軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第590話 怒りの頂

左腕が宙を舞う。これも計算して斬ってくれたのか、飛んで行ったのは向こう側だ。拾って繋ぎ合わせれば魔力を節約できるだろうが、 奴(やっこ) さんがそれを許してくれないだろう。今は止血するに止める。

『む、一太刀で決着させようと思ったのだがな。流石は王じゃて』

『……よう、ジェラール。まさか 神鎌垓光雨(あれ) を食らって生きているとは思わなかったぞ。お蔭で俺の魔力もあと僅かだ。一体どんな手品を使って生き残ったんだ?』

俺の眼前に立っていたのは、『剣翁』ことジェラールであった。手に持つ魔剣からは俺の血が滴り落ち、それが左腕の仇である事を証明してくれている。いやはや、参ったなぁ。鎧は今にも崩れ落ちる寸前で、光に撃ち抜かれた穴がいくつも見受けられる。されど五体満足、気力十分。片腕をなくした俺よりも、随分とマシな様子だ。

『なぁに、ちょっとした幸運が重なって、後は負けん気のコンビプレイというものじゃよ』

『そうそう、アンジェさんも頑張ったんだよ?』

『うお、アンジェも無事だったのか――― いや、無事ではなさそうだな……』

隠密状態を解除したのであろうアンジェが、ジェラールの背後に姿を現す。しかし、アンジェは血塗れだった。辛うじて片足は無事だが、それ以外に無事なところはない。本当に辛うじて生き長らえている。そんな様子だった。

『エフィルちゃんにリオンちゃんアレックス、それにセラさんは珍しく運が悪かったみたいでね。耐える暇もなくリタイアしちゃった。けど、私とジェラールさんは撃ちどころが急所じゃなかったお蔭で、クロトの最後の抵抗が間に合ったんだ』

『……なるほど、身を削って2人の盾役になったのか』

『そ。攻撃から魔力を可能な限り吸収しながら、私達を覆い隠すように護ってくれたんだ』

『加えて、ワシは斬撃が効かないからのう。比較的無事じゃわい』

『その代わり私はこんな感じだから、もう出血多量でリタイアしちゃうけどね、あはは。って、危ない危ない。またリオンちゃんに怒られちゃう』

『いやいや、アンジェはしっかりと最後の仕事をしたぞい。最後の力を振り絞り、ワシと共に王への奇襲に参加してくれたのじゃからな。致命傷でなくとも、あの深手は実に大きい』

攻撃後、ジェラールの剣が突然現れたように感じたのはその為か。今度はジェラールと共に気配を殺し、攻撃が止むまで潜伏していたと。

『後は任せるといい。騎士としての職務は果たせんかったが、戦いには勝たせてもらうとしよう』

『オッケー。私もいい加減に限界だからさ、もう、きっついからぁ…… 後は、よろ―――』

それ以上の言葉は続かなかった。言い終える前に、アンジェはコレットの秘術によってバルコニーへと運ばれてしまったのだ。戦場での最後の言葉を受け取ったジェラールは、剣を地面に突き刺して静かに佇んでいる。

『……これで真の決戦じゃな、王よ。腕を治療しないところを見るに、魔力の残量は少ないのじゃろう。コレットのように虹を描かれても格好がつかんからの、早々に決めてしまうとしよう』

『そうしてくれるとありがたいな。だけどさ、ジェラール。お前は見た目以上に、むしろ 最初よりも(・・・・・) 調子が良さそうじゃないか? 単にクロメルに見られて得られるもんでもなさそうだ。何がお前をそこまで駆り立てるんだ?』

『………』

ジェラールの見てくれは確かにボロボロ、一見満身創痍にも思えるものだ。だがしかし、実際にジェラールから放たれる戦意・殺気・溢れ出すエナジーは、これまででトップをいく強さとなっている。まだ何か新たな手を? なんて事も一瞬考えたが、それは違うと自分の頭で否定しておいた。だってほら、ジェラールはもっと単純に純粋に強くなれるもの。

『ワシは今、途轍もなく怒っておる。バトルラリーという祝いの会である事を頭では理解しておるが、どうしてもワシの気が収まらんのじゃ。ああ、ワシは憤っておる。巫女の秘術状態とはいえ、リオンやエフィル達、可愛い仮孫らを葬った王の所業…… 絶対に許せんっ!』

『あー…… この展開、ある程度は予想していたけどさ。ちょっと理不尽な怒りじゃないかな、それ?』

『問答無用っ!』

『ええっ……』

俺は招待された側だというのに、勝手に問答を無用にされてしまった。いや、分かってるよ。ジェラールのこの怒りは半分が倒されたリオン達を想ってのもの、そしてもう半分は、戦闘狂いな俺に最高のプレゼントをする為のものだって。伊達に長い付き合いじゃない。俺達のように固い絆で結ばれれば、全てを話さなくとも察せるってもんなのだ。

『王よ、ワシの覚悟は疾うにできておる。此度、ワシは王殺しの騎士となる汚名を被ろうぞ。般若だろうと夜叉であろうと、ワシの怒りをそれに収めるには温過ぎる。覚悟、覚悟、覚悟、覚悟ぉ……!』

半分も、あるかな……? 3割、いや1割でもその気持ちがあれば、俺は嬉しいかなって思います。

『ま、それも忠義の形だわな。ハハッ、こんなハッピーな日があって良いのかねぇ?』

ジェラールの剣を受ける用に、何かしらの得物はほしいかな。ただもうMPがない為、新たに武器を生成するのは迂闊にはできない。クロトもここにはいないから、新たに保管内から出してもらうのも不可。って事で、序盤にクロトが放出していた試作品を拝借させてもらうとしよう。幸い、壊れていないのが大量に落ちてる。

今にも飛び出して来そうなジェラールに注意を払いながら、俺の手に会う武器を見繕う。片手しかないから、そもそも使える武器は限られるが…… うん、リオンに倣って動きやすい剣にしておこうかな。斬撃が効かないとなれば、防御と回避に秀でたこいつが――― あ、また怒りのボルテージが上昇したような気がする。武器もリオンと被っちゃ駄目なんかい!?

『フッ、王よ…… ワシの神経を逆撫でするのが上手いのう!』

『何だかんだで問答してくれてるよな、お前』

『……ワシの怒りを知れぇい!』

今の間は何だったのか。とは言え、ジェラールの勇猛さは今も増し続けている。一撃でも攻撃を受けてしまえば、コレットの秘術脱出装置が作動してしまう恐れが大いにあり。一刀一刀を確実に受け流し、省エネモードの白魔法を篭めた蹴り技でカウンター。万が一に武器が破壊されたら即時調達。これを繰り返し繰り返し、ジェラールのHPを削ぎ落す。一挙手一投足の1つでも間違えば、それだけで終わってしまうかもしれない。決して派手ではなく、地道な戦いだ。だがそれ以上にこのスリルが俺の興奮を誘い、もっと戦っていたいと意識を研ぎ澄ましてくれる。集中力の奥へ、更に奥へ。いつしか俺達は無言となり、剣戟だけが木霊する異様な戦いへと変化していた。

「パパ、今までで一番良い笑顔かもしれません」

「……バトルラリー、企画して正解でしたね」

「うん、ケルヴィンが楽しそうで何より!」

「ジェラじいも凄く楽しそうだよね。さっきまで怒ってた風だったのに」

「それはほら、ジェラールさんも男の子だからね。アンジェさんは知ってるんだ~」

耳が良過ぎる為に無意識に外の声を拾ってしまう。無粋だし、聞かなかった事にしておこう。今はただ、この瞬間を堪能する。ただそれだけだ。