するなり俺とジェラールをこの精霊歌亭に連れ出し、酒場に着くなり正座を強要し、自らは好き勝手にメニューを注文するという横暴っぷりを炸裂。いや、俺が悪かったのは確かなんだけど。けどさ、クロメルとリオンを引き合いに出しての精神攻撃はそろそろ勘弁してほしい。本当に反省しているんです。嫌われたくないんです。マジです……
「ったくもう。これだけ暗い未来を教えてあげれば、もう下手な行動はしないかしら?」
「はい、気を付けます。自制します……」
「一緒に西大陸に行っても、遠くから見守る事に徹すると約束するぞい。本当に本当じゃ」
「ちょ、ジェラール!」
「は? 一緒に西大陸に渡るぅ?」
「待てベルさん! 誤解だ、誤解だから!」
正座&精神攻撃、続行。俺とジェラールの誤解が解けたのは、それから更に三十分後の事だった。
「―――それじゃあ、西大陸に渡るのは冒険者としての活動が目的で、ルミエストで騒動を起こすつもりは全くないって事ね?」
「「誓って!」」
「……本当に?」
「た、たまに顔を見たいってのは確かにあるけど、学園や生徒に手を出すつもりはないよ。警護はベルに任せたんだ、全面的に信じてる」
「ワシも王と同じく…… たまに、本当にたまにで良いから、顔を見せてほしいぞい……」
「ふーん? ま、妥協案としてはそんなもんで良いでしょう。安心なさい。一度契約したからには、私だって手を抜くつもりはないの。完璧に完遂してあげる。貴方達が不安視するシエロ寮の連中を含めて、ね」
モンブランの最後の一欠けらを頬張りながら、ベルはそう言い切った。
「おお、凄まじい自信じゃ! これは期待できるぞい!」
「それにしたって、やけに自信満々だな…… 何か策があるのか?」
「ああ、まだ教えていなかったわね。私が配属される寮、そのシエロなのよ」
「「え?」」
俺達、硬直。
「この空皿、下げるよー」
「ありがとう。あと、食後の紅茶を頂けるかしら」
「あいよ! 少し待っておくれ」
ベル、俺達が固まっている間に紅茶を追加注文。今更だけど、クレアさんはこの状況に全く動じていない。強い。
「よ、よくシエロ寮に配属されたな。確かにベルの身分は申し分ないが…… あれから俺達もシュトラに聞いたり、色々と寮について調べてみたんだけどさ、シエロ寮は昔のトライセンみたいな人族至上主義を掲げているんじゃなかったか? 寮長のボイルとかいうおっさんが、特にそんな思想を持っていた筈だ」
「ああ、面接試験中に調教してあげたの。今はもう、半分くらいはうちのセバスデルみたいなものね」
「試験中に何やってんの!?」
「面接に決まってるでしょ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「た、頼りになり過ぎて逆に怖いぞい!?」
「なら、もっと頼りになさい」
怒涛のツッコミにも一切怯まず、ベルは優雅なティータイムに入っていた。強い。
「二人の近くで護衛するのも一つの手でしょうけど、生憎と私は護るよりも攻める方が好みなの。そこに害虫の巣窟があるのなら、根本から正してやるのが一番手っ取り早いでしょ? だから、シエロは私が中から落とす」
「落とすって…… いや、ベルに任せると言ったばかりだったな。方法は任せるよ。ジェラールもそれで良いな?」
「う、うむ。ベルよ、クロメルとリオンをよろしく頼む」
「お前だけが頼りなんだ。二人に楽しい学園生活を送らせてやってくれ」
「フッ、まあ任せておきなさい。使徒だった頃の任務に比べれば、この程度児戯に等しいわ」
椅子の上で正座したまま、俺達は深々とベルに頭を下げた。S級冒険者という立場上、馴染の場所であってもそれなりの注目は浴びるものだ。酒場には顔見知りの冒険者などもいたが、もう恥も外聞もない。そんなもの、正座タイム中に全て捨て去った。今はただ誠意をもって、頼みの綱のベルにお願いをするだけである。
「なあ、クレアよ。ケルヴィンとジェラール殿、あんなに頭を下げて、一体何をやらかしたんだ?」
「さぁねぇ、あたしだって知らないよ。ただ、かなり切羽詰まった様子だったねぇ」
「ほーん? ま、わざわざ顔を突っ込むような話でもないか。おい、お前も余計な事は―――」
「つか正面に座ってるあの娘、セラ嬢によく似てないか? 妹さんか? 妹さんなのか!?」
「ぐぬぬ! ケルヴィンめ、またあんな可愛い子と!」
「ぜ、是非お近づきになりたい!」
「……お前らなぁ、またかよ」
たまたま酒場にいたウルドさんとマッチョパーティの面々は、俺よりもベルが気になっている様子だ。うん、止めとけと全力で説得したい。
「リーダーの言う通りだぞ、馬鹿野郎共! あのクソ重い雰囲気の中に突っ込むつもりか? それに、あのケルヴィンとジェラールさんが頭を下げるような相手なんだ。最悪死ぬし、お前らには釣り合わねぇよ」
「うっ、た、確かに……」
「で、でもよぉ……」
「なんといっても、俺が先に目をつけていたんだからなぁ! 空気が重くたって関係ねぇ、先手必勝だ! 行動なくして出会いはねぇ!」
「「ああっ、この卑怯者!」」
―――ゴォォーン!
「ぐ、おおぉ……」
視界の外での出来事だったが、クレアさんの持っていたおぼんが誰かの頭にクリティカルヒットしたような、そんな清々しい音がした。そちらを振り向けないから詳細は分からないけど、恐らく被害者は倒れて気絶してしまっている。強い。
「大事なお客さんに何しようとしてるんだい! アンタ、後でよーく注意しておきなよ!」
「は、はい……」
次いで聞こえてくるは、ズルズルと何かを引き摺る音。ああ、マッチョが運ばれて行く。
「ふ~ん、サービスの行き届いている店じゃない。出て来たケーキやお茶も私好み。ケルヴィン、なかなかセンスがあるわね。そこだけは褒めておいてあげるわ」
「そ、そうか。気に入ってもらえて良かったよ……」