作品タイトル不明
第581話 家族ぐるみ
―――デラミス・北西海岸沿い
ガウンを後にした俺とクロメルは、4大国ラストの舞台となるデラミスを目指す。いや、これは語弊があるな。目指し、もう到着した。バトルラリー第6のチェックポイントは、デラミス領の北西に位置する海岸だ。とは言え、トラージの観光地としての砂浜や穏やかな海ではなく、こちらは荒波が立ちゴツゴツとした岩肌の広がる殺風景な場所である。ドラマのラストシーンに相応しいであろう、所謂崖っぷちだ。近くにそこそこなダンジョンがあるのもあって、普通はまず立ち寄る場所ではないかな。で、もちろんここにも対戦相手がいる訳なんだが。
「流石はケルヴィンの兄貴だぜ! プリティアちゃんのいる『急造S級冒険者パーティ』を破っちまうなんてよ!」
「いや、パーティつってもバトルロイヤル形式だったから、その名称はおかしいと思うぞ? どっちかって言うと、『S級冒険者の大乱闘』だった」
俺を出迎えてくれたのは、竜形態のダハクだった。俺とプリティアの戦い(戦ってない)が気になっているのか、戦いの舞台になるらしい背の高い大岩の上に俺を立たせて以降、さっきから頻りにその話題を振ってきている。どうせ危ない展開になるのは分かり切っているので、クロメルは既に退避済みだ。
「そこまで気になるんなら、チェックポイント調整の時にお前もガウンに振ってもらえば良かったんじゃないか?」
「あー、できればそれが良かったんスけどねー。できない理由があるんスよー」
「できない理由? それって、ここでのバトルが関係しているとか?」
「そうッス! じゃ、皆を呼ぶッスね。おーい、ケルヴィンの兄貴が到着したぜー!」
ダハクがヒラリと飛び立ち、崖の下に向かってそう叫んだ。ダハク1人だとは元々思っていなかったが、何でそんな場所にいるんだよと問いたい。この大岩の上からでも、荒波の豪快な音が聞こえてきているんですよ? 誰がそこにいるのかは知らないけど、超ダイナミックな水浴びでもしてるのか?
「………」
岸壁を最初に這い上がって来たのはトラージ在中の水竜王、藤原虎次郎だった。上がって来た瞬間に俺と目が合い、暫く2人で見つめ合ってしまう。 ……頼む、黙ってないで何か言ってくれ。
「はいはい、今行くから大人しく待ってなって馬鹿息子! サラフィアも気持ち良いからって、いつまでも入ってるんじゃないよ! 祭りの時間だ!」
「あら、もうそんな時間? この天然ジャグジーが心地好くて、ついつい長いしちゃったわ」
え、天然ジャグジー? 泡風呂の事、だよな……? この声は確かダハクのかーちゃん、それにサラフィアの恐るべきママさんコンビだ。うーん、発想が壮大過ぎる。
「おい、ダハク。竜の姿だからって、ジャグジーはちょっとないと思うんだけど……」
「いやー、適度な衝撃がツボを刺激するらしいッスよ。あ、でも俺は入ってないッス! 土に海水が染み込んだら大惨事ッスから!」
「ああ、うん……」
ダハクの判断基準も普通とかなり違うような気が。って、今んとこ出てくるのが竜王ばっかだぞ!? 土のダハク、水の虎次郎、闇のかーちゃん、氷のサラフィア――― これはまさか!
「主、お疲れ。糖分足りてる?」
「おう、漸く来たかっ!? 遅いぜ、ケルヴィンの兄貴! 暇過ぎて温泉掘ろうかと思ってたところだぜ! 水風呂も良いが、やっぱ熱湯が一番だよな!」
「ケルヴィーン、元気ぃー!? 僕だよ、君の親友のフロムさんだよ! 今日はボッコボコにしてやろう! だって死ぬには良い日だもの!」
「ケルヴィンってリーちゃんのにーちゃんの、あの? おー、結構イケメンじゃん。決戦の時は雷ちゃんと直接話す機会なかったしー、ここでの活躍次第ではキープかなー」
……何だ、この色物のオンパレードは。竜王が次々と押し寄せて来やがる。
「どうしたんスか、兄貴?」
「ああ、やっぱり現実から目を背けるのはいけない事だよな。俺、頑張るよ」
「?」
ダハクがガウンに赴けなかった理由ってのは、これか。竜王全員でお出迎えとは、何とも夢のある演出だよ。
今出て来たのは光のムドファラク、火のボガ、風のフロム、雷の――― あー、ええっと、雷ちゃんで良いのか? そういや雷竜王の名前はまだ聞いてなかったっけ。見た目竜なのに話し方と仕草がギャルっぽい辺り、やっぱり普通の竜ではないんだろう。フロムは以前と変わらずハイテンションである。
「いやはや、最大級のインパクトだったよ。竜王が全員登場するとは、まさに壮観の一言だな。それで、ここではどんな形式の戦いになるんだ? ここにいる全員と戦えるご褒美だったら嬉しいけど、たぶんそうじゃないんだろ?」
これまでの戦いは、何だかんだで俺に勝ち筋を残していた試練ばかりだった。全竜王と対峙する戦いってのは確かにご褒美めいているけど、流石にそんな雑な設定にはしていないだろう。
「よくぞ聞いてくれた。主はただ、そこに立っていれば良いだけ。簡単簡単」
「ここに立っていれば良いだけ?」
ムドがよく分からない事を言っている。説明が説明になってない。
「すんません兄貴、俺が補足するッス。俺ら『竜王家族ぐるみ』で兄貴の相手をしようって話にまずなったんスけど、これがなかなか意見がまとまらなくて」
竜王、家族ぐるみ…… まあネーミングセンスは兎も角として、農家系ヤンキーにギャル、甘党、暴れん坊、人見知り、かーちゃん×2、常時フィーバーという面子で意見をまとめるとか、無謀な話でしかないもんな。方向性が四方八方に飛んでしまうのが目に見えてる。
「で、あんまり凝ったもんは無理だし、それならもっと単純明快な方法で決めようって事になったんス! 後半になったらこいつらも意見するのに飽きやがったみてぇで、何と満場一致でこの方法に決定しやした!」
飽きたんかい。
「ふんふん。それで、その方法ってのは?」
「 息吹(ブレス) の一斉放射ッス!」
「……ごめん、よく聞こえなかった。もう一回お願い」
「 息吹(ブレス) の一斉放射ッス! 兄貴がこれを受け止めて、メル姐さんの加護を発動させる事なく防ぎ切ったらクリア! 見事チェックポイント通過ッスよ!」
……あのさ、竜王の 息吹(ブレス) 一斉放射ってさ、神の方舟にぶっ放したアレだよね? 個人にぶっ放して良い代物じゃないアレだよね?
「だから言った。主はそこに黙って立っていれば良い。実に簡単」
「ジェラールの旦那が忠誠を捧げる兄貴の事だ。今更これくらい何て事はねぇよな! 俺は最大威力でいかせてもらうぜ!」
「フッ、馬鹿息子にしては分かりやすい説明だったじゃないかい。かーちゃんも期待に応えないとねぇ」
「アズちゃんがいれば、もっと強力な 息吹(ブレス) を吐けたんだけどなぁ」
「………」
「もー、また水ちゃん黙りこくちゃってー。ほらほら、風ちゃんみたいにブチアゲないとー」
「ヒャッハー! ぶっ放ーす!」
竜王は全員やる気もやる気、もう殺る気なんじゃないかと思うくらいに気合いが入っている。 息吹(ブレス) の溜めに入り、それぞれの口に各属性の究極系が織り成されていくのであった。
「お、おい―――」
「じゃ、兄貴いくッスよー! 俺達の想い、受け止めてほしいッス!」
どうもこのバトルラリーは、俺に物言いをつけさせてくれる時間を与えてはくれないようだ。