軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第393話 未来への渇望

―――魔王城・医務室

ここは魔王城内にある一室、簡易ベッドや薬品などの医療道具が並ぶ医務室だ。未練を断ったところで倒したベガルゼルドとラインハルトに軽く回復を施し、セラに手伝ってもらいながらここまで何とか運んで来た。悪魔が住まう魔王城だけあって、ベッドのサイズも千差万別。ベガルゼルドはこのでかい簡易ベッドだな。

「何でやぁ、わいの芸術達ぃ…… 何であんな簡単に負けるんやぁ……」

「ぐう~! 医者の俺様が仕事部屋で横になるなんてよぉ!」

肉体的には回復している筈なんだが、どうも精神面が不安定になっているな。特にラインハルト、絵を描く元気あるなら自分で歩けよ。絵画を寝たまま何枚も描いて――― うわ、絵がさっきより凶悪になってる。

「ラインハルトったら、昔と変わらず絵が上手ね! 寝ながらもこの正確なタッチ、もしかすればリオンとも渡り合えるかも?」

「なぁ!? あの嬢ちゃん、そんな名の知れた絵描きだったんですか!? サ、サイン貰っておけば良かった……」

名は知れてないって。それに慣れないサインなんて強請られても、リオンが困ってしまうだろ。俺の経験がそう言っている。

しかし、ラインハルトの能力は絵の上手さと相まって賑やかなものだったな。医務室に向かう途中でベルに聞いてみたら、『鳥獣戯画』という描いた絵を実体化させる固有スキルだという答えが返ってきた。書き込めば書き込むほど、より本人が納得する出来になるほど実体化した絵は強力になって、俺の召喚術に似たその場限りの配下として実体化する事ができるらしい。ちなみにスケッチブックは何の変哲もないただの画帳との事だ。

「悔しがる元気があるだけマシかしらね。2人とも、まだ進化して間もないし」

簡易ベッドの傍らに置かれた椅子。そこに座ったベルが、サイドポニーに纏めた赤髪をいじりながらそう口にした。

「あれ、そうだったのか?」

「まあね。この2人は蘇生させた後で私が特訓してあげた口なんだけれど、進化してからそう時間は経っていないの。ビクトールに毛が生えた程度の差よ」

「あれは地獄やったなぁ……」

「ああ、あれは地獄だった……」

悪魔が憂鬱そうな顔をしている。ベル、何をした?

「パパは率先してやってくれたわ」

「2人はあんな顔してんだけど?」

「セバスも喜んでやってくれたわね」

「そ、そうか……」

君、そんな晴れやかな表情もできるんだね。義父さんは兎も角、セバスデルが喜んでいる時点で察しは付く。あまり深くは追及しない方がいいかもしれない。 ―――ん? ちょっと待てよ?

「……逆に考えれば、まだこの2人は伸びしろがありまくる?」

「あるわね」

「叩けば叩くほど?」

「伸びるでしょうね」

「……ふーん、そっか」

未来への楽しみ、ゲット。フハハ。

「ケルヴィン、どうかしたの?」

「いや、戦いの後でちょっと気分が良いだけだよ。さ、次はシュトラのゴーレムを見てやらないとな」

「ふふん、私も手伝うわ!」

「助かる」

「善は急げ、お先に!」

いつもの調子で白衣の眼鏡姿に超絶早着替えしたセラは、一足先にシュトラのもとへと行ってしまった。思い立ったが吉日とはセラの事だな。素で実行してる。

「ベガルゼルドの仕事服……? セラ姉様、色々な服を持っているのね」

「ああ、あれはコスプレというか、そもそも医療白衣じゃなくて研究服みたいなもんかな」

「コスプレ? 何よ、それ?」

「形から入れば、不思議と意欲も湧くもんなんだよ。ベルも欲しいんなら、エフィルに頼めばオーダーメイドで作ってくれるぞ。セラの私服なんて殆どエフィル印だ」

「ふーん。ま、気が向いたらね」

興味がないのか、ベルはさっさと医務室を出て行ってしまった。俺も早くセラを追わないと。

「それじゃ2人とも、今日は俺の我が侭に付き合ってくれてありがとな」

「礼はいらねぇよ。俺様はセラのお嬢に手を出した勇者を見たかっただけだ。ま、グスタフ様と引き分けただけはあるんじゃねぇか?」

「嘘つけ、あわよくば一発殴るとかほざいてたやん。愛しのお嬢を、許さん! とか言ってたやん」

「おう、まずはお前から落とし前つけろや、ラインハルト。傷口にアルコール塗りだくるぞ」

「おうおう、できるもんならやってみろや。そもそもさっきの模擬戦の時―――」

―――俺が悪かったのか、2人の言い争いが始まってしまった。ああっと、口喧嘩ってよりは、戦いの中で悪かった点を振り返る反省会のような話になってるのかな。口調は荒々しいけど、指摘している箇所は間違っていない。セラの事を大切に想ってくれているようだし、子供に注ぐ愛情が嫌というほど伝わってくる。ビクトールもそうだったが、皆セラやベルを本当の娘のように可愛がっていたんだな。

「こんのアホウ! それでセラ様がショックで寝込んだらどうするんや! ベル様だって病み上がりで心が不安定な筈なんやで。それが医者のする事かいな!?」

「アホはどっちだボケナスが! お嬢達に悪い虫が付いたらそれこそ一生もんの心の傷だ! その前に俺様が相手を診断するのはたりめぇの事だろが!」

……い、居づらいな。俺も退散するとしよう。しかし、過保護とは伝染するもんなのかね。ま、2人とも早く元気になって強くなってください。それだけが俺からの要望です。

「やっと来た」

「うおっ!?」

俺が医務室を出ると、壁を背に寄りかかりながらベルが待っていた。気配が全くなかったから、かなりビックリした。お前、先に部屋出て待ち伏せしてたのかよ。

「失礼ね。化物に会ったみたいな顔して」

ドヤ顔して言う台詞じゃないよ。隠密まで使って明らかに驚かせに来てるよ、この娘。

「確信犯が何を言うのか…… で、どうしたんだ? 待ってたって事は、何か用があるんだろ?」

「ええ、ちょっとね。今、メルフィーナは別行動中かしら?」

「メルか? 確か、コレットと一緒に城下町で布教活動、もとい、食の素晴らしさを説いて回っていたかな?」

「は?」

メルフィーナはドクトリア王国において、今や飲食業界のアイドル的存在になっている。そんな女神様は 奈落の地(アビスランド) 全土の調理技術や食文化が遅れているのを嘆き、『調理』スキルの大切さやそれに連なる食の向上を訴えているんだったか。コレットを広報担当に任命して、実際に究極に美味いエフィルの料理を食べさせる事で体験させるとか、色々と策を巡らせているらしい。地元の料理人達もかなり協力的だ。

まあ、うん。確かに 奈落の地(アビスランド) ではビクトール以外に碌な料理人を見た覚えがない。シルヴィア達の料理に比べれば格段に上だが、それでも頑張れば食えない事はないレベル。下を向いたらきりがないのだ。この活動で広く食について関心を持ってもらえれば、戦いに明け暮れ殺伐としていた 奈落の地(アビスランド) の雰囲気を打破できるかもしれない。ベルを魔王化から助け出したからか、義父さんからの支援も手厚い。活動を通してなぜかリンネ教も順調に広まっているらしい。でもさ、それでも俺はこう言わざるを得ない。

「―――何やってんだ、あの女神……」

「それ、私の台詞なんだけど。まあ、いいわ。近くにメルフィーナはいないのね。セラ姉様のところに行く前に、ちょっと面を貸しなさい。あっちにおあつらえ向きの部屋があるから」

「おい、だからどうしたんだって?」

「メルフィーナは義体だし、貴方に話せないみたいだったからね。その代わりよ。付いて来なさい。『黒の書』について、私が詳しく教えてあげる」