軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第536話 暴風暴氷暴雷

―――戦艦エルピス

拳と大剣に挟まれた鎧が軋む。前方のピンクの一撃、後方の灼熱の一撃。その双方が通常の尺度では測る事が不可能、馬鹿馬鹿しいほどに強力なものだ。攻撃を与える感触は確かなもので、タイミングを合わせた事で互いの威力も高まっている。

―――ただ、それ以上に鎧は強固なものだった。前後同時に衝突され、鎧としての形を保っている事自体がまず異常。踏み込んで攻撃を浸透させようとするほどに、この程度ではそれができない事を悟ってしまう。事実、舞桜の身を護る鎧にはちょっとした傷もついておらず、僅かに陥没する様子も見られない。

(この熱度で無傷って、どんな素材なんですかそれ!)

(この状態の私の拳を受け止めてくれた、ですってぇ!? 何て深ぁ~い愛、なのかしらん!)

ゴルディアーナの鋼鉄の肉体に傷を付けた大剣型ウィルがそうであったように、この鎧型ウィルも相当侮れない。魔王の持つ『天魔波旬』のような小難しい能力がある訳でもなく、不可思議な力が働いている訳でもない。単純に基礎値が高い、ただそれだけの事なのだ。そして鎧内部に細剣を突き立てたシルヴィアも、同様の事に思考を巡らせていた。

(肉体には届いている筈だけど、貫通してない。鎧だけじゃなく、彼自身も凄まじく頑丈)

全身鎧の隙間を突いた繊細かつ強烈な一撃。されど細剣の剣先は肌の表面で止まってしまい、それ以上突き進む事を拒まれている。こちらも何か特別なスキルや魔法は使ってはいない。クロメルより渡されたステータスの数字が、それだけ脅威となっているだけの話だった。

「 狂乱の氷息吹(アイアスリートブレス) 」

直接攻撃が通用しないのならば、別の手を執行するまで。シルヴィアが唱えた魔法は、細剣より鋼鉄の氷が入り混じる暴風を舞桜の鎧内部に呼び寄せ、歪な音を立て続けに響かせていた。鎧の外側の守りが堅いのならば、内部もまた同じように堅牢。その性質を利用して、シルヴィアは鎧の中で疑似的なミキサーを作り出したのだ。これでは舞桜の肉体を護る役目を担っていた鎧も、シルヴィアの魔法の攻撃性を高める道具のようなもの。当然、その内部環境は悲惨の一言である。

「うわー、流石の私もこれを直接受けたら、ただじゃ済まないわー」

「いやん! お肌が荒れちゃうわん!」

「ん、トラージで食べたかき氷からヒントを得た」

シルヴィア命名、かき氷アタック。名前よりもかなり残酷なアタックだ。

「皆ー! 次のやつ、いっくよー!」

「おっと、退避退避っ!」

頭上高くに飛び上がって、雷鳴を轟かせているリオンの姿を確認。拳や剣を引いてプリティア、セルジュ、シルヴィア、エマの4名は素早く後方へと飛び移った。

「今なら良い感じに水っ気を含んでるから、チャンス」

「ありがとっ、シルヴィー! 轟雷落土(フューリーボルト) !」

リオンが掲げたアクラマの剣先に集めていたのは、電撃が塊となって巨大な球体となったものだった。かつて狼の神柱、神狼ガロンゾルブが放っていた電撃にも似ているが、その規模とサイズは桁違いのものとなっている。かと思えば次の瞬間、その球体が瞬く間に手の平サイズにまでに収縮。リオンが剣を振り下ろすのと同時に、稲妻となって走り出した。

「―――っ!」

落下先はもちろん、現在の敵に認定されている舞桜だ。セルジュによって蹴り上げられた聖剣ウィルが避雷針となる形で、一寸の狂いもなく落雷するリオンのS級赤魔法【 轟雷落土(フューリーボルト) 】。対象に命中したこの魔法は暫く肉体に留まり続け、 間断(かんだん) なく大ダメージを与える。常人でれば一瞬で消し炭に、如何に優れた耐久自慢であろうとも、 一度(ひとたび) 触れてしまえば気絶は免れない。更には俊敏性の低下、麻痺効果までを付与し、敵の行動を幾重にも封じてしまう恐ろしき効果まで秘めているのだ。

「まだまだぁー!」

雷竜王の加護により、この 轟雷落土(フューリーボルト) は通常の倍以上の威力、持続力に強化されている。大剣を伝って鎧にまで電撃がバリバリと眩く発光し、雷鳴を轟かせ続けるその様は直視するのも辛いレベルだ。非道なるかき氷アタックからの光ビカビカのこのコンボは、正に凶悪の一言であった。

(それでも、選定者さんを倒すには全然足りない気がする……!)

不意にリオンが頭に過らせたこの考えは、他の者達にも通ずる共通の答えだった。この程度ではまだ、神の力を得た舞桜は倒せない。更なる一押しが必要である、と。

「―――いきます」

「おーし、おじさん特等席で見物しちゃうぞー」

最後の一押しを担ったのは刹那、居合の体勢で舞桜の前に構える彼女だった。眼前の舞桜は未だリオンの電撃を受けている最中、その一太刀に懸けて最速を誇る剣が当たらない道理など、そこにはない。彼女の刀、 涅槃寂静(ねはんじゃくじょう) がその特性を加速させ、生還者ニトとの修練の日々が更なる次元へと技量を押し上げる。刹那の『斬鉄権』の前には、如何なる肉体も公平な結果に終わるのだ。

「うん、君のその力だけは怖いからね。素直に避けさせてもらうよ」

「っ!?」

リオンの攻撃はまだその効果を終わらせていない。刹那の抜刀も、相手がセルジュであろうと捉えられる速度で放たれた。しかし、しかしながらその上で、舞桜は紙一重のところで居合の刀を躱し、刹那から遠ざかってみせた。

「今の俺がどんな耐久値を誇っていたとしても、君の刀はそれら一切を凌駕して、容易く両断してみせる。それだけが怖かった。そして今、他の人達の攻撃なら何とか耐えられるし、我慢できるレベルだという事も分かったよ。守護者でもなく、S級冒険者でもなく、ケルヴィンさんの妹さんでもなく、やっぱり君を一番に警戒しよう、今世の勇者さん」

舞桜がそう言い切ると、漸くリオンの 轟雷落土(フューリーボルト) が消え去った。残った鎧には焼け焦げた痕はなく、その中身が焦げるような悪臭もしていない。これだけの攻撃を受けて尚、舞桜はほぼダメージを負っていない。それが現段階における舞桜とその他大勢の性能差。呆れるほどに、一転して笑いがこみ上げてくるほどの大差だった。

「―――だけど、一矢は報いたね」

「何?」

ガラリと、舞桜の兜の一部が崩れ落ちる。頬には深手ではないものの一線の赤い血が滴り、傷を負った事による痛みが遅れてやって来ていた。

「……ちゃんと避けたつもり、だったんだけどな?」

「選定者、悪いけどただ性能が高いだけじゃ、おじさんが鍛えた刹那ちゃんを出し抜く事はできないよ? 今までどんなに才能のあった弟子も会得に至らなかった、虎狼流の奥義とか裏奥義とか、その諸々をこの刹那ちゃんに習得させちゃったもんねぇ。ただ速くて何でも斬れるだけの剣じゃないよ、今の彼女は」

「ニト師匠、あんまりネタバレしないでくださいよ。それに、裏奥義とかそんなものはなかったでしょうが」

「いーじゃーん。刀なおじさんを使ってくれないのなら、せめて格好だけでもつけさせてよー」

お喋りな刀は今日も絶好調のようだ。

「あらやだん。刹那ちゃんに負けていられないわねぇ。私も出しちゃおうかしら、 最終形態(ファイナルエディション) 」

「クロメル戦用に出し惜しみをしている場合でもなさそうだもんね。プリティアちゃん、存分になっちゃいなよ。 女神(ラスボス) にさ!」

刹那とプリティアが注目を集める中、リオンはそっとその場にしゃがみ込み、自身の影に手を伸ばしていた。