軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第392話 未練を断つ

―――魔王城・修練場

生還者を泳がせ、ムドとボガにその追跡をさせて数日。ドクトリア王国からの人員が到着し、漸く本格的な魔都グレルバレルカの復旧作業に入る事となった。別に俺が 剛黒の城塞(アダマンフォートレス) で1から組み立て直しても良かったんだが、それだとほら、色合いとかに問題が。頑丈さなど砦にするには申し分ないけど、これからこの国の人々が居住する街にするには殺風景過ぎるんだよな。悪魔だって心があるのは義父さん達を見れば直ぐに分かる事、誰だって住むなら温かみのある場所が良いのだ。

まあ、そんな訳で復興活動の枠から外れた俺は少しばかり時間を得た。前に言った通り、この空き時間を利用して課せられた使命を全うする所存だ。シュトラのゴーレムの微調整とやるべき事柄は多い。だが、まず最優先ですべきは、そう―――

「ケルヴィン、頑張りなさいよー!」

「まあ、パパと相打ちになったくらいだもの。これくらい楽々突破してほしいものね」

―――試練の塔にて戦い逃してしまっていた悪魔四天王、ラインハルトとベガルゼルドとの熱きバトルである。まずはこれをしなきゃ俺がスッキリしないからな。致し方なし。

「もう、気になってる癖にまた素っ気ない振りして」

「何がよ?」

「だって、あんなに熱心に指導していたじゃない」

「……ケルヴィンは将来、セラ姉様の夫になるんでしょ? 生半可な強さでセルジュに殺されちゃ、私の気が散って仕方がないもの。今のうちに叩き込めるものを叩き込んでおいただけよ。大体、第5柱より先の使徒達は色々な意味で規格外で―――」

「それが素直じゃないって言うのよ、うりうり~」

「頬を突くなぁ」

セラとベルが見物席で騒がしく見守る中ではあるが、俺の意識は眼前の悪魔に集中している。格好悪いところは見せられないからな。

「ベガ、ちゃんとわいに合わしぃや!」

「分かってるっての! 形態解放(トランス) ッ!」

ラインハルトが手にスケッチブックを持ち、指先で何かを描き始め、一方でベガルゼルドは開始早々に気配の気質を変えてきた。奴の三つ目と手が妖しく発光している。帰省の際に2人と戦ったリオンやシュトラからは敢えて情報を貰ってなかったからな。ワクワク。

「おし、全力でお願いするよ」

「あほう! グスタフ様に認められた男相手に、手ぇ抜く暇ある訳ないやん! 初っ端から全力でいくでぇ! 八脚の悪魔(ダゴン) !」

ラインハルトがスケッチブックを俺に向けてオープンすると、そこにはタコのようなモンスターが描かれていた。鉛筆画っていうのかな。凄くリアルだ。そんな感想を並列思考の片隅で考えていると、絵は段々と膨らんでいき―――

「俺様が相手するぜぇ!」

スケッチブックに向ける俺の視線を遮るように、真っ正面から突っ込んで来たベガルゼルドが叫んだ。4つの拳を握り締め、結構な速度で連打を俺に浴びせる。

「ぬっ!?」

だが、連打の嵐が俺に届く事はなかった。空気の壁に拳は弾かれ、ベガルゼルドは反動で後ずさりしてしまう。

(ベルから教わったこの結界、やっぱ面白いな)

俺の周囲に張り巡らしているのは、ベルの 蒼風反護壁(ディセクトカウンター) の元の魔法であるS級緑魔法【 粘風反護壁(リヴェカウンターガム) 】だ。固有スキルである『色調侵犯』の効力はない為、触れた対象に追加効果を与える事はできないが、魔王城をエフィルの爆撃とムドファラクの一撃から守護したゴム風の護りは健在。結界の範囲を狭めるほど 粘風反護壁(リヴェカウンターガム) の作用は強まり、より外部から加えられた力に対して反発しようとする。今の結界は俺を覆う程度の小さなものだ。あの程度の攻撃じゃ割れる筈もない。

「んでもって、ふっ!」

「ぐうっ!」

蹴りに緑魔法で風を載せ、ベガルゼルドのがら空きな腹部目掛けて思いっ切り放つ。この戦闘法もベルに指導してもらった賜物の1つだ。まだ拙くはあるものの、俺は拳だけでなく蹴りにも魔法を付加できるようになった。今はまだ緑魔法の風関連のみしかできないが、これはこれでなかなか。

「―――っ! が、が、が、がぁっ!?」

多重衝撃(ハイパーインパクト) を一方向に固定して放てば、この通り俺の軟弱な蹴りでも重量級のベガルゼルドが成す術もなくぶっ飛んでいく。ベルみたいに斬撃を付与しても良いし、応用が利くのだ。

(次は…… タコか)

ベガルゼルドの姿が彼方に消えると、今度は巨大な青いタコが俺の視界に現れる。こりゃさっきスケッチブックに描かれていた絵だろうか。どこから見ても本物のモンスターにしか見えないが。

「いけやぁ、 八脚の悪魔(ダゴン) !」

やはりそうらしい。 八脚の悪魔(ダゴン) とかいうオオダコが強靭な触腕をくねらせ、四方八方から叩き付け地面ごと俺を粉砕しようとする。が、威力からしてベガルゼルドの拳よりも弱い。当然ながら結界に阻まれ、俺には届かない。いや、これは違う意図があるのか。

「ズガァアアア!」

修練場を覆いつくすほどの、大量のタコスミが辺りに満ちる。結界の恩恵で俺に直接降り掛かる事はないが、視界は完全に閉ざされてしまった。唯一視認できるのは結界越しに見えるタコ足だ。幾本の触腕で結界に巻き付き、触腕の吸盤で固定。それで反動から逃れ、強引に結界を圧迫しようという算段らしい。結界の外側にもピリピリと嫌な空気が充満している気がする。

(空気中に漂ってるって事は、毒とかガスかな。蛇っぽい見た目だし。 ……取り敢えず、流すか)

魔法で突風を巻き起こし、周囲の空気をある方向へと送ってやる。

「うが……!? ラインハルト、てめぇ!」

ある方向とはベガルゼルドがいる方だ。最初に吹き飛ばしたベガルゼルドが復帰しそうだったからな。俺の代わりに空気の正体を体験してくれ。

「こいつ、わいの毒を……! すまん! けど自力で治せるやろ!」

「体内にある有害物質の除去は時間掛かんだよ――― 前見ろぉ!」

「あん―――!?」

粘風反護壁(リヴェカウンターガム) を解除した俺は、一直線にラインハルトに駆け出していた。この結界、便利だけどその場に留まってしまうのが難点だな。範囲を広げるか消さないと動けない。え、 八脚の悪魔(ダゴン) ? 解除の瞬間に 烈風刃(ショットウィンド) を撃ったら紙切れになっちゃったよ。元は紙だけに紙装甲っぽい。

「ガ、 大牙の悪魔(ガナパティ) !」

ラインハルトが咄嗟に懐から1枚の紙を取り出す。紙にはこれまたリアルな象の、というよりはマンモスの絵。予め準備していたのか、用意周到だな。

―――ズガァーン!

地響きを鳴らしながら降り立つ巨体モンスター。その土煙に乗じてラインハルト自身からも猛毒らしきガスが出ているのを見逃さない。マンモスのモンスターは紙だから毒が効かないんだろうか? 毒の間近にいるのに、全く意に介していない。まあ、どうであれ結果は一緒だ。毒はベガルゼルドの方へ流してっと。

「させるか!」

「うおっ」

三つ目からビーム出してきやがった。その目、そんな事もできんの? 距離あったから油断したな。ちょっと驚いた。

「躱されてるやんけ! って、わいの 大牙の悪魔(ガナパティ) ー!」

的がでかいから 烈風刃(ショットウィンド) も当たりやすいな。マンモスはオオダコ同様、複数枚の紙切れとなって毒ガスと共にベガルゼルドの方へと流されていった。あ、三つ目にガスが入ったっぽい。

「ベル、ちゃんと鍛えたの?」

「形にはなってるじゃない。不満?」

「いえ、ラインハルトとベガルゼルドの話よ。蘇生させた時、1から特訓したんでしょ?」

「……パパが1番頑張っていたわね」

その後、俺は無事に未練を断つ事ができた。