軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第539話 黒流星

―――戦艦エルピス

リオンは舞桜の影に触れ、それを引きずり出した。一体何を? 舞桜の影を、である。掴み取った影がズルズルとリオンの腕に、更には全身に這いずるようにして纏わり付き、アクラマの刀身と同様に黒く黒く、漆黒へと染まっていく。朗らかな雰囲気に包まれていたリオン自身も、対人戦の際に被る容赦のない顔となって一変していた。

「それは一体、何だい?」

「僕とアレックスの奥の手だよ。プリティアちゃん風に言うと、 最終形態(ファイナルエディション) かな?」

舞桜は改めてリオンを注視する。纏う影、変貌した雰囲気、油断できない面構え、そして何よりも、その身に秘める強さが変わっている事が、直ぐに理解できた。理由は一切不明だが、今となってはゴルディアーナ以上に厄介な相手である。これまで積み重ねてきた経験と幾度も死線を潜らせた本能が、そう騒いで止まらない。舞桜は最も警戒すべき人物をリオンへシフト。瞬きの間に下されたこの判断は間違っておらず、実に的を射た判断といえるものだった。

―――ただ1つミスがあったとすれば、舞桜がリオンとゴルディアーナの直線上に立ってしまった事。そしてその上で、僅かでも変貌したリオンに驚き、注視し、その力量を測ろうとしてしまった事だろう。たとえ瞬きの間の出来事であったとしても、それは詰まりゴルディアーナを意識の外に追いやる事を意味する。

「 愛の抱擁(がっちりホールド) ぉ!」

「なあっ!?」

舞桜の注意がリオンに向いたその最中、彼の両端からピンクの壁が押し寄せた。完全なる隙を突いた、ゴルディアーナの奇襲である。巨大化した両腕を猛スピードで迫らせ、しかしながら優しく、可憐な花を扱うが如く包み込む。鎧越しでも伝わるゴルディアーナの温かな体温は、優しさがエネルギーとなって伝わったものだろうか? 原理は不明だが、体から力が抜けてしまう不思議な感覚に舞桜は陥ってしまう。

「うおおぉぉーーー!」

あと少しでも気を抜けば、数秒で夢の中に飛び込んでしまいそうな微睡み。それを払拭する為に、舞桜は力の限り声を張り上げ、叫ぶ。心なしか悲鳴のようにも聞こえるが、真相は彼にしか分からない。

(剣で切り裂いたって無駄よん。今の私の治癒力、一番最初に直に体験した貴方がよく知っている筈だものねぇ)

そう、いくら神の力、神のステータスを率いてゴルディアーナを傷付けようとも、その肉体は瞬時に修復され、元通りになってしまう。舞桜を拘束する 愛の抱擁(がっちりホールド) も例外ではなく、いくら舞桜が暴れたところで逃れられないのだ。

「クッ! だけど、君の力では俺は―――」

「そう、だから貴方を倒すのは私の役目じゃなぁい。彼女の役目よん」

舞桜を抱きとめるゴルディアーナが、静かにその場に留まる。大いなるその力が少しでも当たりやすいように、その身ごとターゲットとなる捨て身の戦術。

「やはり君か、妹さんっ!」

リオンが纏うは『這い寄るもの』の効果で影化したアレックス、そして『模擬取るもの』にて舞桜の影から彼の『絶対共鳴』を模倣し、その身に宿していた。 影狼(かげろう) モードとなったリオンには、そのまま絶対共鳴の恩恵が与えられる。クロメルのステータスが舞桜に共鳴されるのであれば、それは詰まりリオンにも共鳴されるという事。今のリオンは、クロメルの力――― 神に匹敵する力を手に入れているのだ。

「最強の盾があるのなら、最強の矛で攻撃すれば良い。最初からそういう計画だったんだ。ねえ、舞桜さん。いくら舞桜さんでも、これなら殺せるよね?」

「―――っ!」

そう、殺せる。いくらクロメルのステータスを基にした力があるとはいえ、その力をもろに食らわせられれば死んでしまう。だがしかし、舞桜はまだ諦めていなかった。

(途轍もない覚悟だ、よく考えられた策だ。圧倒的な不利な状況からここまで覆されるなんて、正直思いもしなかった。俺は心から君達を尊敬するよ。だけどね、それはそう簡単に扱える代物じゃない。たとえ俺がこの場を動けなくたって、照準を合わせて攻撃するなんて至難の業だ。それに、急所に当たりでもしなければ、一発では死なない……!)

舞桜は思案する。絶対共鳴はクロメルのステータスを平均値に割り振り、各項目に当て嵌めるスキル。要は筋力も耐久も魔力も、全てが同じ値になる。だからこそ、余程当たり所が悪くない限りは、リオンの攻撃が仮に当たったとしても、一撃でHPが0になる事はないと踏んでいるのだ。制御できない力など当たる筈がないし、仮に掠ったとしても生き残る。逆にその攻撃を利用して、ゴルディアーナの拘束を解除しようとも考えていた。

「 爆攻火(ヒートファーニス) !」

「 道連れ雪人形(メタノイアドール) 」

しかし、その考えは即座に打ち破られる。エマがリオンに施したのは、エフィルも愛用するS級赤魔法【 爆攻火(ヒートファーニス) 】。次の攻撃の際、その威力を2倍にまで引き上げる補助魔法だ。これにより、リオンの攻撃は掠るだけで大打撃を与える神殺しの領域に到達する。

残るは命中するかどうかの問題になるが、これも大幅に達成できる可能性が高まった。その理由はシルヴィアが唱えたS級青魔法【 道連れ雪人形(メタノイアドール) 】にある。この魔法を詠唱する事で、舞桜の体が表面上だけ雪に覆われていった。雪は薄く、振り払えば取れてしまう程度のものだが、どこからか現れ次々と積もっていく為に、ゴルディアーナの治癒力と同様、いくら抵抗したところでキリがない。ましてや今は、拘束されて身動きも自由にできない状態だ。ただ、ここで舞桜が変に思ったのが、シルヴィアの仲間である筈のゴルディアーナにまで、この雪が覆い被さっていた事だった。雪は舞桜を捕らえたゴルディアーナもろとも、逞しい女神雪像を象ってしまう。

「ん、これで的は大きくなった。 道連れ雪人形(メタノイアドール) は雪にダメージを伝染させる。これで雪像のどこに攻撃を当てても、敵にダメージが通るよ」

道連れ雪人形(メタノイアドール) はこの時の為にシルヴィアが作り上げた、彼女のオリジナル魔法。移動され続ければ効果が適用され辛いなど、使用条件はかなり限られる。だが、巨大化したゴルディアーナが舞桜を捕まえた今においては、絶好の好機に他ならない。力の融通が利かないリオンとの相性もバッチリだった。

「彼――― 彼女ごと俺を攻撃するつもりか……!」

「ご名答。ちゃんと言い直した辺りぃ、とってもポイント高いわねぇ」

舞桜がもがく。ゴルディアーナが包み込む。外れない絶望。

「リオン君は得物だけ握っておきたまえ! 間違って私が小突かれたら絶対死ねるし! 来たる時に思いっ切り振る、それだけで良いように私が調整するからさっ!」

「了解!」

「おっし次は君の出番だ、えっちゃん! 」

「ええ、見せてやりますよ! ボガ流ジェット噴射、その名も 噴焔(ペルセ) !」

セルジュがリオンを脇に抱え、更にエマがセルジュと背合わせに 太陽の鉄屑(ソルフォルム) を突き出すように構える。そして、エマの大剣が炎を噴いた。ロケットの如く一気に飛び上がる3人。ある程度の勢いを保ったところで、先にエマが切り離れて離脱。リオンを抱えたセルジュが女神雪像の真上へと到達する。

「捉えた! 最後に良いとこ見せ付けたれ!」

渾身の投球で、リオンをぶん投げるセルジュ。空より舞い落ちる黒き流星のように、リオンは一直線に舞桜へと迫る。何の偶然なのか、その姿は聖剣の力を解放した舞桜の 綺羅星(コズミキコニス) に似ていた。