軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第415話 勇者対勇者

―――邪神の心臓・ 聖杯神域(ホーリーチャリス)

エマの愛剣である 太陽の鉄屑(ソルフォルム) は、太古の遺跡から発見した前時代の遺物である。内包するエネルギーは何者をも溶かす高熱を発し、眩く光り輝くその様は正に太陽の化身。触れるどころか近付いただけで大剣から発せられる熱気に焼かれてしまう為、余程炎の扱いに長けた強者でもない限りは、持つ事さえも許されない。そんな地を粉砕する太陽の塊が、上段から明確な殺意を持って振るわれた。

「ハアッ!」

―――ギィギィーン!

瞬く間に鞘から聖剣ウィルを抜いたセルジュが、片手一本でその猛撃を受け止める。爆発音にも似た轟音をなびかす超威力の塊の衝撃は凄まじく、セルジュの脚部を凍らせていた 極寒大地(グラウンドシヴァ) ごと床を打ち砕いた。

「 白焔(ケデンス) !」

セルジュに大剣を受け止められた直後、 太陽の鉄屑(ソルフォルム) がその色を赤から白へと変異させ、空間全体を覆ってしまうほどに 燦爛(さんらん) とする。同時に熱が広範囲に拡散され、肌を焼け焦がす熱気がセルジュを襲う。

(―――筈なんだけど)

エマは先ほどから違和感を抱いていた。いつもであれば、発せられる光と熱はこの程度ではないのだ。セルジュの聖剣に触れるほどに、その感覚は強まっていく。エネルギーの先から分解されていくように、威力が弱体化されている。 白焔(ケデンス) を使った時には、その違和感は確信に変わっていた。

現在の勇者である刀哉が得意として使っている光の剣、 天上の神剣(ディバインセイバー) 。付与させた剣に触れたものは様々な付与効果を解除され、それが攻撃であれば特性を弱体化されてしまう。極めれば高位の結界さえも斬り伏せてしまうという、古から伝わる勇者伝統の技である。それをセルジュは刀哉とは別次元の段階で巧みに扱い、エマの猛火を軽々と凌ぎ切っていたのだ。

(ん、目眩し)

だが、セルジュに向かっていたのはエマだけではない。猛々しい上段からの猛火が目立つ一方で、シルヴィアは地を這う様に低い姿勢でセルジュに接近していた。床一面を凍りつかせ、そこはシルヴィアのテリトリーと化している。エマによって粉砕された氷の幾多もの瓦礫、それを材料に 氷柱(つらら) の槍を宙に形成させる。

「 鋼鉄氷槍撃(アイシクルストーム) 」

その槍の数は一瞬ではとても把握できるものではない。ましてや、今セルジュはエマが作り出した光の中にいる。視覚は殺されているも同様だった。だが、魔力に対して絶対の耐性がある『二重魔装甲』を持つシルヴィアであれば話は別。セルジュの位置を正確に把握し、槍を飛ばして自らも突貫する。

「ウィル、ちょっとだけ、力の片鱗を見せようか」

そして、シルヴィアはセルジュの両手に同一の聖剣が握られるのを確かに見た。煩わしい小蝿を払うような軽い動作でエマの 太陽の鉄屑(ソルフォルム) は大きく押し返され、視線の先はシルヴィアへと向けられている。察知能力も侮れない。頭の片隅で留意して、シルヴィアは自らも片腕に 氷姫の神盾(ファーレンハイトアイギス) を形成させた。

四方八方から放出される槍の大群。迎え撃つは勇者の剣。エマが残した光の中にて、聖剣と氷柱槍が激突する。シルヴィアの魔法は氷とはいえ、その硬度は鋼鉄をも超える魔槍だ。更に、その魔槍を追うは細剣を構える氷姫。足場と体勢を崩されている事からも、誰の目から見てもセルジュが不利なのは一目瞭然である。しかし、彼女の笑みは全く消えていなかった。

「―――っ!」

荒れ狂う魔槍の嵐の中を、彼女は舞うように聖剣で受け流していた。周囲から放出され続ける氷柱を、時にバターを切り分けるように分断し、時に子供をあやすように撫で返す。これではまだまだ児戯も同然、次はまだかと催促するように、視線はシルヴィアに注がれ続けていた。

「お裾分けっ!」

セルジュに弾かれた氷柱の1つが軌道を変えられ、シルヴィアの顔面目掛けて槍の穂先が向けられる。避けはしない。固有スキルである二重魔装甲は、シルヴィアの意識の有無に関わらず自動で働き、魔槍を無害な水へと変えてしまうのだから。

「まぁだぁーーー!」

「ッシ!」

セルジュを襲う氷柱が残り数本となったところで、押し返されたエマが復帰。シルヴィアと同時に上下から挟み込むように攻撃を仕掛けた。 太陽の鉄屑(ソルフォルム) は次なる形態、大剣全体を深紅に染めて対象を熔解させる点に特化させた『 溶焔(ゾルブ) 』に変化。ノーブルオービットはその刀身から蒼白い冷気を出している。煉獄と極寒、その2つか噛み砕くが如くの猛撃。エマの大剣が頭をかち割り、シルヴィアが心臓を穿つ。

「とおっ!」

「―――が、あっ!?」

「えっ?」

あろう事かシルヴィアは蹴られ、吹き飛ばされた。細剣を聖剣で弾かれた後に、真横から。幸い剣の柄は離さなかったし、蹴りを受ける瞬間に 氷姫の神盾(ファーレンハイトアイギス) で防いだ為、傷は浅い。骨の芯にまで衝撃が響いているが、それでもまだマシな方だろう。 氷姫の神盾(ファーレンハイトアイギス) に蹴りを触れさせた事で、セルジュの蹴り足を凍結させる事もできた。

(でも、エマの攻撃は……?)

シルヴィアが最後にセルジュを見た時、その両手には1本しか剣を持っていなかった。シルヴィアの刺突を弾いた時は確かに2本持っていたのに。それに、シルヴィアだけに集中してしまっては上空からのエマの攻撃をもろに食らってしまう事になる。けれども、セルジュが攻撃を受けている様子はない。なぜ?

「これは……!」

エマの猛撃を防いだもの、それは巨大な盾だった。神聖な装飾が施された、セルジュの姿を隠すほどに大きなそれは、 溶焔(ゾルブ) の一撃を容易に受け止め、更には剣に宿す熱を冷ましていく。それでも 溶焔(ゾルブ) は盾の表層を溶かし始めてはいる。いるが、このままで破壊できそうではない。まるで聖剣に受け止められた時と同じ、いや、盾であるが故にそれ以上に堅牢。それに、この盾は不思議とさっきまで見ていたような、そんな覚えがする。

パキパキと足を凍らせる音が盾の向こう側から聞こえてくるのと同時に、セルジュの声も聞こえてきた。

「君、本名はアシュリーだっけ? なかなかの攻撃だったから、剣じゃなくて盾で防御しちゃった」

「剣ではなく、盾で……?」

「うんうん、私にこれを使わせただけでも結構凄い――― っと」

数本の氷柱が不意を打ってセルジュに飛び掛かるが、全ていなされてしまった。盾はセルジュが手に持っている訳ではなく宙に浮いた状態なので、その軽快な身のこなしに負荷が掛かっている感じはない。

「ん、やっぱり勘が鋭い」

「いやいや、いつもは黙ってても向こうから勝手に逸れるから、これでも緊張しながら戦ってるんだよ? って、言ってる傍からこれだもんねぇ……」

笑顔から一転して、地面を見下ろしながら苦笑いを浮かべるセルジュ。凍り付いた彼女の足には、漆黒の影が手を伸ばすように、幾つも雁字搦めに絡まっていた。その影達はエマの大剣の光から生まれたもので、シルヴィアの氷柱や彼女達自身、果てはセルジュの盾までもから伸びている。

「フーちゃん。腕、貰うね?」

その影の腕、セルジュの死角に当たる1つからリオンは現れ、聖剣を持っていたセルジュの腕を斬り落とした。同時に周囲に張り巡らされた黒き斬撃、 空顎(アギト) ・ 黒雷(コクライ) がリオンの固有スキル『斬撃痕』から解き放たれる。

「――― 斬牢(ざんろう) 、閉鎖」

影から影へ移動する瞬間、リオンはそう口にした。