軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第452話 2人の船旅

見渡す限りの青い空、青い海。空には渡り鳥が群れを成して、まるで船と並走するかのように飛んでいる。そう、ここは大海を渡る船の上。無駄遣い、無用な消費を1週間ほど我慢したケルヴィンとメルフィーナは、何とか金をかき集めて船に乗る事に成功したのであった。

「うう、気持ち悪い……」

「お前、空を飛ぶのは平気な癖して、船は駄目なのか……」

そして、メルフィーナは絶賛船酔い中だった。西大陸の港街から出発してまだ3日、船長の話によれば、まだ半分も進んでいないという。船代を稼ぎ終わり、頑張った自分のご褒美として、毎日たらふく食事をしてしまったのが主な原因の1つだと思われる。が、それでもメルフィーナはこの1週間の鬱憤を晴らしたかったようだ。その証拠に、意地でも口にしたものは吐いていない。

「船の上で飢えられても困るから、周りの迷惑にならないようにって、食い物は自前で準備してたけどさ…… お前の隣で寝る俺の身にもなってくれ。いつ吐くのか冷や冷やものだよ……」

「だ、大丈夫、です…… そんな勿体ない事は、致しません…… うぷっ!」

「時間の問題のような気もするんだが?」

実のところ、ケルヴィン達はこの船がモンスターに襲われた際の、護衛役として戦う事となっている。雇われた立場なので船代は要らず、たんまりと稼いだお金はそのまま残った訳だ。これまでの冒険者稼業で名が上がっていた事に感謝しつつ、この金をどうしようかと2人で模索。結果、ケルヴィンは捨てられた子犬のようなメルフィーナの瞳に敗れ、浮いた船代はメルフィーナの非常食代へ消えていった。我慢の反動とは怖いものである。

「今のところは安全な船旅になってるけどさ、俺達の出番があった時の為に、ちゃんと備えていてくれよ? お前、ジャンプしただけで致命傷になりそうだし……」

金がなれければどんな場所でも金稼ぎ、モンスターが相手なら尚の事と、自分の趣味の為にも失った資金はここで稼がねばならない。しかしメルフィーナはこんな状態、事が起こってから果たして戦えるのかと、その点についてもケルヴィンは心配していた。

「あなた様…… ご安心、ください…… 私に、良い案が、あります……」

「ほう。なら、どう安心すればいいのか聞いてやろうじゃないか」

「簡単な、事です…… 私が動けない分、あなた様が多くのモンスターを倒せば、うぷ…… 事は済みます…… あなた様は沢山モンスターを狩れてニッコリ…… 私は大惨事に至らずホッコリ…… ほら、正に完璧……」

メルフィーナの言葉に、ケルヴィンは思わず溜息を漏らしてしまった。

「なるほどなぁ、確かに!」

―――感嘆の溜息を。

こんな甘言に踊らされるのは、ケルヴィンが少々特殊な病気であるが故。メルフィーナも、本当は夫に対してこんな事をしたくはなかった。しかし、彼女とて一応は女の子。種族的には神に仕えるべき天使。それ以上に、ケルヴィンの前では綺麗でいたかったし、汚いところを見せたくなかったのだ。 ……まあ、なら必要以上に食うなという話に収束するのだが。

「モンスターだ、モンスターが出たぞぉー!」

甲板より、船員の声が上がる。どうやら、早速出番らしい。

「よし! それじゃ俺は一稼ぎしてくるから、メルはこのまま安静にして待っていてくれ。待ってろ、今行くっ!」

剣を携えて船内の部屋から飛び出すケルヴィン。そんな夫の姿を見送りながら、メルフィーナはちょっとした罪悪感を感じていた。

(少しだけ、食欲を抑えた方が良いでしょうか? でも、我慢すると後で反動がきますし…… ううーん……)

この後も船路は続き、船には数々の災難が降り注いだ。時には巨大イカに船が捕まり、時には幽霊船に出会って大砲を食らったりと、通常の航海ではまず出くわさない難敵ばかりが現れたのだ。ただ、メルフィーナの努力も空しく、彼女が戦場に出る事はなかった。その代わりに、妙にハイテンションな冒険者が大活躍。船の酒場に在中する吟遊詩人の語り草となる物語が、この旅で1つ増えたそうな。

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いくつかの日をまたぎ、一同を乗せる船は東大陸が肉眼で見える距離にまで到達していた。ケルヴィンの顔色はなぜかツヤツヤとしていて、メルフィーナの顔色は心なしかよろしくない。なぜだろうか? 本当に謎である。

「陸が見えたぞー! 陸だー!」

「た、助かった……! 俺達は助かったんだぁー!」

「こんな酷い船路は初めてだったぜ…… 何回死んだと思った事か……」

「一気に気ぃ抜けた…… しかしよ、モンスターも普段より強かったし、やっぱ魔王が復活するって噂は本当なのかね? ほら、デラミスでは勇者が召喚されたって聞くしよ」

「さあな。それよりも、俺は船の修理にいくら金が掛かるのかを確認する方が怖いよ…… ま、助かっただけでも儲けもんだ! 今日は飲むぞー!」

船内のそこらかしこから歓喜の声が上がり、安堵の声が漏れる。歴戦の猛者らしい風貌となったこの船には至る所に傷があり、修復した箇所も合わせれば数十カ所にまで及んでいた。未だ沈んでいないのは奇跡のようなもので、再び大海へと出発するには本格的な修繕作業が必要となる。何はともあれ、目的地の港には無事に到着する事はできるだろう。

船には様々な要人も乗船していたようで、この航海で凄まじい働きを見せたケルヴィンは大いに評価された。そのお蔭で、口元がにやけてしまうほどの報酬金もゲット。向こう暫くの資金に困る事はないと、今から欲望の夢を膨らませている。

「おー、あれが東大陸か!」

「ええ、漸く到着しましたね。本当に、漸く……」

船から見える東大陸には、小さな港街が見えている。この港街はケルヴィン達が目指している神皇国デラミスの領土の1つで、そこからは馬車を拾うかして、自力で首都にまで行かなければならない。メルフィーナの推測では、勇者は教皇や巫女が住まうデラミス宮殿にいる。

「で、その宮殿とやらにはどうやって入るつもりだ? 要は国のトップが住む城みたいなもんなんだろ? 一介の冒険者である俺達が勇者に会わせろ! なんて申し入れたって、門前払いになるに決まってる。下手すれば牢獄行きだ」

「ふふっ。あなた様、ご安心ください! このメルフィーナに良い案がございます!」

船旅の中、メルフィーナは何も寝ていたばかりではなかった。戦闘で役立たなかった分デラミスへの到着後、どうやって勇者とコンタクトを取るのか、その作戦立てをしていたのだ。既にメルフィーナの頭の中では様々な考察が成されていて、これならいけると自ら太鼓判を押す作戦が完成しているようだ。

「やけに自信満々だな…… それで、メルの言う良い案ってのは?」

「そんなに急かさないでください。まだまだ首都は遠いのです。道中、ゆっくりとお話し致しましょう」

「勿体ぶるなぁ。せめてヒントくらいは教えてくれよ?」

「ヒントですか? うーん、仕方ありませんね~。ヒントは、私の種族です♪」

「………」

ケルヴィン、ここで少し嫌な予感を感じる。2年以上メルフィーナと付き合うが故の夫の勘というか、妻が調子に乗っている時はどこかで失敗する事の多い、これまでの経験論によるものというか。兎も角、何かろくでもない事を思い付いたんじゃないかと警戒。道中でその作戦とやらを、キッチリと確認しようと決心するのであった。