軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第449話 出会いはいつの時代も唐突なんだよ

もう、何千何百も昔の事だろうか。東大陸の大戦時代、魔王グスタフが台頭した時代よりも遥か以前の事である。物語の発端は、1人の天使の少女が故郷を抜け出した事から始まった。

悪魔が住まう 奈落の地(アビスランド) がこの世の地獄だとすれば、その対称を成す天国は天使の住まう天空の大陸、『 白翼の地(イスラヘブン) 』を指すだろう。この 白翼の地(イスラヘブン) は、1つの大陸がそっくりそのまま浮遊した浮遊大陸で、1つの場所に留まらずに常に移動をし続けている。尤も、この島は常時神の結界に包まれている為、その姿を視認する事はできず、地上のどの伝承にも登場しない未踏の地。天使以外の種族は存在さえも知り得ない、奇跡の大陸であった。

この大陸に住まう天使達はある大いなる意思に従い、世界の異常事態でもない限りは大陸から出る事はなく、その長い長い生涯をこの地で終わらせる。大いなる意思、それは天使達が仕える主とも呼べる存在。この世界とシステムの創造主、初代転生神である。創造主が2代目に神の座を明け渡して以降も、その意思は天使達の根幹に深く根付き、平和と秩序を護る番人として今日も生きているのだ。

しかし、天使の中には何を間違えたのか、神の意思の影響をそれほど受けない稀有な者もいた。突然変異なのか単に変人だったのかは不明だが、このような者達は何年に一度かは生まれるものだったのだ。そんな変わり者は画一的な 白翼の地(イスラヘブン) の生活に我慢できず、大陸の外へと出て行ってしまうのが常であった。17歳になったばかりの少女もまた、その1人だ。

天使にとって許可なく 白翼の地(イスラヘブン) を出るという事は、故郷を捨てる事に等しい。これは浮遊大陸が外界から認識できず、絶えず移動を続けている為に存在する場所が不確定であるからだ。一度外界に出てしまえば、もう故郷に戻る事はできない。それは少女も知っていた。知っていたが、躊躇いはなかった。少女は上京に憧れるように、外界に新しい出会いを、刺激的な出来事を夢見ていたのだ。

特に目的がある訳ではない。従って空から降りる場所は本当にその時の気分で、何となーく選択した。彼女がたまたま降り立った大地は、西大陸の内陸、数ある小国のうちの1つだ。天使の中で異端とされる彼女とて、一般的な教養は身に付けている。無用な面倒事を避ける為、大地に降り立つ際は周囲を警戒しながら、怪しげな人物やモンスターに見つからぬよう警戒する。

天使は竜や悪魔と並んで、強力な個体値を誇る種族だ。他の天使と比べて未熟ながらも、彼女の実力があれば大抵の面倒事は力尽くで回避できただろう。それを忌み嫌ったのは、彼女の求める刺激とは楽しい事であって、決して血生臭い争いではなかったのである。地上の種族からしてみれば、物珍しい特徴でしかない天使の輪と翼。何かと目立つので、これらもこの時点で隠してしまおうと、少女は慣れない魔力操作で隠蔽を試みていた。

「すみません、ここってどこですかね?」

「ふぁっ!?」

だからこそ、急に背後から人間に話し掛けられると、大いに驚いてしまう。少女は最初、何で直ぐ近くに人間の男がいるのか理解できなかった。着地の際、少女は周囲一帯には誰もいないと確認して、この場所に降り立ったのだ。今でこそ翼を魔力に戻すのに夢中になっていたのもあるが、こんなに近付かれ、話し掛けられるまで気付かないなんてヘマまではしない。それこそ、天使にも捉えられない超人的な速さで近寄ったとか、反則的な瞬間移動をされない限りは。

「―――記憶がない?」

「ああ、ここ最近何があったのかさっぱりだ。やばいな、この歳で認知症とか洒落にならないぞ……」

ガックリ項垂れる割には元気そうな、この人間の男。どうやら自分が何者なのか名前も分からず、気が付けばこの場所に立っていたらしい。取り敢えず、未だ消えていなかった天使の輪や翼を見られ、驚かれる。

見られたものは仕方ない。どうも害もなさそうだなと、少女は輪と翼の魔力化は一端置いておく事とした。そしてふと、故郷で学んだ知識を思い出す。この世界を司る転生神による、異世界からの転生の話だ。非常にレアなケースとして、異世界でその生涯を何らかの形で終えた者が、この世界に転生する事があるという文献を目にした事があったのだ。記憶がなくなるというのは初耳であったが、そうだとすればこの場に突然現れたのにも納得がいく。少女は男に興味を持ち始め、あれやこれやとこの世界について教え始めた。まあ、少女も地上に降りたのは今さっきの話なので、知識のみの説明も多分に含まれていたのだが。

「ステータスから名前が分かるのか。ええと…… あったあった! へえ、俺はケルヴィンというらしい。あ、そういや君の名前、まだ聞いてなかったけど?」

「今更ですか…… まあ、貴方は無害そうですし、自己紹介をして差し上げましょう。私の名前はメルフィーナ。これでも天使なんですよ、フフン」

「まあ、その輪っかと翼からして天使だよな。天使がそんな格好で堂々としていて良いのか? 目立ちたくないんだろ?」

「う、煩いですね。消そうとしていた変なタイミングで、貴方が現れたんですよ! もっと空気を読んで登場してください!」

「無茶言うなっ!」

口喧嘩を少々、雑談を少々、これからどうしようかとお互いの今度の話を少々――― そんな風に会話を続けているうちに、2人はお上りさん同士、一緒に行動した方が良いんじゃね? という結論に至り、取り敢えずは活動の拠点となる街村を探すのを共同の目的とした。

「貴方は天使への敬いの心が足りないと思うんですよー。普通、もっとありがたく感じるものですよ?」

「んな事言ってもな…… そもそも、ステータスの表記じゃ俺の方が年上だろ。さあ、もっと俺を敬え」

「はいはい、あなた様~。年下の私より随分と貧弱なステータスを持つあなた様~」

「てめぇ、後で覚えていろよ…… こうなりゃ徹底的にだ! 手始めにスキル説明を読破してやる!」

「それ、普通に一日が潰れますから。私が歩きながら教えてあげますから、まずは歩きましょうよ」

2人の旅路はこうして始まった。

「あなた様、私お腹が減りました。食料を所望します」

「まだその呼び方を引っ張るのか…… 残念だったな。俺は無一文だ」

「クッ、付いて行く人を見誤りましたか……!」

「他人の善意に付け込む天使ってのも、どうなんだよ?」

……兎も角、2人の旅路はこうして始まったのだ。この時のお互いの印象を言い表せば、何かやらかしてくれそうな面白そうな人間に、何かやらかして国を追われたんだろう変な天使、である。生涯の伴侶となる事なんて、毛ほども思っていなかっただろう。

これから2人は何だかんだと共にあり続け、コンビパーティを組む冒険者として実に3年もの間を活動する事となる。時にはメルフィーナの食費を賄うのに難航し、意見が食い違って喧嘩をする事も多々起こった。それでも一緒に居続けたのは、まあ、それなりの理由があったからだろう。

「あとその輪っかと翼、そのままで良いのか?」

「あっ!?」