軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第500話 竜の集い

―――ケルヴィン邸・庭園

屋敷に帰り、1週間の時が過ぎた。この間、ベルは兎も角として義父さんまでもが泊まりっぱなしだ。国の仕事は大丈夫なのかと、3日を過ぎた辺りでマジで心配になる俺がいた。それ以上に困ってしまうのは、セラと会話するにしても常時監視されている事だ。流石に寝室まで監視の目は届かないが、バアル一族特有の勘の良さで、何かと妨害を受けている。ベルはその一連の流れを楽しそうに見ているし、この親子には振り回されてばかり。何か反撃の手段を考えねば―――

「兄貴ー、何黄昏てんスか?」

「うーん? 世の中、上手くいかんものだと思ってさー」

「ハハッ、面白い冗談ッスね。ケルヴィンの兄貴ほどすげぇ人生歩んで成功してる奴なんて、それこそプリティアちゃんくらいしかいないッスよ!」

ちょっとした休憩がてら何気なく農園を眺めていたら、ザックザックと畑を耕していた、作業着姿のダハクに笑われた。プリティアと同列にされるのも、何か微妙な心境なんだが…… いや、それよりもお前、プリティアがどんな人生歩んで来たかのか知ってんの? ううむ、知りたいような、知りたくないような。これが怖いもの見たさって奴か。

しかし、ダハク農園も種類豊か、そして以前よりも広大になったものだな。エフィルに聞いた話じゃ、ダハクが来る前に世話になっていた八百屋に、今は逆にダハクの野菜や果物を卸してるらしい。趣味で作ってるものだから金は要らないって言ってるのに、品質の高さが驚かれ、無理矢理お代を持たされてしまうと困惑していたっけ。お裾分けのつもりが、とんだ販売ルートの開拓になってしまった。

ダハク農園がここまでの規模になったのには理由がある。1つが、ダハクが土竜王となって単純に能力が強化された事。これにより、うちの裏庭には不可思議な植物が栽培される事となった。何だろうな、あれ。食虫植物、否、食人植物どころかモンスターも食いそうな規模だったけど…… またどこかから拾ってきたんだろうな。うん、関係者以外立ち入り禁止にして、これについては見なかった事にする。

そして2つ目が、ダハク農園の従業員が増えた事だ。ダハク不在の際、これまでは屋敷に在中するゴーレム達や、メイドのリュカやエリィが当番制で世話をしていた。しかし、彼女らは専属という訳ではない。ダハクがマメに用意したマニュアルに沿っていただけだ。そこでダハクを中心にして新たに結成されたのが、あれである。

「ダハグ、言われでだ肥料、巻き終わったど」

「ああ、サンキューな。だけどよ、俺の名前はダハクだぞ」

「ダ、ダハ…… ッグ!」

「……竜の時は普通に喋れんだけどなぁ。ま、徐々に慣らしてくれよ」

「ダバグ、こっちの土に元気がない。何とかして」

「てめぇは普通に発音できる筈だろうが、ムド! 何気に濁点箇所多くなってるし、やっぱ馬鹿にしてんだろお前!」

土竜王ダハク、火竜王ボガ、光竜王ムドファラク、彼ら3体の竜王によって構成される漫才トリオ、もとい百姓トリオである。各地から帰還し、竜王としての実力に磨きをかけてきたと思ったんだが、精神面はどうもそのままのようだ。

「ところでさ、ダハクは兎も角として、何でムドとボガまでそこで働いているんだ?」

「愚問。私は常に高みを目指している」

大きめの麦わら帽子を被った赤ムドが、得意気にそう言った。

「キメ顔で説明しているところ悪いんだけどさ、それじゃ全く分からないって」

「主、察しが悪過ぎる……」

「い、今のじゃ、おでにも分からない、だな」

「しゃーねー。兄貴にいっちょアレを見せてやるか!」

「アレ?」

ダハクは担いでいたクワを地面に置き、ムドとボガもその左右へと並び出す。何だ何だと俺が疑問符を浮かべていると、ダハクがカッと目を見開いた。

「ダハク農園、野菜担当! 『蔬菜帝』のダハク!」

ビシッ!

「ダハク農園、フルーツ担当。『狙撃姫』のムドファラク」

スッ。

「ダ、ダハク農園、稲作担当。『翔山嶽』のボガ……!」

グッ!

からの、謎のポージング。分かった、それはリオンが考えた決めポーズなんだな? それだけは兄として理解したよ。で、それから? 背後で特撮の如く爆発が起こるのかな?

「………」

「―――っつう訳なんスよ」

「いや、どういう訳?」

ダハク達は一仕事をした後のように、満足そうな表情を浮かべている。ムドまでノリノリだったのは意外だった。

「帰ってくるなり、こいつらが畑を手伝いたいって言ってきたんスよ。俺としちゃあ、竜手が増えるのは歓迎だったんで。こうしてリオン嬢に専用ポーズを決めてもらった事だし、決戦の備えは万全ッスね!」

決戦の準備、万全なのか……!? なぜにそうしたのか、まずはムドに聞いてみる。

「デラミスで学んだ事は多い。けど、その中でも特に重要だったのが、質の低い甘味を食べていては、私の力が十全に出せないという事。そこで私は答えを得た。エフィル姐さんが手掛けるデザートを、最高品質の果物を材料として作れば、正に無敵であると……! だから、私自ら最高の果物を作る事にした」

「兄貴、こいつの情熱は本物ッスよ!」

え、あ、うん…… ボ、ボガはっ!?

「おでは岩でも土でも、何でも美味しく食べられるけども…… 赤毛との修行してん中で、トラージで本場の米の美味さを学んだだ。米は、未来のちび共に伝えなきゃ、と思う」

「それで稲作、なのか?」

「そうなん、だな」

「兄貴、こいつの情熱は本物ッスよ!」

うん、分かった分かった。君らの情熱は十分に分かった。でもさ、それ今必要?

「赤毛も、こ、米だけは炊けるようになっだ!」

「赤毛…… え、赤毛ってエマの事か! 本当にっ!?」

あのダークマター第一人者の一角が、米を炊くなんて高度な技術を身に付けたのかっ!? すげぇな!

―――ガタッ!

俺の背後で物音がした。振り返ると、そこにはエフィルが――― どういう訳か、腰を抜かしていた。急いでエフィルに駆け寄る。

「エフィル、大丈夫か?」

「も、申し訳ありません。とんだ醜態を……」

腕を差し出し、エフィルを起き上がらせる。しかしエフィルが尻餅をつくとは、珍しい事もあるもんだ。

「ありがとうございます、ご主人様。あの、それで先ほどのお話しは本当なのですか?」

「さっきの話って?」

「その、エマ様がお米を炊けるようになった、と……」

「ああ、その事か。俺もかなり驚いたけど、ボガ、本当なのか?」

「う、うん。自分で米を研いで、自分の魔法? で、火に掛けてた、よ」

マジで? と、その事実を耳にして改めて驚いている俺がいる。何ていったって、パーフェクトメイドのエフィルが指導しても、出来上がったものがダークマターだったエマだし。それが今では、立派に米が炊けるようになっただなんて、正直信じられない。

「………」

エフィルが口元を覆い隠し、顔を伏せた。

「エフィル、どうした? 体調でも悪いのか?」

「う、ううっ……」

「!?」

え、ええっ!? エフィル、泣いてるのか!? ちょ、えっ、ど、どうすれば良いのっ!? というか、何で泣いてるのっ!?

「ボガ! エフィル姐さんを泣かす事は許されない! 謝って、早く謝って!」

「お、おでっ? おで、何か言った?」

ムドとボガもあたふたし始めている。俺は俺でエフィルの涙を見るのが久しぶり過ぎて、軽く混乱状態に陥ってしまった。あの時、俺はどうしたんだったか。抱き寄せて、優しく撫でて―――

「良かった、本当に良かったです…… エマ様だけでも、ちゃんと自炊できるようになって……!」

「……! そ、そうだな、これでエフィルの努力も報われた。次は味噌汁だな!」

果たして自炊できるようになったと言って良いのかどうかは別として、挫折したかつての懸念がなくなり、エフィルが救われたのは確かだった。