軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第523話 化かし合い

―――戦艦エルピス

「 魔人蒼闘諍(スクリミッジディビリテイト) !」

ベルの蒼き魔力が脚甲に集中し、その隙間へと入り込んでいく。膨れ上がる膨大な魔力に脚甲は変形し、華麗なるベルの姿が悪魔として正しき形へと変貌を遂げた。偽装の髪留めで隠していた角や翼、尾に魔力の鎧が纏い、鋭利かつ凶悪な脚部が莫大な暴風を撒き散らしている。断罪すべきはかつての仲間。だがそれでも、今の彼女に迷いはない。

「首、補足っ!」

片猫耳の黒ローブを被ったアンジェは本職である暗殺者のスイッチを入れて、すっかりと理性のリミッターを外していた。今の彼女が狙うはリオルドの首だけであり、それを手にする為ならば地の果てまでも追うであろう、執拗な影の使いと化している。黒衣や袖の下では隠し持った暗器の数々が、好みの首を欲してよだれを垂らしている事だろう。

「やれやれ、騒がしいものだ。そら、ベル君。彼女からの贈り物らしいぞ」

炎に焼かれながらもエストリアが放った血槍は、確かにリオルドの心臓部へと一直線に向かっていた。しかし、リオルドが血槍を一睨みする事で状況が一変する。強き眼差しに呼応するが如く、リオルドの真正面に空間の歪みが出現したのだ。空間の歪みは次にリオルドが凝視した、ベルの近くにも出現。正面の歪みが血槍を飲み込み、背後に回り込んでいたベルの眼前にそれを吐き出した。

「―――っ!」

エストリアの剛腕によって放たれた血槍の威力は、槍自体が溶けながらも相当なものだ。血槍の特性なのか、ベルの目にはこの槍全体が脈を打っているように見えた。不意打ちの際とは明らかに違う様子だ。仲間ならば事前に手の内を共有しておけという話なのだが、ベルとエストリアが犬猿の仲なのは周知の事実。そんな事は不可能である。

「ふっ!」

特性不明、見た目的にも受けるべきではないと判断したベルは、蒼き風の斬撃、 蒼色喰斬(ディビリテイトスラッシュ) にてこれを迎撃。色を薄めつつこの空間の彼方へと、その血槍を吹き飛ばした。

「ああっ! ちょっと、何やってんのよぉ!」

「迂闊にポイポイ投げるのが悪いんでしょ」

「捨身だったのよぉ! す・て・みぃ!」

「アンタは再生速度も自慢だったでしょうが」

協調性ゼロ。そうレッテルを貼られても仕方がないであろう口論は、戦闘の最中においても止まる兆しを見せない。

「やれやれ、思っていた以上に戦いやすそうだな」

「そうですか?」

―――ジャラリ。

リオルドが左足に違和感と、鎖がすれる音を感じ取る。視線を落とすと、違和感のあった場所には先端に分銅が取り付けられた黒塗りの鎖が巻き付いていた。

「ほう……! 確かにそれならば、巻き付く寸前まで透過も可能か。確か、トラージに存在する特殊武器だったかな?」

「流石はギルド長、お詳しいですね。足 首(・) 、頂きますっ!」

アンジェが扱ったものは鎖鎌、ケルヴィンに勧められて新たに使うようになった暗器である。通常、アンジェが『遮断不可』の状態でナイフやクナイを投擲したとしても、それらはアンジェの手から離れた瞬間に効果の対象外となる。序盤、アンジェの放った攻撃の全てが、リオルドにキャッチされたのはこの為だ。

だが、この鎖鎌であれば分銅を投擲して鎖が敵に向かったとしても、鎌はアンジェの手の中にある。その為、アンジェの任意のタイミングで透過のオンオフが可能。光さえも透過してしまえば、リオルドの瞳に映る事もないのだ。

「足首とは、また守備範囲が広くなったものだね」

「いえいえ、メインはあくまでその首ですよ? ですけど、そこはギルド長の目に近いので、ギリギリのタイミングでも躱されちゃうかなと思いまして。私、スイッチを入れた後でも妥協する事を覚えたんです!」

「そ、そうかい。良い着眼点だと思うよ。それに立ち位置も悪くない」

真上から見下ろすとアンジェ、ベル、エストリアの3人はリオルドを戦場の中心に据え、その外枠で三角を描く形で位置取りを行っていた。リオルドを相手にする際の最大の脅威は、言うまでもなく彼の『神眼』。この陣形を組む事で、最低でも1人は視界に入らないようになる。口喧嘩仲違いはしていても、最低限やるべき事はやっていたようだ。

「あら、まだまだ余裕なのね。言っとくけど、その鎖はケルヴィンの特注品よ。そう簡単には切れないわ」

「ふふっ、ベル君は随分とケルヴィン君を信頼するようになったんだね。姉への愛着心が、そちらにも転じたのかな?」

「……今日だけでストレスが爆発しそう」

「おじさまぁ、そんな貧相な娘より、私の相手をしないさいなぁ!」

「あはっ! あんまり他の2人にかまけていると、私が首を貰っちゃうけどねっ!」

解き放たれる死のトライアングル、その角より出でるは3人の連続攻撃だった。体と片腕を使って鎖を固定し、空いた片手で様々な暗器を投擲するアンジェ。脚甲より吹かした風で刃を作り、多彩な脚技と共に放ち出すベル。エストリアはどこからともなく再び血槍を取り出し、ベルの警告を無視するように力一杯に投げ飛ばしていた。

(なるほどね。いずれかの攻撃が防がれようとも、どれか1つでも当たれば良いという物量作戦。私の手の内をよく知る、アンジェ君の差し金かな?)

ギリギリと引き付けられる左足に力を込めながら、リオルドが長剣を床に突き刺す。そして迫る嵐のような攻撃に対し、両手を広げてみせた。

「―――だが、これを見るのは初めてだろう?」

「げっ……!」

「はっ!?」

手の平を向けられたアンジェとエストリアが、驚きの声を漏らす。そこに、ギョロリとした目が見開かれていたのだ。手の平に目があるなんて、例外的な種族でもない限りは悪魔や吸血鬼でさえもあり得ない。ましてや、人間にはある筈がないものだ。

「神眼は全ての魔眼の類を使用可能とする。ならば、このような使い方があったとしても、何ら不思議ではないだろう? 私は魔眼と魔眼を掛け合わせ、複合魔眼を扱う事ができるのだから」

リオルドが言葉を綴るその最中にも、3人の攻撃は魔眼に吸い込まれて無効化されている。空間を操作する何らかの能力であると、3人は瞬時に理解した。しかしいくら理解しようとも、今からそれらを止める事は叶わない。

「アンジェ君では透過されてしまうし、エストリア君は不死に近い再生能力を有していたね。やはり、これらは君に贈る事としよう。ベル君、受取りたまえ」

恐らくは、手の平に顕現した魔眼と同様のものだろう。リオルドの 額(ひたい) に第5の目が開眼し、ギロリとベルを睨み付ける。最初に睨み付けられたお返しという訳ではないだろうが、その目は吸収した全ての攻撃を吐き出した。向かう先はもちろんベルだ。

「 蒼風反護壁(ディセクトカウンター) !」

合算された攻撃が、ベルが生み出した障壁と衝突する。障壁がゴムまりの如く加わる威力を受け流すと、付加された力は方向を斜めに変えて退けられ、この空間に設置されていた巨大な機械の方へと飛んで行き、激突。機械全てが破壊されるまでには至らなかったが、被害は甚大だ。

「おっと、あまり壊さないでほしいものだね。いくらクロメルの魔力の支配下にあるとはいえ、それらは船の心臓部だ。直すのも一苦労なのだよ」

「ッチ! 私よりも悪魔らしい風貌になったじゃない」

「う、うーん、流石に守備範囲外、かしらぁ?」

「……ギルド長、その姿は?」

いつの間にやら炎の魔眼を使ったのか、リオルドの衣服の上半分が燃え尽き、彼の上半身が露わとなっていた。

「これより、私の全てを以ってお相手しよう。だから君達が持つ全ての力を、技を、能力を遠慮なく使ってほしい。尤も、悉くが解析される事となるがね」

手の平、 額(ひたい) の魔眼どころの話ではない。露呈された彼の体には無数の目が見開かれており、その全てが異なる雰囲気を醸し出していた。