軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第405話 瘴気の中での戦い

―――邪神の心臓

瘴気が渦巻く大空洞内での入り口探しが始まった。コレットを抱っこしながら飛ぶ俺を中心に、 多首火竜(パイロヒュドラ) に乗るエフィル、天歩で宙を蹴り進むリオンとアンジェがその護衛に回る。これだけ広大かつ毒素を含む大穴だ。直ぐとまではいかなくとも、できるだけ早い段階で発見しておきたい。

「キィシャー!」

だが、ここは禁忌の地とされる邪神の心臓。簡単には探索させてくれないようで、使徒以外にも障害が現れるものなのだ。耳障りな叫びを撒き散らせながら、前方からムカデ型の巨大モンスターが迫って来た。羽がない筈なのに、数え切れない数の足をバタつかせ、大口を開けながら一直線に飛来している。コレットの秘術は察知系のスキルは無効化するが、目には普通に映るからな。モンスターに視認されれば襲われる、道理である。

鑑定眼で見ると、デスプレスという種族名とS級モンスター並のステータスが並んでいる。大空洞を取り巻く瘴気が原因なのかは不明だが、どうもこの辺りは高レベルのモンスターが出現してくれるらしい。遂に真の夢の国を発見してしまった喜びを噛み締め、されど喜びたいのを我慢しながらエフィル達に撃退指示を飛ばす。

『僕は斬るねー』

『私は首狩るねっ!』

『それでは、私は焼却します』

それからの決着は瞬きの間に終わっていた。 稲妻反応(ライトニングエンハンス) の雷鳴の軌跡を眩い光として残し、まずリオンがデスプレスの全身を一瞬で斬刻む。2手目のアンジェはいつの間にやら首を落としていたようで、デスプレスの巨大な頭部は奈落の底へと真っ逆さま。辛うじて残った胴体は今はもうエフィルの矢で消し炭となり、 多首火竜(パイロヒュドラ) の大口に飲み込まれてしまった。あの大きな体の面影は、今やどこにも残っていなかった。

頼もしい、頼もしいけど、俺も混ざりたい……! それが今の正直な欲求だった。

「S級モンスターだろうが何だろうが、コレット、必ずお前を護ってやる。だから安心して探索に集中してくれ。 ……おい、また息が荒くなってるけど、本当にいけそうなのか?」

勇気付けようとしてコレットにそう話すと、彼女は――― その、何と言うか、絶頂の最中にいるようだった。瞳の焦点が合ってなく、これまで以上に息を喘がせている。一言で言い表せば、情欲的になっていたのだ。俺のローブを握る指の力も強くなっている。

「フゥ、フゥ…… い、いえ。ケルヴィン様から勇ましい激励を頂けて、少々理性のタガが外れそうになってしまいまして。大丈夫、踏み止まりました、大丈夫です……!」

メルフィーナ先生、助けて。

『あなた様、ファイトです。今のコレットは良い意味でトランス状態になっています。詰まりは最高のコンディション、これならば早期発見も夢ではありません!』

マジでか。俺にはどう見ても悪い意味でトランスしているようにしか思えないんだが。

「ご安心ください。メルフィーナ様の残り香を含んだ、ケルヴィン様の神・芳・香! を間近に嗅いだ私の嗅覚は、今、最っ高に研ぎ澄まされていますっ! どれほど巧妙に隠そうとも、同じデラミスの巫女として扱った秘術であれば、私から逃れられる事は敵わないのです!」

魔力とかじゃなくて、警察犬みたいに嗅覚で探すのか。巫女の秘術、それで良いのか……

『アンねえ、今度は前と後ろからモンスターが来てるよ!』

『背後は私がカバーするから、リオンちゃんは前をお願い。エフィルちゃん、援護よろしく!』

『お任せください』

デスプレスとの僅かな戦闘音を聞きつけたのか、モンスターに見つかるペースが早くなってきた。今のところはいくら来ようと瞬殺するので問題ないが、あまりに数が多くなると使徒に場所を勘付かれる可能性が高くなる。これは急いだ方がいいな。

「メルフィーナ様が何時如何なる時に顕現されても、一片の無駄もなく天上の香りを感じ取る。常に嗅覚を鍛え続け、祈りによる加護を頂戴した私に死角はありません! この程度の洞穴など――― 発見致しましたっ!」

マジでか。マジでか。

「ここより更に降った4ヵ所に、巫女の秘術の残滓らしきものを感じました。最寄りの場所に案内致します。あちらへ!」

「お、おう」

もしかしなくても、嗅覚においてはコレットが世界一敏感なんじゃないかな、これ。少なくとも、確実に我が家のアレックスより鼻が利いている。

ま、まあ何はともあれ、聖域への入り口が分かってしまえばこっちのものだ。迫り来るモンスターを悲鳴を上げる暇も与えずに撃破しながら、ガンガン突き進む。下に行くほど辺りの瘴気が濃くなるが、聖域内は汚染されていない筈。女神の指輪の状態異常耐性もあるし、この調子なら余裕で間に合う―――

「―――と、思ってたんだけどなぁ」

「やあ、久しぶりだねぇ」

出入り口を隠した箇所だと思われる、大空洞の洞穴。その前には生還者、ニトが時機を窺っていたかのように、この辺りでは珍しくも平坦な地面に、虎視眈々と胡坐をかいて座っていた。

「そういやムド達から、生還者のおっさんの姿がないとかの連絡があったな。なるほど、ここで侵入者を待ち構えていたって訳か」

「ああ、いや、何と言うかその、ね……」

臨戦態勢を整える俺達に対し、生還者はなぜか申し訳なさそうな顔をして、胡坐をかいたまま立ち上がろうとしなかった。

「実を言うとねぇ…… おじさん、使徒としてのオーダーを達成しちゃったせいか、聖域に入れなくなっちゃって。ハハハ、ハハ、ハァ…… たぶん、君らが持ってる 聖鍵(せいけん) も使えないねぇ……」

生還者の渇いた笑いが哀愁を誘う。どうやらこの生還者、聖域に入れずここで意気消沈していたらしい。

「あ、おじさんに戦意はないからね。おじさんに構わず、自由に通っていいよ。おじさんは終わりの見えないマラソンにちょっと疲れちゃってさぁ、ここで休憩してるだけだから」

「死なないのに疲れるんだな」

「そりゃ、おじさんだっていい歳だもの。疲れは蓄積するもんだ」

「難儀な体してんのな…… だけどな、一応カテゴリー上お前は敵なんだ。戦わずとも拘束はするぞ」

「それもお断りしたいねぇ。そうなればおじさん、全力で逃げるけどいいの?」

―――生還者の手元に、奴の刀がない。どこかに隠したか。

『ケルヴィン、私が捕まえちゃう?』

『いや、こいつの体を捕らえたところで、また前と同じ結果になるだけだ』

俺の予想が正しければ、本当の意味で捕まえるには、あの刀をまずは何とかしないといけない。この状態から探し出すのは骨が折れるな。

「これはおじさんからの提案なんだけどさ。おじさんを見逃してくれれば、もうケルヴィン君のパーティには関与しない事を約束しよう。口約束だけどね」

「それを信じろと?」

「貯蓄のないおじさんには、もう証明する手段がないからねぇ。正直な話、もうおじさんは使徒でも何でもないんだ。さっき、言っただろう? オーダーを達成したって。意味合いは変わるけど、君達をここまで招待したからねぇ。要するに、そこにいる暗殺者や、この前使徒を辞めた断罪者と同じ状態なんだ。後はおじさんの願いが叶うのを待つだけで、代行者達に組する理由がないって事さ」

生還者、もといニトに戦意は相変わらずない様子だ。しかし、このまま奴の言い分を鵜呑みにする事はできない。

「……一応聞いておくが、お前の願いは何だ?」

「どこにでもある、詰まらない願いさ。おじさんを拘束した時に色々聞き出したよね? 生前は獣人で、虎狼流剣術の創始者をやってたんだ。でも、おじさんが生きているうちに、これだ! っていう後継者を育てられなくてね。今でもそこそこの規模をやってるようだったけど、おじさんは正真正銘の虎狼流を次世代に残したいんだ。願いは、『おじさんの納得のいく後継者が欲しい』だよ」