作品タイトル不明
第516話 分断
―――中央海域
「む、ぐっ……!」
良い感じにぶっ飛んで行ったトリスタンが、空中にて召喚術を発動させた。魔法陣から現れたのは紫色の大怪鳥。ええと、ディマイズギリモット、だったかな? たぶんそれだ。そいつの背に着地したトリスタンは俺を見上げ、血を吐き、頬を腫れ上がらせながら気持ち悪い笑顔を浮かべている。
「ふ、ふふっ……! 漸く主役のお出ましですか。ケルヴィン殿、いつ来るものかと心待ちにしておりましたよ?」
「残念だけど、心待ちにしていた相手はお前じゃないんだ。大事な用事に向かう道すがら、金を貸したまま消えたクソ野郎を見つけた程度の認識だよ。で、貸した金も今回収した」
「ほう? 確かに貴方の拳は抜群に効きましたが、私はまだこの通り。戦闘不能には程遠いですよ?」
「分からない奴だな。だから言ってるだろ。俺はこれから大事な用事があるんだって。それにだ―――」
俺はおもむろに、トリスタンの背後を指差したやった。俺からトリスタンに送る、最大限の親切ってやつだ。
「―――てめぇの相手は 俺ら(・・) だろうが!」
「っ! アズグラッド……!」
サラフィアと共に突撃したアズグラッドが、怪鳥ごとトリスタンに猛攻を仕掛ける。これで奴は更に彼方へと追いやられる事に。俺がジルドラゴンからトリスタンを殴り飛ばした事で、あいつは強固なシールドの外へと出てしまったからな。要は分断に成功した訳だ。
『エフィル、ジェラール、俺の気晴らしに付き合ってくれてサンキューな』
『いえ、当然の事です!』
『うむ。トリスタンを出し抜いて、ワシも少しスッキリしたぞい! まあ馬鹿正直な攻撃とはいえ、結構本気でやって防御壁を破れんかったのは、些かショックじゃったけど……』
トリスタンが召喚術を使って、あのジルドラゴンを手元に戻す可能性もなくはなかったが、今さっきそれが不可能である事が判明した。ご自慢の配下だけあって、消費するMPも半端ないのだ。召喚を解除するのは容易いが、ジルドラゴンの召喚に費やした魔力量は膨大。それは専用の固有スキルがあってもフォローし切れないほどであったらしい。最大MPの減少に伴って減った魔力を回復させる暇がなけりゃ、そう都合良くジルドラゴンは運用できないという事だ。
『それじゃ、ジルドラゴンの相手は任せたぞ。でもどっちかといえば、トリスタンよりもこいつの方が名残惜しいんだよなぁ。ああ、もったいない。もっと言えば、1等の当たりくじを見す見す見逃すくらいもったいない……』
それも、億兆クラスの当たりくじ。
『また王の悪い癖が…… ほれ、はよう行かんかい! 待ち人がおるんじゃろ!』
『ご主人様、ここは私達にお任せください。きっとクロメル様なら、ご主人様に後悔はさせませんから!』
『……それもそうだな。改めて、ここは任せた!』
雑念を断ち切り、エルピスに向けて飛翔! っと、んん? 今、赤い影がすれ違ったような……?
「エフィル、ジェラール! 私達も助太刀するわ!」
「フッ、パパも頑張っちゃうぞ!」
なぜか、予定外な悪魔な方々がジルドラゴン戦に参戦していた。ん、んん? セラさん、そんな作戦を俺は聞いてないんですけど……!?
『ケルヴィン! トリスタンの胡散臭さで誤魔化してるようだけど、この竜、思っていた以上にやるわ! だから、私と父上も先にこっちのフォローに入る! これ、全部私の勘ね!』
『セラの勘なら仕方ないな! よし、分かった!』
これ以上ないほどに説得されてしまった。俺の中でプリティアちゃんと双璧を成す信頼ワード、セラの勘。これを言われたら反論できない。
『危なくなったら呼びなさい! 再召喚されてそっちに行くから!』
『その前に、そいつを倒してくれよ? 後で感想を聞きたいからな!』
『ふふん! 任せておきなさい!』
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「うおおお!」
「しつこいですねぇ!」
アズグラッドが突刺す焔槍を、大怪鳥の鉤爪で受け止めさせるトリスタン。如何にサラフィアが全力 息吹(ブレス) の後で疲弊しているといっても、その威力は馬鹿にできない威力を誇っていた。力と加速による単純明快な突貫攻撃、トリスタンはエルピスから随分と離れた場所にまで突き離される。
「ふんっ!」
長らく続けられた突撃が止まり、焔槍が薙ぎ払われる。仕切り直しをするように、2人は一定の距離間を保ちながら視線を交差させた。
「こんなところまで押し出されてしまいましたか。全く、アズグラッド様には困ったものだ。しつこい男は御婦人に嫌われますぞ?」
「うるせぇよ! 嫌われ者のてめぇにかまってやってんだ。そこは感謝してほしいね」
「いやはや、女性に靡かないとは常々思っておりましたが、もしやそちらの気が……?」
「ぶっ殺す」
「アズちゃん、また頭に血が上ってるわ。戯れ言に耳を貸しちゃ駄目でしょ」
サラフィアが注意を促す。アズグラッドはどうもトリスタンと性格的な相性がよろしくないようで、頭では分かっていても感情が先に出てしまう傾向があった。如何に屈強なアズグラッドといえども、彼だけであれば苦戦は必至だっただろう。
「そうよ、アズグラッドお兄様。あくまでも冷静に、ね」
「ほう、これは驚きました。シュトラ様もご一緒でしたか」
アズグラッドの背よりひょっこりと顔を出したのは、幼い姿をしたシュトラだった。大柄なアズグラッドでその小さな体がすっかり隠れてしまい、見えなくなっていたようだ。
「だから言っただろうが、お前の相手は俺らだってよ。トライセンが起こしちまった面倒事は、俺らが片付ける!」
「この前はまんまと逃げられちゃったけど、今日という今日は絶対に倒しちゃうんだから!」
「素晴らしき愛国心、目が眩むような兄妹愛ですなぁ。前者は私にも多少ありはしましたが、後者は微塵も存在しなかったものです。いやはや、ただただ羨ましい」
懐よりハンカチを取り出し、目頭のあたりを拭うトリスタン。
「―――ですが、やはりと言うべきか、必要ではありませんな。そんなもの」
新たな魔法陣が宙に描かれる。今度のそれは、大怪鳥の時よりも更に大きい。光の粒子が紡がれてできた先には、光を反射する鮮やかな鏡がいくつも集められている。平面な鏡が密集しているというよりは、巨大なゴーレムの体全身が鏡と化しているようだった。
「タイラントリグレス、私が使役していたタイラントミラの進化形態です。サイズは然ることながら、その能力も大幅に強化されています。加えて、あちらをご覧ください」
と言われようが、2人はそちらを向かない。
「実際に目にした方が話も早いでしょうに。現在、エルピスより天使が投下されています。良いですか? 天使型のモンスターではなく、本物の天使です。あれもジルドラさんが残してくれた遺産の1つでしてね、原理はよく分かりませんでしたが、天使の設計図を基に、クローンなるものを大量生産したんだとか。自我が薄い上に寿命は極端に短いと、兵器としては欠陥品もいい所だったのですが、まあ本日は特別な日ですからね。専用の 装甲鎧(パワードスーツ) を着せて、華々しく戦って頂く事に致しました。竜や悪魔と並んで生物の頂点に属する種族、その力は納得のものですよ? ふふっ、神の方舟らしい演出にもなりますし、彼らにはその命が尽きるまで、懸命に生きて頂きましょう」
「……クソなげぇ話はそれで終わりか?」
「おやおや、わざわざ待っていてくださったのですか? さっきのように、空気を読まずに攻撃してくれれば良いものの」
鏡のゴーレムを出され、今は迂闊に攻撃できない状況になっている。その事を理解しているんだろう。トリスタンは不適に笑い続ける。
「さて…… 魔王ゼル如きに洗脳された姫君と、大した活躍もできなかった暗愚の息子に、私が倒せますかな?」
「愚問だな。シュトラ、言ってやれ」
「倒せるわ。お父様が魔王になったという事は、それだけの力があったとこの世界に認められたのと同義。私達はそんなお父様の、偉大な王の血を継いでいるんだから!」